悠久の丘で
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04「本当の孤独」

「本当の孤独ってね」
 それは彼が待ち人を待っているときの発言だったと記憶している。


  *


 まだ広い広い世界の中に自分はいて、
 あのときの痛みは忘れずに彼がいないときに大きくはなるけれど、膿んで熱を持ち膿を吐くことだってなくなった。
 今は彼のおかげで、彼のいた会社のおかげでいつ彼に先立たれる恐怖はあるけれど、いつ自分が先立つ後悔はあるけれど、それでも往々に人間らしい生き方を、今になって漸く始められたように思っていたりする。

 目の前には明るい色の髪の同僚と、美しく紅に染まった世界。

 自販機で買ったのではなく、わざわざ淹れた紅茶のマグカップを傾けてまだ暑い琥珀色の液体を喉へと注ぐ。
 熱さが身体に沁みて、胸の辺りがぽっかりと暖かくなったようだ。
「なんだって?」
 聞き返してきた同僚にふと笑んだ。待ち人が聞き返すときと同じ仕草を彼のなかにも見出してしまったのだ。
「本当の、孤独」
「孤独に本当も嘘もあるかよ」
「あるよ。だって、俺が今ザックスを待っているこの時間は、仮令お前がいなくたってそれは偽りの孤独でしかないから」

 彼は今日、遠い莫の下。

 朝早い月が薄っすらと覗く時間帯に出て行った彼の後姿を見送って、この目の前の同僚にわざわざ遠回りしてもらってバイクの後ろに乗せてもらってきた。
 まだ24時間もたっていないのに、身体中の細胞が彼を求めている。

 彼だけが自分に安らぎをくれたから。

「…今日のクリスはやけに難しい事を考えるな、と」
「今日は両親の命日だからね。何時も以上に、ザックスがいなくて凹んでるんだよ」
 そう言って紅茶をもう1口飲めば、レノは気まずそうに視線を伏せた。

「―――ぁ、ごめん。そういうつもりじゃなかったんだよ、俺はもう大丈夫だし、1人で泣いたりなんてしないから」
 1人で泣けなくなった。
 それは間違いなく彼のおかげだ。
「…………ザックス、ねェ」
「そ。いい子だよ、ザックスは」
 多分、あの子はソルジャーの中でも飛び切り優しいんだ。
 それはもう、会社を裏切った仲間を本気で連れ戻せると信じているくらいに。


 ついこの間から、異様にザックスは落ち込んでいた。
 それは恐らくクラスTst、ジェネシスのせい。多分アイツがこの会社を去り、大勢の仲間を引き連れて、ザックスの敬愛する仲間をも含めて行方不明になってしまったから。
 セフィロスはともかく、あまりジェネシスは好きではなかった。
 アンジールに子犬のように懐くザックスを見るのは心が和んだし、可愛かったのでアンジールのことはある種尊敬の念をも抱いていたのだが。

 ――――――…、でもその3人共から異質の気配を感じていた。

 そしてそれがより敏感に感じられ始めた頃、ジェネシスは此処を去っている。


「ザックスね、今、すごく落ち込んでる」
 自分の目指すクラス1stを半ば信じられなくなってしまったかのようで。
「ザックスが元気ないと、俺も嫌だな……」
 ガラスに額をコツン、とぶつけた。
「ま、こっちはこっちでルー君の監視とか、お世話とかジルのお見舞いとかでそれどころじゃないんだけど」

 つい先日発表のあったルーファウス・神羅の長期出張。その実、彼は現在タークス本部の奥の部屋にて実質的監禁状態に陥っていた。
 そして、その原因となった事件で、我々タークスは1人の将来有望な青年を失いかけている。
「ジルも、早く目ェ冷めると良いね」
 クリスもまた、先の事件で誰が深い傷を追っているのか知っていた。
「レノ、大丈夫だよ。ジルは帰ってくるって、絶対に。タークスだもの」
 レノの顔が泣きそうに歪んで、それを見られたくないのか他所を向く。
 それをあやすようにクリスは言った。



「大丈夫、大丈夫。だってジルは必ず後を追うって言ったもの。あの子、嘘かないよ。戻ってくるよ、そんで―――…」

 恐らく、リハビリなどは死にたくなるくらい辛いものだろう。
 いっそ楽な路を、と進んでしまわない、絶対に、とどうしてはっきり言えたのか、クリス自身あまりよくわかっていなかった。
 ただ、あの自分より少し歳が上の、社歴は自分より僅かに浅い彼を信じているだけだ。

「そんで、絶対にただいまって、言ってくれるよ。待たせたなって、言って、またレノの後を追っかけてくれる」



 クリスはもう1度呟いた。
「絶対だよ、レノ」
 だってそれがジルだ、とクリスは言いきって、
「シスネも心配してる」
 クリスはううん、と首を振った。
「皆、皆、心配してる。ジルは、最初はどうであれ仲間だもん。帰ってきて欲しいし、帰ってくるって俺等が信じてなかったらジルの居場所はなくなる」

 ――――――そしたら、ジルは本当に孤独だ。

「それは本当に孤独な事だよ、レノ」
 クリスは目を伏せた。
 そして彼の同僚が再び自分と同じ地を踏む事を祈った。

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