悠久の丘で
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189 幾つもの死を見届けてきたのにおまえだけは駄目なんだ

 静かに、空気の色を見るように空へと視線を上げて。
 誰にもついて来ないで欲しいと懇願した。
 知っていたのかもしれない。
 懇願したことの旨を伝えて欲しいといった彼は、ただ苦い顔をして、どこか彼が泣きそうな顔をして、頷いてくれた。
 知っていたのかもしれないし、その一端を担ったのかもしれないし。
 でも、そんなことはどうでも良かったのだ。

 彼が死んでしまった

 それ以外の事実なんて、今は目に入れなくて良い。
 状況を理解することも、今はしなくて良い。
 ただ重いカラダを引きずって、元の体へと戻してやらねばならない。

 いい加減目がこらえきれなくなって、その場に腰を落とした。
 軍部の上。見晴らしの良い代わりに、落ちれば間違いなく彼の後を追える場所。
 弱くない風が頬をなで、髪をかき乱す。


 人が死んだからといって、涙が流れるわけではありません。
 それなら誰も人を殺さないでしょう。


「…なぁ? 何でか分からないけどダメなんだ」
 見上げれば青い空の中に透けるような薄い雲。
 陽の光を透してそれはかつての彼の髪の色みたいだと思った。
 頬を拭うのは細い、無骨な骨の翼。
「オレ、泣いたのなんて久しぶりなんだ」
 本人の腕は水を吸った綿のように重く、また、芯の入っていないゴムのようで動かない。
 本人の意思なんて関係なく、綺麗な青空は遠ざかっていく。
 無茶をして、腕を抱いた。片方動いた腕があったから、何とかできた。
「アヤちゃんの所にいるからさ」
 それが意味することを、この軍部においては想像できないものはいないだろう。
 それは士官学校まで及ぶとか言うから、相当のものだ。
「人の死、とか珍しいものじゃないから…」
 上層部に若輩者、と言われて尚権を持つアヤナミ。
「珍しくないのに」
 小さく、肩がはねた。嗚咽からなのか、体が震える。
「涙が出るんだ」
 それでも精一杯こらえようとしてか軍服の裾を握り締め、皺が寄るのも気にしなかった。
 使い魔の姿はどんどん増える。
 主人ではないにせよ、それでも好くものが泣くから増える。


 頭を垂れ、その周りを飛び交う使い魔の姿は、断罪を祈る姿のようにも見えた。

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