悠久の丘で
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68 僕が世界を否定したんじゃない、世界が僕を拒絶したんだ
「…本当に貴方はいろんな事をしてくださいますね…」
そう、黒髪の部下に言われたのは、ある日の昼下がりだった。
体の所々に包帯を巻かれ、顔を隠すように白の布を被せられていた。
「どうしたんだ、急に」
「…いえ、昔のことを思い出しまして」
歯切れが恐ろしく悪い。
はて、そんなにもこの部下を閉口させるようなことをしただろうか。
少し考えてみても、理由になりそうなものは浮かんでは来なかった。
「どれの事だ? 私は沢山改革をしすぎた」
神羅カンパニーを継いで、それから。
年月はなかなか早いものだった。親父が死ぬ前から副社長として経営に携ってきたのだから、社長になったところで大して感覚的には変わることがなかったが。
それでも、『長期出張』扱いは取り下げられた。
「…あ」
「心当たりでも?」
ツォンはため息をついて、労わる様に胃のあたりを撫でると薄い紅の液体で満たされたカップの中に、白の模様を描く。
「長期出張」
柑橘系の匂いを仄かに感じさせるカップを差し出したツォンの手が、小さく動揺したように小指の端が動いたのを見て、確信する。
「…の事が一番に思い浮かんだのだが、案外あっていたようだな」
「他にもありますが」
「だが、先ほどの言葉はそれに向けて言われた言葉だろう」
カップを受け取って、そう言った。
「今だにウェルドの事が忘れられないと?」
僅かに声のトーンがきつくなったかもしれない。
形の良い爪と指で、テーブルをコンコンと叩いた。
あの時に魔晄炉を爆破させなければタークスがあそこに来ることもなく、ウェルドが娘に会いタークスを抜けることもなく、新人が3年もの月日を無駄に過ごすこともなかっただろう。
「主任の事は…、関係ありませんよ」
「どうだか。間があった」
「今は決して」
「はん、今は」
鼻で笑って、何処か拗ねたようにカップに口をつけた。
夏の暑い日ざしに飽き飽きしていたから、気を利かせたのだろう。
飲めばさっぱりとして適度に尾を引く紅茶。
「今は色恋沙汰より、手のかかる方がいらっしゃるので」
「私はこの世を嫌っているのだ」
死ねば少しでも心に残っていられる。いやな事は全て忘れて、綺麗なままで。
死人に勝てない、というのはそういうことだ。
「嘘をおっしゃい。世界に嫌われているんです」
ツォンは、わざとはぐらかしたように答えた。
「貴方は次から次へと世界を引っかき回しておられる…。だから私は貴方のお目付け役として付いていなければならない」
「…胃痛と戦って?」
「そう思うのなら、おやめなさい。私の健康を気遣ってくださるのなら」
ツォンは微笑んだ。この先の答えを知っているものの笑みだった。
「ふん、老後は安泰に暮らせるよう手配してやる」
「それは」
「だから、若いうちは私の手足となる事だ。恩を売っておいて、損はないだろう?」
ツォンは苦笑のような笑みを浮かべただけで、特に言葉は続けなかった。
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