悠久の丘で
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06.堂々とした不届き者

「なぁ、旭。似合うか? 似合うだろ? ほら、素直に可愛いと言えよ」
 にやにや笑いながら唯でさえ短いスカートの端を持ってくるくる回る。
 あんまり回るとその右足太股に付けられたガーターベルトのフリルだけじゃなくて、中の下着まで見えちゃうよ、とか。
 そんな事を伝えてあげる余裕は俺には無い。


  *


 183cm。
 男。
 男子バレー部マネージャー様。

 この条件に全部当て嵌まる奴なんて、コイツくらいしか居ないだろうと思う。
 毎年と言ってもされど2年。
 同じく男子バレー部マネージャーの清水さんと結託して、いつも楽しそうに何かをやらかすソイツを、大地なんかは青筋を立てながらも決してやめろと言わないのは、奴のもっての性格か。
 スガも毎度やらかされるコイツの行為には苦笑を浮かべながら容認。
 容認せざるを得ないとは、俺も思う。
 貴重な3年間同クラだし。

 問題は、
「なぁ、なぁ、旭ってばー」
「…―――あぁ、可愛い」
「心が篭ってねぇ」
 コイツが妙にエロい事。

 心を込めて褒めたら舐めたり、吸ったりさせてくれるとでも言うのだろうか?
 現状として、この女子高生より短いスカートから覗く染み1つない身長の割りにかなり細い脚に頬擦りして、舐めて、吸って、紅い痕でも付けたい。
 昨日くすぐったがりながら、「ぱんつ見えちゃうから! 勃っちゃうから!」と大騒ぎしながら剃ってあげた綺麗な脚。
 この短さのスカートでそれが他の男共に晒されるのが我慢なら無いが、そんな事言ったら(俺にとってはご褒美だが)脚で踏まれる。踏まれる時はせめて素足で、と言う我儘くらい聞いてくれても良いと思う。
「もっと心を込めて!」
 憎たらしいくらい形の綺麗な脚を黒のオーバーニーとやらに隠して、俺の賞賛を強請る。
「んー、可愛いよ、十七夜月」
 言ってももらえないご褒美を自給自足しようと大して変わりもしない身長にも拘らず足元にしゃがみこんで見上げる。
「…あ、ピンク?」
「おー、潔の趣味」
「十七夜月の趣味?」
「レース?」
「そう、デザインとか」
 ぱんつ丸見え。と言えばにやっと笑った十七夜月が下から見ないでもぎりぎりなくらいスカートの端を持って上げてみせる。
 そして、一言。

「流石変態」
「あ、ちょっと蔑み気味でお願いします」

 きょとんとした十七夜月の表情も良い。
 なんだかんだ言って、正直な話、俺は十七夜月に毒されて、きっと高校出てからも毒されたままだと思う。
 少なくとも、ついそう返してしまうくらいには。
「……旭、大分変態になったなー」
 そう言って腕を伸ばして、しゃがみ込む。
 絶対にそれでぱんつが微妙に見えてんの、知ってるんだろうなーとか思いながら、腰に腕を回す。
 全く、此処が廊下だって自覚して欲しい。
「ま、最初の方の純朴な旭も良かったけどな。今の変態っぽい旭も好き」
 にこっと笑う顔は、珍しく偉そうではない。
 そんな十七夜月が可愛いななんて思って、首筋に額を擦り付ける。
 そっと首筋を舐めたら、十七夜月に「あ、こら」なんて言われた。
「…俺も、十七夜月の事は好きだよ」
「ああ、知ってる」
 どやっと笑って、またそれが可愛いなんて思って、俺は大概末期だと思う。
「それで、ケツ触ってる手、どうにかなんねぇ?」
「どうにもならない」
「じゃぁ、撫で擦るのは止めてくんねー?」
「いや、ちょっと無理?」
「お前筋金入りのバカだよな!」
 ちょっと悔しかったから、首筋を強めに吸う。
「あ! ちょ、お前バカじゃねーの!? あー! バカ旭!」
 遠慮なしに殴られる背中が痛い。流石に十七夜月も男なんだよな、なんて自覚して、少しにやけそうになる頬を戒める。
 でも、果たしてこんなに良い匂いのする男はいるのだろうか。
 …いや、確かにいるんだけど。
 流石に183ある女の子は居ないと思う。えっと、あの、日本には。多分。
 と云うか、そんなに沢山は居ないと思う。
 でも、こうして触っている髪も柔らかいし、なんかちょっと甘い匂いもするし、肌は柔らかい。
「ちょっと旭、聞いてんのか?」
 声も低いし。いや、でもこの太股。
 やっぱり昨日のご褒美に剃った後確認の意味も込めて舐めたかったななんて思いながら撫でる。撫でながらむすっとした表情の十七夜月を伺えば、ちゅっと唇を触れ合わせるだけの幼稚なキスをする。
「…十七夜月、何か甘い物食べた?」
 唇も甘い、なんて言えば、急に十七夜月ではない強い力によって引き剥がされた。
「…あ?」
 何、と見上げれば途端、ゴンッと鈍い音を立てて頭突きがかまされ、くらくらする頭を押さえ、前髪に金糸の混ざった短髪を見上げる。こうでもしないと俺が彼を見上げることなんて無いから珍しいけれど、この状況が悪い。
「―――げ」
「げ、じゃ、ないよな、旭さん! 何十七夜月さんにしてるんスか!」
 途端、腕の中に居た十七夜月が生き生きするのが分かった。
「うわぁー! ノヤぁ!」
 遠慮もこれっぽっちもないくらい清清しく、俺を引き剥がしノヤに駆け寄る十七夜月。
 おい、ぱんつ見えるぞ、なんて思っても、十七夜月はあまり気にしないだろう。
「十七夜月さん、セクハラされたら大声出してくださいって」
「うは、ノヤ、ノヤ! 生ノヤいいね!」
 全く話しを聞いていない十七夜月に抱き締められ、腕の中にすっぽり入るノヤ。
「ちょっと、十七夜月さん、聞いてます?」
「ノヤが十七夜月って呼んでくれたら聞く」
「十七夜月さん!」
「へへ、ノヤ、まじ良い匂い…。ノヤぁ、俺とやらしー事しようよー」
 全く話しを聞いていない十七夜月と、それを呆れたように見るノヤ。
 ノヤが入ってくるまではあの位置は俺だったのに、なんて思うと少し胸の辺りがもやもやするけれど、嬉しそうで楽しそうな十七夜月を見るのは楽しい。
「ちょっと、十七夜月さん、聞いてます?」
「ノヤ、スカートの中見たくない? ちゃんと女の子のぱんつはいてるんだぜー、ガーターとか、咥えて外して?」
「―――だから、十七夜月さん」
「俺、ノヤ欠乏症になっちゃうよ!」
 最初からあまり会話になっていない会話だけど、いい加減無視は寂しいって言うか。
「……旭さん、通訳してもらえますか?」
「ノヤ、大好き、だってさ」
 呆れた口調になってしまうのはどうしてだろう。





 俺も十七夜月も変態って括りには違いないと思う反面、あの太股、まだ触りたかったな、なんて思ってこっそり十七夜月の腰に腕を回してみたら、丁度良いタイミングで大地に見付かって耳をひっぱりながら引き剥がされた。


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