悠久の丘で
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62 さようならしかもう、思いつかない

 雨が降って、彼の只でさえ冷えた体からさらに体温を奪っていく。
 彼は黙れば良いのにやたらと喋る。黙ってれば少しは体温ももちそうな物なのに話すから段々と冷えていく。
「…ザックス」
「クリス、ごめんな?」
「話すな」
「本当にさ、俺、帰る気だったのよ? ここまで逃げてきて、クラウドも連れて来て―――」

 そうしたら、またあの時のように4人で一緒に、あの頃に戻ったみたいに、

「喋るな、馬鹿ッ!」
「…ごめん、無理」
「却下」
「泣くなよ」
「泣いてない」
 まだわずかに暖かい手が頬を拭う。指先に固まった泥が、土が、頬を擦って少しだけ、痛かった。
「泣くなよ、お前の表情は全部好きだけど笑った顔が1番好きなんだからさ」
 指先が冷たくて、触れるその手を自分の手で包んだ。
「死ぬな、ザックス」
「死にたいと思ったことは沢山あるけどさ、お前と一緒に住み始めてからは1回しかないよ」

 ―――1回、ニブルヘイムで実験体になってる間はずっと思ってたけど、その1回だけだ。

「なのに、俺、今―――死ぬんだなって思ったらさ」

 培養液
 蒼い、緑色の…、
 モルモットを見る目、
 親友、

 親友―――…、
 残してきた、人、

「なんか、すっげェ嬉しい」
 息を呑んだ。
「だってさ、残してきたクリスがいるから死にたくなくて、だけど俺が死ねばお前は解放されるから死にたくて」
 ザックスは笑んだ。

「俺、クリスに看取られて逝くんだって思ったら、すっげェ嬉しい。ずっと1人で死ぬんだと思ってたから」

 暗い所で、
 あの人が今どこで何をしているのかも知らなくて、
 大好きなのに、
 何も残せなくて、
 悲しませるだけで、
 何時死んだとか、
 そんな事1つもわからないで、

 ―――そんな所で死ぬのだと、半ば覚悟していたから

「クリス、キスして」
「―――…」
 冷たい頬。
 血でべっとりと濡れた綺麗な黒髪と、頬を彩る命の水と、何よりも蒼い、瞳。
「あ―――ァ、もう、」
「ザックス!?」
「もう、逢えなくなるのか―――…」
 そんなの嫌だ、と小さな声で聞こえた。
「俺だって―――…、俺だって嫌だ」
「大好き」
 息を呑んだ。

「―――ザックス」
 小さく、ぽつりぽつりと言うその言葉すべてが遺書のようで、遺言のようで、聞きたくない。だけれども、耳を反らせない。

 嗚呼―――、この言葉は俺が聞かなければならないのだ。
 なぜなら、彼が俺の今後のためだけを思って言っている言葉だから。
 こんなに重いのなら、こんなに寂しいのなら、
 いっそあの時死んでしまえばよかった。

 この世で1番大事な彼の躯が、どんどん熱を失っていく―――。

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