悠久の丘で
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俺のモノ


 気付いたら決着はついていたらしい。


  *


「オハヨウゴザイマス」
「―――…おはよう?」
 硬い声が降ってきて、誰かと思った。反射のように挨拶を返し、そして声がした方向を見て首を傾げた。
「船長何してるんですか」
「クリスを堪能してる」
 ふふん、と何処か自慢っぽく答えた船長に抱き上げられたクリスを見上げ首を傾げる。
「何してるんだ、クリス」
「…俺もよく分かんない」
「取り敢えず、降ろして貰えばどうだ?」
「ペンギンからも言ってやって」
 俺が言ってもダメだった、と言うクリスはただでさえ身長が高い方なのに見上げる程高い位置にある頭。船長が抱き上げているからそれも大分高い。
「どうしてこうなった」
「ローが甘えん坊だからじゃねェ?」
「そりゃ知らなかった」
 もう何年共に海に出ているかは覚えてないが、そんな回答、初めてだ。
「俺は可愛いのか?」
「可愛いだろう?」
 きょと、と首を傾げるクリスに、やや納得いってないながらも納得したような顔で相槌を打つ船長、マジ正気に戻れ。
 もふもふ好きで小さいころころした物が好きで、転んだ子どもを見ていただけで泣かれた奴の台詞じゃない。
「クリス」
「うん?」
「誤解を与える発言は慎むべきだ」
 ただでさえ悪い目つきが、人を殺せるくらい凶悪になる。
「そうか? 可愛いと思うけどな、俺は」
「お前は特殊だ」
 ばっさり言ったらクリスが少し寂しそうにしたけれど、敢えて無視。じーっと見てくる、上からなのに全く威圧感を感じない視線も、ぐいぐい引っ張られたが取り敢えず気にしないことにした。
「なんだよ、可愛いじゃんか。大人しく寝て、小さな寝息立ててる所なんか最高だぞ? ぎゅーってしたくなっちゃうぞ」
 ムスッと頬を膨らませる姿が可愛いと思う。あれだけ上背があるのに威圧感を与えず、何故か庇護欲をそそられるのはどうしてだ。頭に前提として戦えない、と入っているからだろうか。
「―――クリス」
「あいあい」
 脳裏にクリスが以前枕を貰いに来た事が過ぎる。
「ぎゅーってするのか」
 とうに共に寝ているのは承知。時折酷く引き剥がしたくなるが、それもクリスが嫌と言わぬ前に口を出す事でもないように思える。そうでなくても船長が背後からまるで襲うようにクリスを抱きすくめて寝る姿を毎度見ているのだ。
「ん、する。ぬっくぬくで素敵だ。それにローの匂いも好きだしな」
 ばっと嬉しそうに微笑み船長を抱き締めるから、船長がにやける。
「えっ! クリス本当に?」
 驚くシャチに頷いて見せると、不思議そうな顔で頷くクリス。
「あぁ。何か変か?」
「普通は大分変だ」
「え、でもシャンクスも、エースも一緒に寝てるぞ」
「変だ」
 そこからか、と溜息が出る。しかしシャチが面白そうな顔をした。
「クリス、じゃぁ俺と寝ようぜ」
 酷く上機嫌に告げた言葉がそれか、と殴ってやりたくもなったけれど、船長を羨む者同士、殴りはしなかった。

「良いぞ」
「ダメだ」

 全体に?マークが浮かぶ。
 クリスも不思議な顔をする。
 同時に相反する言葉を聞いた気がする。
「…俺は良いぞ」
「ダメだ」
 慎重に言い直したクリスの言葉によって反論していた否本人がムッとした顔でクリスを見上げる。
 それに呆れた表情を返すクリスはある意味偉大だ。
「―――ロー」
「お前は俺のものだと言ってるだろう」
「一緒に寝るくらい良くねェ?」
「減る」
 減らねェよ、とクリスが苦い顔で言う。
「何か? 俺は消耗品か」
「そうだ」
 どやっとした顔で言い切る船長をどうすれば良いんだろう。頭と顔だけは人並み以上に良かったと思っていたが、これでは顔だけになってしまう。
「へー、知らなかったー」
 そう、半ば棒読みで言って、まだ結果を待っていたシャチを見たクリスはにっこり笑った。
「ンじゃ、シャチはあれしような、一緒に昼寝」
 今と何も変わらないけど、と頬を掻く。
「ん」
「ぎゅーってして寝ようぜ、きっとぬくぬくだ」
 嬉しそうに笑う所がまたクリスを好きだとか思う要因なのか。
 それにシャチも滅多に見られない無邪気な(に見える)笑みを返す。
「そうだな、へへ楽しみ」
「…昼寝か」
 元々甲板で昼寝をするベポの周りに集まって読書する船長やら、午後をのんびり過ごすクルーは多い。その光景を思い返す。
「ペンギンも一緒に昼寝な」
「…は?」
 にこやかに言われたクリスの言葉がちょっとよく分からない。
「え、ペンギン、昼寝すると夜寝られないタイプ?」
 それなら仕方ないけど、と言うクリスは、昼寝をどれだけ万能なものだと思っているのだろう?
 確かに、シャチや船長のように素直にねだる事など出来ないのだから、嬉しいのだが。
 ―――嬉しいのだが。
 それでもシャチのにやにやした顔と、船長のお前もか、みたいな視線は頂けない。
「昼寝はあまりしない」
 途端にしゅんとするクリスと、隠そうともせず嬉しそうに口を歪ませる船長。
「―――が、たまになら良いだろう」
 嬉しそうな船長に反抗してみたくて、残念そうな様子を見せるクリスに申し訳なくなったから言葉を続けたら、シャチがまたにやりと笑った。
「本当? 約束だぞ、ペンギン。ぎゅーってして寝るんだからな!」
 ビシッと指を突き付けるクリスの表情から、どうやら大層お気に召したらしい事を知る。
「……」
 一方、船長の機嫌は降下するばかり。
 そんな時に、
「…なぁなぁ、ロー。降ろして」
 なんて背を丸めながらその頬にキスをしたクリスは、当然ながら目に見えて強く抱き締められた。
 機嫌が悪い船長からクリスを取り上げる事は、最早不可能に近い。
 機嫌の良い船長から取り上げる事も不可能だ。

 イチャイチャしているように見えなくはない状況なのに、全くそうは見えないのは何故だ。

 さっとシャチへ視線をやると、軽く肩を竦め、知らない、と返ってきた。
「…な、ロー。ペンギンとこれからどうするのか話すんだろ? もう1人で行くとか言わねェから」
「ダメだ」
「わかった、後ろからハグしてて良いから下ろせ」
 少し見ない内にクリスは大分交渉上手になった気がする。その成長が、その分船長が掛けた迷惑に比例していそうで、つい目を逸らした。
 申し訳ない、と思う。
「……」
 それに無言でじっと見上げた船長の表情を見て、クリスは肩を竦めた。
「ちゅーもしてやる」
 溜息と共に吐き出した譲歩案を、船長は更に付け足した。
「させろ」
「…ちゅー?」
 深く深く頷く船長に心なしか苦い顔をしているクリス。
「―――船長」
 流石に男として、人として、どうなんですか、と言おうとした所でクリスが頬へキスをした所が、妙にゆっくり映った。
「後で、な。後で。さぁ、下ろせ」
「…っち」
 舌打ちしながらも抱き上げたクリスを下ろす姿をじっと見てしまう。
 「俺に命令するな」が口癖だった船長が、大分丸くなったものだと感心すると同時に、クリスのおんぶお化けと化した船長を見た。
 元々クリスが背が高い方だからあまり船長の姿は見えないが、べったりくっ付いているのは分かる。
「…よし、良い子だ、ロー」
 クリスの腰に腕を回し背後から密着する船長を、何故だかクリスはあまり気にしていないようで、それが余計気になってしまう。

「それでペンギン」
「…あ、あぁ」

 ついじーっと肩の辺りの船長を見てしまう。他は気にならないのかとさっと視線を移動させると、シャチが、サングラス越でも羨ましそうに見ているのが分かった。
 クリスに話を振られながら頭の片隅で真剣に考える。

 今後、この船ではコレが定着していくのだろうか。
 もしそうなら、迂闊に敵襲にあいたくない。


  *


「悪いけど、マリンフォードに行きたい」
 そう言ったクリスの声は、悪いと言っているだけあって、申し訳無さそうだった。
 そんな顔しなくて良いのに、やら、そんなんクリスが言うなら仕方ねぇな、やら色々浮かんだが、ペンギンがぽんと頭を撫でたのを見て俺まで言わなくても良いかな、なんて思った。
 まだ1週間も経たないけれど、船長が好きなモンは大抵俺達も好き。
 クリスも例に漏れず。
「マリンフォードって何だっけ?」
「海兵達の家族が主に暮らす、海軍本部がある島で、此処から直ぐの所だ。船で1時間も掛からないらしい」
「…あれ、そんな近いのか?」
 コレを見越して情報収集でもしていたのだろう、ペンギンには頭が下がる。
「近いな。此処からなら中継を見てからでも間に合う」
「―――中継?」
 首を傾げたクリスと俺。それに呆れたような視線を返したペンギンは、苦い顔をした。
「お前ら…なんの為に新聞取ってるんだ」
「新聞読まねーもん」
 習って頷くクリスと顔を見合わせ、再度頷く。その頭を丸めた新聞でクリスと揃って叩かれた。
「読め。特に今回はクリス」
「…う、あいあい」
「お前もだ、シャチ」
「…げ、あいあい」
 叩かれ再び顔を合わせると、クリスは昨日ぶりに笑った。
 その顔を見て船長を尊敬し直す。
 きっと船長でなければ、クリスがまた笑う姿なんて見られなかった筈だ。
 純粋に凄いと思って、何処までも付いて行きたいと思って、微かに感じた苦い感情に気にしないフリをした。
「良いか」
 そう言うペンギンが丸めた新聞で肩をぽんぽん叩き、苦い顔で船長と言う名のお化けがくっ付いたクリスを見る。
「明日、海軍は此処シャボンディ諸島で火拳の処刑を中継する事を決めたらしい。マリンフォードに住む家族らも移動させられてるのは街に出りゃわかる」
 特設会場もあった、と言うペンギンと一緒に細々した買い出しに出た筈のベポは甲板での昼寝の時間だった。
「―――…あんまり良く知らねーんだけどさ、海賊の処刑の中継ってそんな頻繁に有るものか?」
「処刑自体そうある話じゃない。ましてや中継なんて異例中の異例だ」
「…異例」
 ふと真顔で伏し目がちにしたクリスが呟いて、俺たちは顔を見合わせた。
「今、エースを公開処刑にする意味…か」
 苦い顔で呟いたクリスには、まるで答えを知っているような諦めともつかない表情で溜息を吐く。
「何か心当たりがあるのか?」
「んー…、」
 曖昧に笑って視線を上げたクリスは、肩を竦めた。
「エース自身があんまり好きな話じゃねぇんだけど」
 そう言って躊躇いがちに口に出すクリスは苦く笑った。
「父親がゴール・D・ロジャーだから、かな。白ひげの家族になってから、海軍は手を出せなくなったけど、今回は」
 黒ひげの奴がエースを手土産にしやがった。
 苦く低く呟いて拳を握る。その手を船長が開かせつつ頬に唇を落とした船長はそのまま開かせた手にも唇で触れる。
 火拳の父親がかの海賊王、ゴールド・ロジャーと言う情報よりも何よりも。
 口付けたそれを羨ましいと思ったのは内緒だ。
「…ロー」
「お前は髪の毛1本、脚の先まで俺のモノだ。許可なく傷付ける事は許さん」
 至極当たり前な顔をして言うから、クリスがきょとんとした。
「良いな、俺の許可なく傷付けるなよ。文句は聞かねェ」
 そう言って船長はもう1度三日月型の赤い痕が残る手のひらにキスをする。
「え、ロー、ま、ちょっと」
「反論は聞かん」

 船長の我が儘スキルの発動。

「え、でも」
「他に言うなら口を塞いでやる」
 どやっとしたどこかワクワクした船長の反論に口を閉ざしたクリスに、残念そうな表情を見せた船長はキスできなかった腹いせにかぎゅっと抱き締めた。
「……何だ、言わないのか」
「ロー、セクハラだ」
「愛情と言え」
「冗談」
 それでもぽんぽん頭を撫でる手は優しい。

「―――はぁ、ローのせいでなんかピリピリすんのバカらしくなってきた」

 言葉でどう言うよりも、その声色が全て。
 最初の挨拶よりも柔らかく、今までもどれよりも甘く。
「明日の中継、見てどうするか決める」
 海軍の狙いが白ひげな以上、すぐ殺されりゃしないだろ。
 そう言い手をひらひら振るクリスは肩を竦めた。


  *


 そして賽は投げられる。


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