悠久の丘で
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43 たぶん、止める人間は誰もいなかった

 黎深の機嫌が何故か悪い。何故だろう?
 とりあえず冷静に観察してから首を傾げる。
「……昨日苛めたわけでもねェし、絳攸が不良になっちまったわけでもねェし」
 ああでもない、こうでもないと指を折りながら考えるのだがしっくりと当てはまるものが見つからない。

 あれ、マジで何でだ? 黎深って結構分かりやすい性格してるぜ?

 邑榛は悩むように形の良い細い眉を寄せた。廊下の手すりに腰掛け足を庭の方へぶらぶらさせるがまったく原因が思い浮かばない。
 さりげなく主人に向かって失礼な事をさらりと思っている家人の姿を、絳攸は遠くから見つけた。そしてその目標を見失わないうちに足早に駆け寄り、そして声が十分届く範囲に入ると速度を落とした。
「あ―――…、邑榛」
「あ、おはよ、絳攸。…寝癖が少し付いてるな。さてはお前、昨日寝台で寝なかったな?」
 振り向いた邑榛はすでに髪を高く結い、だが布で包むようなことはしない。以前聞いてみた所、「髪が長くてしかも黎深が切るなって言うから纏めるの、めんどうなんだよ」と言っていた。
「絳攸ー、お前若いんだからちゃんと寝ろって言ったよな?」
 微笑んでいるのに何故か怖い。ペチペチと頬を撫でられ整った顔がとても近くて、つい、黎深様の存在を探してしまった。
「あ…いや、それはちょっと」
「言い訳は聞かないぞ? いくら黎深がいじめっ子だからっていっても家に帰ってきてまで仕事しろなんて言わねェもん」
 邑榛は言わせない、とは言わなかった。
 ―――それと云うのも、過去に黎深様が珍しく仕事を持ち込んで夕飯の席に出なかった際、邑榛が最上級の怒りを持って黎深様の飯を1週間以上作らなかったことによる。
「…昨日は本を読んでいたんだ」
「本? なんか新しいのでも出たのか?」
 邑榛は多少なりとも興味をそそられたように、見上げる。
「あァ、楸瑛から。…そういえば確か藍家当主殿たちから邑榛宛てに本が近日中に届くとか…」
「本、届く? マジで? わァ、雪たち気が利くじゃんっ、俺、丁度最近暇だったんだよね」
 邑榛の仕事は決して増えも減りもしないはずなのだが――しかし邑榛は家人としての立場上紅本邸でも紅別邸でも1番の仕事量が与えられているはずである――さらりと暇な時間が多いと言い切った。そのせいだったか、最近益々菜作りの腕が上がり、そして目に付いていた邸の至る所が作り変えられてきた。

 1番変わったことといえば李の木が増えたことだろうか?

「ンじゃ雪にお礼の手紙でも書くかー。楸瑛は持っていってくれそう? ぁ…無理だな、劉輝のお守があったか。………じゃ、龍蓮」
「…龍蓮なら、先日邵可様のところへ来たと……」
「―――邵可のところ…、ならきっと家にも来るな。絳攸、そっちに来たら夜中を回った頃なら毎日暇だって伝えておいてくれ」
 その言葉にぎょっとした。
「邑榛!? そうしたらお前は何時寝るつもりだッ?」
「大丈夫。朝の暇な時間を睡眠に当てるから」
「邑榛お前確か黎深様に1日の睡眠時間は5時間以上って決められてるはずじゃ…」
 此処で多少でも悪寒がしなかったと言えば嘘になる。
「ぁ、コラ。しー。内緒なんだから大きい声出言うなよ、ばかァ」
 それに人差し指を立て可愛らしく睨みつけた邑榛の後ろに養い親を見つけて絳攸は青くなった。
「………………邑榛」
「なんだよ、絳攸顔色悪いぜ」
 悪くなら無いわけがなかった。
 そしてゆっくりといつもの3倍以上気難しそうな顔をした養い親は邑榛の肩を叩いて低い低い声で耳元で囁いた。

「――――――邑榛、私は確か5時間以上の睡眠時間を1日の内に取れと言ったはずだが?」
「…なんで黎深が………」
 後ろをぎこちなく振り返った邑榛は何時もにして見れば珍しい引き攣ったような笑みを浮かべて、ゆっくりと黎深のほうへと振り返った。
「それより私の問いに答えて貰おうか、邑榛」
「………いや、だって俺最近目ェ覚めるの早くてさ」
「目の下に薄っすらクマを作ってる奴が言う台詞とは到底思えんな」
 邑榛は「う”」と小さく呟いた。
 そして黎深様の視線が俺へと降りてくる。黎深様は特に感情の無い瞳で言った。

「絳攸、邑榛を寝室へ閉じ込めて来い」
 邑榛はぎょっとしたように目を見開いたがそれも仕方ないことだと思った。

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