悠久の丘で
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首輪は何色がお好き?


 船が上昇。
 久しぶりの海上に、海が好きな我々でも歓声が上がる。
 なんて事はない。
 あまりにも海中を見上げて恍惚とするクリスに嫉妬した船長が根負けしたのだ。


  *


「はぁ」
 溜息を吐いたシャチを睨む。先日、と言う程最近ではないが、大将が踏み入ったこの島と言うには奇跡に近い確率で島となっている諸島。その際麦わらのせいで海軍と追い掛けっこをした事は記憶に新しい。
「煩いぞ、シャチ」
「だって」
 ぶすっと膨れて見せたシャチは、トレードマークのキャスケット帽は被っているもののサングラスはしていない。
「クリスと別行動なんて」
 心配だ、と言う言葉が続き、それには大きく頷かざるを得ない。ベポが一緒だとは言え、アイツは戦えないのだ。
「それに普段あるのに今日だけないと変だよ」
 くいっと今日はないサングラスをずらす仕草をする。
「仕方ないだろう。シャボンディ諸島でジョリーロジャーを背負うのはまだ危険すぎる」
「でもー」
「船長…が、大人しくしてるかは別にして、他のクルーにまで危険が及ぶからな」
 揃いのつなぎは船に置いてきた。くれぐれも目立つ事はしてくるな、と航海士にも釘を刺された。
 確かにシャチの言う通り、普段身に付けているものを置いてくるのは、不思議と心許ない気すらする。
 シャチはキャスケット帽が残っているが、俺に至っては目立つから、と帽子も別の物に変えられた。普段耳当てで守られている耳を風が撫でていく感触が慣れない。
「…おい、随分な扱いだな」
「争う気がさらさらないなら撤回しますが?」
 文句を言う船長も、クルーにトレーナーと帽子を剥がれた。これで刀を持って居なければ、とも思うがそれは無理だろう。俺もシャチも使い慣れた武器は隠し持っている。
「…一応、ない」
「へぇ?」
 片眉を上げて見せると後ろでシャチが笑った。
「船長、出掛けにクリスに、揉め事起こすなって釘刺されてたから」
「あ? 余計な事を言うのはどの口だ?」
 クリスに言われた手前能力を使おうとはしなかったが、その代わり船に帰ったらお仕置きが待っている、とでも言うような笑みを浮かべた船長は、久方ぶりに我が海賊団のジョリーロジャーの入らぬ服を着ていた。
 クルーに剥がされたのだから当たり前だが、何故だか改めて顔立ちが整っている事を認識する。あれよあれよと言う間に飾り立てるようにクルーから渡された服を渋々着た船長は、最近クリスのおかげでそんな事、すっかり忘れ果てていたが、確かに目鼻立ちの整った美人だった。
 ―――顔立ちが幾ら整おうと、新入りのクルーを抱き枕にして、あまつさえ痕も付けてしまう船長だから、その美麗さも霞む。
「クリス、元気かな」
 少し悄げたような様子でぽつりと呟くシャチの頭を、何故だろう、ぐしゃぐしゃに撫でてやりたくなった。
「今朝会ったばかりだ。大丈夫」
 多分、と最後に付け加えなければならないが。
 本人に問題点がそれ程ある訳ではない。しかし、戦闘能力が期待できない事と、本人の容姿、人柄がイマイチ大丈夫と言い切らせない。
 再度言うが、本人に問題点はない。
「そんなに心配なら、買い出しをさっさと終わらせて迎えに行けば良い」
 ふん、と何でもない風に言う船長ですら少しそわそわしているように見えるのだから、もう末期だ。
 クリスが来てから数日。長くても1週間程で、これ程までに浸透した。
「アイアイ、船長」
 別に殺伐としている訳でもない。
 居心地が悪い訳でもない。
 シャチは信頼出来る仲間で、船長は尊敬し敬愛する我が海賊団のリーダー。
 それでも、ここ数日ずっと隣にいたクリスがいないと物足りない。


  *


「なぁ、ベポ」
「なぁに、クリス」
 漸くクリスもお揃いになったつなぎはキャプテン達と同じ理由で船へ置いてきた。つなぎを脱いだクリスは、クルーになった時に着ていた服、…ではなく、何故か有志のクルーから本日の服を渡されていた。
 その中に楽しそうなシャチや、口を挟むキャプテンもいたけれど、おれにはよく分からない。
 元々長身のクリスは長い脚を組んだ。
「いつも、こうなんか?」
 細身のジーンズにゆったりとしたシャツ。薄い布が何枚も重なっていて、動く度にそれが少しずつ形を変える。首から鎖骨、首のラインが綺麗に見えて良いとかなんとかキャプテンが言っていた。薄いから腕は細さがわかる程度に透けていて、時折風で膨らんではばたばた言う。最初はそれにはしゃいでいたクリスも、40番代のGRに着いた頃には慣れたようだ。
「なにが?」
「これと、それ」
 テラスの華奢な椅子に腰掛け指さすのはおれとクリスの服。
「いやー、こんな新入りに心尽くしの贈り物なんてしてくれて、嬉しいんだけどさぁ」
 間延びした言葉はいい加減辟易しているからなのか。
「俺もこういうの、嫌いじゃないし?」
 ズーッとクリスらしくもない、水分のなくなったグラスから吸い上げる音。溜め息を吐いて、鬱陶しそうに掻き上げられた髪はさらりと落ちる。
「でも、いい加減ちょっとキレそう。俺穏便で通ってるのに。もう、なんなんだかなぁ」
 はぁ、と溜息を吐くクリスにケーキを刺したフォークを向ける。
「はい、クリス。あーん」
「…あーん。ベポ、ありがと」
 もごもごしながら少し膨れて礼を言うクリスが可愛い。
「おい、無視するなよ、ねーちゃん」
「はぁ、早くローとかペンギンとかシャチとか帰って来ねーかなぁ。本当に」
 しきりに溜息を吐くクリスの後ろ。
「こんな所じゃなくて、もっと良い所連れて行ってやるからよ」
 先程から入れ替わり立ち替わり知らない人がクリスに声を掛ける。最初の1人の時にクリスから気にするな、なんて言われたから2人でケーキを摘んでいるけれど、時間が経つ毎にクリスの顔が船で見たことがないくらい不機嫌になっていく。
 皿に残っていた最後の1切れをぱくりと口へ。
「はぁ、またケーキ食べたくなってきた」
 むすっとするクリスがテーブルに肘を付いて溜息を吐いたタイミングで、クリスの後ろから皿に乗ったホールケーキが差し出される。
「ん?」
 どっさり乗ったフルーツのタルト。外側のさくさくしそうな黄金色のタルト生地からふんわりとバターの匂いがした。


  *


 実際になんでそうなったのかはあまり記憶にない。でも、間違いなく、俺を挑発したペンギンの言葉が原因だろう。
 こんな事をして、本人に見付かったら、3人ともアホだなんて言われるに違いない。
「絶対黒」
「赤」
「何度言わせる気だ。金」
 シャボンディ諸島は世界中の旅行者が集まる島。世界政府からの許可が出るまで壁の向こう側へは行けないのだからそれも当然だ。普通の旅行者は許可が出るまで、この島で観光をする。
 それ故様々な物が販売されている、ショッピングモールが存在する。
 その中のある店。
 買い出しが終了した俺達が何故そこに立ち入ったのかも記憶にない。
「…船長、金はない」
「黙れ」
「だってクリス相手じゃ金は色が被るし、色が負けるって」
「合わせたと言え」
「シャチの意見に賛成」
 あーでもない、こーでもないと男3人が額を突き合わせて覗いているのは1つのケース。
 基本飾りっ気のない集団には些かハードルが高かったが、それでもアレが俺のものだと言う証が欲しい。丁度、先日ペンギンに挑発された事だし。
 何色の首輪がお好きですか、なんて、クリスに言わせるから、それ以来少し楽しみになってしまった。あの、色の白い時折俺の付けた赤い鬱血が散る首筋に、俺のものだと証を刻む行為。クリスに禁止されてから夜悪戯する事は止めた。赤く色付かない程度でなら戯れに唇を寄せるが、新たに付ける事はしない。
 日々薄くなる痕に不愉快さを感じても、クリスに触れられなくなる可能性を考慮した。
「ペンギンの赤は兎も角、金は…クリス、髪も色強いから」
「色素は殆どないのにな」
「光があたるときらきらして綺麗だよな」
 2人が嬉しそうに口々に言う言葉に苦い顔で腕を組む。もう、かれこれ1時間くらいこのケースの前から動けずにいる。次、いつ陸に上がって来るかもわからないからどうしても手に入れたいのだが、同時にクリスが気に掛かる。
 以前紛れもなく、此処で、売られていたクリス。
 ベポがいるから人攫いに会うこともないだろうが、それでも不安要素は拭えない。アレは不用意に目を惹き過ぎる。
 ましてや、今日着せた服は更に目を惹いている事だろう。
 あの抱き締め心地が良い身体があと少しでも筋肉がついていれば。抱き締め心地は多少悪くなるだろうが、あれほど中性的には見えまい。身長はあるのにあの容姿だから目立つ。
 アレに群がる男なんてものを見てしまったら、クルーが止めるのも構わず能力でバラバラにしてしまいそうだ。
 そうなったら、クリスは一緒に逃げてくれるか。考えてもその答えはわからなかった。
「船長、確か落ち合う為にクリスとベポに電伝渡してたでしょう。それでクリスに決めて貰えば?」
 何よりクリスが着けるのだし、と言うペンギンはこの言い合いにとうに飽きたのだろう。自分の中でそれが1番クリスに合うと言い張る俺達は、誰も折れないと知っているから。
「クリスが気に入るかは別、か」
 そうだった、と手を打ち鳴らすシャチ。
「……」
「船長、電伝。クリスに合流するのが遅くなると、余計変な虫が付いてるかもしれないし」
 シャチが大きく頷いた。みんな揃ってクリスをどう思っているのか滲み出る返答だと思う。
「…っち」
 ポケットから眠そうに目を閉じた電伝虫を取り出してクリスに掛けた。流石俺のクルー。言っている事は、正論。
 電伝虫が繋がって、少し間延びした声が聞こえた。
『アイアイ、此方クリス』
 後ろが何やら騒がしい気がするが、聞こえた声は紛れもなくクリス。
『…ん? あ、ローじゃん。なぁに、ロー』
「…あー、なんだ。お前に1つ聞きたい事がある」
『何?』
 不思議そうに問うクリスを、途端に抱き締めたくなった。そして誰が見ている前でも良い。抱き締めて首に頬を擦り寄せて、嫌がる声も聞かずに俺の手で痕を付けてやりたい。
「虫除けを買う。お前が赤、黒、金の中から選べ」
『は、虫除け? 俺が選んで良いんだな? ンじゃ黒』
 少しも悩まず選択された色が俺の物でなくて悔しい、とは、クリスには言っても分からない事だから言わなかった。
「…なんで黒なんだ」
『んー、俺にない色だから。だから黒。それじゃダメ?』
 なんか不機嫌、いや、悔しそう…だけど、と聞こえる声に舌打ちをしたくなった。
「今どこにいる」
 すぐに会いたい。
 ”虫除け”を着けるだけ何て事しないで、一生誰にも見せず、俺1人だけで囲っておきたい。
 それをしないのは、それではあの日クリスを見ていた金持ち連中と一緒だと、それだけが理性で押し留めているからだ。
『43番GR。ベポと一緒にケーキ食ってる。来ればすぐわかると思うぜ、ギャラリー多いから』
 自由に笑って、俺に笑いかけるクリスでなければ意味が無い。
「すぐ行く。待ってろ」
 すぐに答えを返せば、クリスが笑った。
『アイアイ、船長』
 脚を鎖で縛り付けて這いずり回して、重苦しい鎖で雁字搦めにしたクリスなんて。
 即刻切れば、にやにや笑うクルーに向き直る。

 あの一抹の恐怖すら抱く、金色で真っ直ぐになんて見てくれない。

「…何だ」
「いや? クリスはクリスだなって安心した」
「よくわかってるなって」
 それにしても、ギャラリーって何だろう? と首を傾げるシャチを横目で見ながら、クリスの選んだ”虫除け”を早々に店員に言いつけ購入する。
「嫌な予感しかしないな」
 それでも、こうして今は俺の隣にいるのだと、目に見えてわかる証を付けたいと思うのは許して欲しい。
 そんな事で、あの金色が変わらないで欲しい。
 こんなに欲しいと切望したものはない。
 切望して手に入れられるものを切望したことなんて、ない。
 あれは俺が切望して、あれも俺が欲しいと言ってくれたある一種の奇跡。
「さっさと回収しに行くぞ」
 ペンギンの言葉はきっと合っているだろう。
 まったく、能力を自重できる自信がない。
 クリスに群がる人間を片っ端から切っていけたら、少しは気が済むだろうか。
 先程実感した欲求よりも、切に思う。
 商品を受け取って、出口まで歩く際に、クルーを見た。
 ペンギンは特に変わった所がないように見えたが、目を細めるシャチが、戦闘中にしか見せないような笑みを浮かべていた。
「アイアイ、船長」
 それを見て、少しだけ昂った感情が落ち着く。
 クリスを切望している人間が身近にいる事に熱が少し冷める。
 アレはきっと、どこまでも切望される人間。

 腕を手折り、脚をもいで首に巻いた鎖でクリスを引っ張ることをしなくて済む事が、きっとあの金色を正面から受け止められる権利なのだ。


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