悠久の丘で
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我儘


 2億で手に入れられるなら、安いもんだと思った。
 冥王も言っていたが、あの金額で競り落とせたのはかなり運が良い方だろう。
 結果、俺はその2億すら払わず、思いがけない幸運でアイツを手に入れた。
 それはわかってる。
 でも、あの金色に映れないなんて我慢ならない。


  *


 朝からずっとクリスはお気に入りの窓から動かない。
 新入りとは言え、普段の雑務も特にない。何人も乗っているが、床にうっすらと埃が積もるのもまだまだ先。潜水中だから1番汚れる甲板は水の中。やる事と言えば飯の仕込みくらい。それすらも料理長の手で丁寧に済まされている。
 目的すらなく、大将や海軍から逃れるために潜水しているから、海流に流される船の指針を時折確認するくらい。
 潜水していなければ甲板で陽を浴びながら昼寝をしたり、身体が鈍らないように運動をしたり、船長のように本を読んだり。
 買い出しは先日シャボンディ諸島で済ませてしまったから、本当に暇だ。
「クリス、ずっと見てて飽きないのか?」
 そう問えば、金色にちらりと俺を映してから深い青に再び魅入る。
「全く飽きない。凄いな、こんなに深くから見上げた事ないから、珍しいのかもしれないけど、すげー綺麗」
 目を煌めかせてそう感嘆と共に息を吐く。すっかり見慣れてしまった海の色なんて特に気にも留めていなかったが、クリスが来てから暇になればクリスと見上げる時間が明らかに増えた。
 だから、今みたいにクリスを囲んで俺やシャチ、ベポが集まる事もしばしば。
 クルーはもうそれに慣れたようだ。
「クリスが一緒だと暖けぇ」
 ぬくぬくとクリスで暖を取るようにもたれ掛かられるのは、今日はシャチ。船長がベポに寄りかかってする読書がお気に入りな理由が垣間見えた気がした。
「シャチもペンギンも暖かいよな。ベポは温いし肌触りが良い」
「お前はもっと肉を食え」
「食べてるー」
「もっと食え」
 溜息しか出ない。男同士でなにやってんだなんて言われるかも知れないが、もたれ掛かるクリスを1番安定して支えてやれるのは後ろから抱き締めるようにして支えてやる事だ。背を壁に付けて、意外と此方にも負担がない。
 そうして、意外と着膨れるクリスが発見された。
「お前は細過ぎだ」
 男としてどうかと思うくらい、肉がついていない。総じて全体的な筋肉も俺らより少ないのだろう。
「だって、食べても肉つかないし」
「…料理長に相談だな」
「んー、まぁ、こうしてるならこれでも良いけど」
 取り敢えず確かめるように腹の前で手を組むシャチの胸に頭を押し付けるようにして見上げるクリスの目は勝ち誇っていたから、俺はシャチを睨む。
「でも、俺達海賊だからなぁ。せめて自分の身は守れないと」
 ん、いい匂い、と髪に鼻を寄せるシャチに、今度は俺が勝ち誇る番だった。
 決してそういう事ではないのだが。
「―――…料理長に頼む。そんで、外出れるようになったら運動する」
 軽く膨れながらも正論と思ったのか、クリスはあっさり頷いて、その頭をベポとシャチが撫でた。新入りは素直だ。
「そうそう。クリスの使い易い武器も探さなくちゃな」
「あ、俺、刀が良い。刀は筋が良いって褒められた」
 珍しくお兄さんぶって見せるシャチに、視線を窓へ戻したクリスが笑う。
「刀?」
「そう。銃はダメなんだ。肩壊れる」
「…肩って…。でも、戦闘じゃ近距離戦になるから刀も大変だぞ」
 クリスはこくりと頷いて、楽しそうに大丈夫、と囁いた。
 なんで大丈夫なのかは聞かなかった。
「クリス」
 何でか息を切らせた船長が名前を呼んだから。


  *


 見つけた。
 また彼奴等と楽しそうに話していた。
 金色に映して。
 あれから、俺の事はちっとも映さないのに。
「クリス」
 俺を差し置いてアイツとじゃれるシャチを切っちまおうか、なんて思ったが、クリスの視線を感じたらそんな事吹っ飛んだ。
「船長」
 漸く金色に映る俺を見つける。
「どうした? なんかやる事ある?」
 シャチに寄りかかる体勢を止め、ぺたんと床に座ったままで見上げる。シャチの何か面白そうな物を見た目が少し気に食わなかった。
「来い」
「アイアイ」
 ベポのように返した言葉を聞いて、ペンギンが吹き出したのを見た。
「…なんか文句あるか」
 低く問えば、シャチもペンギンも声を揃えて、どうぞ、と言った。
 立ち上がったクリスを見て歩き出す。後ろにきちんと気配を感じるか時折確認して、実に何日かぶりに、クリスは船長室へ帰って来た。

「船長?」
 首を傾げるクリスを無視してドアを閉める。そのままベッドへ腰掛け脚を組んだ。
「クリス」
「うん」
 ドアの近くに立つクリスを無理矢理同じ様に座らせて、漸く俺は金色に映った。
「お前、なんで帰って来ない」
「なんでって…船長、忙しいって聞いたからだけど…」
 おずおずと言うものの、目は逸らされない。
「もしかして船長、寂しかった?」
 少し嬉しげに顔を綻ばされ、俺はどう答えれば良い? 寂しい、なんて。あれはそんな可愛らしい感情か。
 苦々しく違う、と言えば残念そうにそうか、と言われた。
「なんでお前は名前で呼ばない」
 最初に言った筈だ。
「だってローは船長だろ? それに、シャチとかペンギンが船長って呼ぶのが可愛かったから」
 みんなそうだけど、大好きって言ってるみたいで可愛いよな、とにこやかに返される。
「…呼べ」
「ロー、俺はローの部下で、ハートの海賊団のクルーだろう?」
「呼べ」
「…ロー」
「呼べ。船長命令だ」
「…普通は逆だと思うぜ」
「普通なんてクソ喰らえ」
 ははん、と笑って言ってやる。クリスに名前で呼ばれる彼奴等が狡い、なんて理由で切りたくなるよりはマシだと思う。
「我が儘だ」
「俺の船だからな」
 鼻で笑って返すと、遠慮なくあぁ、甘やかされてそうだよな、と返された。
「ロー」
「それで良い」
「…うわー、すげー嬉しそう」
 いい子、と頭を撫でてやるとクリスは少し困ったように笑った。
「……なんか、アイツらがすげーローの事好きな理由、わかった気がする」
「あ?」
「その顔。いつも無愛想つか…どやってしてる事が多いからたまに笑顔見れると嬉しくなる」
 その言い様はなんだ。
「とは言っても、俺はあんまり無愛想っぽい所は見てねぇけど。なんか、いつも照れた感じ? が、多いけど」
「煩い」
 わしゃわしゃと頭を撫でる。
「うわっ、それ反対!」
 ぐっしゃぐしゃじゃねぇか! と抗議するクリスをそのまま後ろからシャチがしていたように抱き締めてみる。
 ぴたりと動きが止まるのはなんでだ? アイツ等にはさせてたじゃないか。
「…ロー?」
「なんだ」
 耳元で囁く。ばっと耳を押さえられる。
「うっわ、馬鹿、ロー馬鹿!」
「何故だ」
「そこで喋んなよー馬鹿ぁ。俺耳弱いの!」
「ほう?」
 にやっと笑ったのが通じたのか。バタバタするクリスを問題なくホールドして、髪から少し覗く項に軽く唇で触れる。
「ぎゃぁ!」
「―――…色気のねぇ声だな」
「男ですから! もう、マジ、ロー離れろ!」
 バタバタ暴れて見せても、後ろからホールドする俺にはあまり効果はない。
「俺に命令すんな」
「やーだぁー! ヒゲじょりじょりするし…」
 俺から離れようとするクリスを強く抱き締める。
「お前は細いな」
「やだ、コイツちょっと酔ってるんじゃね?」
「残念だな、素面だ」
「あ、どや顔!」
「…見てない奴が何言ってやがる」
 そしてもう1度項にキス。
「うひゃぁ!」
「もっと可愛い声出せねぇのか?」
「出せるか、馬鹿!」
「…お前、クリス。いやに細くないか」
  クリスの抗議は耳から聞き流してせっかく抱き締めた身体を楽しむ。だが、触ると服越しに骨を感じて不思議になってぺたぺた隅々まで触ると、服を着ていてもやや細身の身体が実際はもっと細い事がわかった。
「…それ、シャチとペンギンにも言われた」
 その言葉にイラっとするのは何だろう。
「料理長に言って、あと運動しろって」
「そうだな」
「海賊なんだから、せめて自分の身は自分で守れって言われた」
「正論だ」
 腰回りだけじゃない。全体的に肉付きが悪い。脂肪以前に筋肉も最低限しかついてなさそうだ。
「…クルーとは仲良くなったのか」
「少しな。シャチとベポとペンギンとは仲良くなった」
 少し抱き締める力を増した。時間が合わないのか避けられていたのか、こうしてクリスの近くに居るのは久しぶりだ。髪からいい匂いがする。その匂いを覚えるように嗅いだら、クリスがじっと見ていた。
「…なんだ」
「なんでも?」
 にやにや笑う。
「言え」
「断る」
 そして、俺の腕の中で身体の向きを変え向かい合うと、腕からは逃げようとはせず抱き締められた。
「…言え」
「えー、ローが可愛いから」
「可愛くねぇ」
 心外だ、と目を細めると、いつぞやのように頬に唇が触れる。
「可愛い。ちょっと拗ねてた? クルーと仲良し、嫌?」
 くすくす笑って反対の頬にも触れられた。
「…おい、クリス。項はダメなのにこれは良いのか」
 クリスの質問は無視。答えられない問いなんて誤魔化すに限る。
「おう。ほっぺはご自由に。くすぐったくないし」
 有言実行と少し緊張しながら頬に触れると微笑まれた。頬は柔らかかった気がする。
 骨が折れないように少し気をつけながら腰に腕を回し抱き締めたら首を傾げられた。目を見たらきっと言えなくなるから、抱き寄せたクリスの首筋を凝視。
「―――…夜は帰って来い。あと、アイツらとじゃれるなら俺も入れろ」
「アイツら?」
「さっきもじゃれてた」
 クリスが俺の顔を見ようとしているのはわかる。視線を感じる。それでも視線を向けずにいると、ふっと笑ったような吐息が肩に掛かった。
「アイアイ、船長。いつもあそこで見てるから、ローが来て」
「クリスが呼べ」
「…我が儘」
 俺の船だからな、と返せばクリスは声に出して笑った。

 金色は見過ぎると毒だ。


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