悠久の丘で
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金色


 船長が欲しい欲しいと珍しい我が儘によって我が海賊団に入った男は、確かに綺麗で。
 これからどうなる事やら、と肩を竦めた。



  *



 超新星の1人である、燃えるような赤の髪を逆立てたユースタスの言葉に簡単に煽られた船長は、クリスを手に入れた上機嫌さのまま着いて行ってしまった。
「あーぁ、船長行っちゃった」
 冥王の覇気に多少当てられていたシャチがキャスケット帽を直しながら髪を掻いて、出て行く船長を見送る。
「あんなに浮かれた船長、久しぶりに見たな」
「キャプテン、楽しそうだったね」
 口々に先程の船長の様子を思い返しにやけて見せるクルーに、そうなの? とでも言いそうな顔をする新入りを見る。
 どこが船長の琴線に触れたのかは全くわからない。
 まさか船長、女っ気ないとおもったらそっち…いや、でも、酒場で女を侍らせてるからそれはないか。
 こっそりあらぬ疑いを掛けつつ、気ままに外に出て行ってしまった船長が本来するであろう事をする。
「クリスだったな。俺はペンギン」
 分かりやすいだろ、とペンギンと書かれた帽子をくいっと上げる。
「ペンギン?」
「そう。ハートの海賊団にようこそ」
 柄でもないななんて思いながら言えば、クリスは笑った。
「ありがとな、ペンギン。俺はクリス」
 幾つだかはわからないが、笑うと少し幼く感じる。目が細まっても金色だとわかる。
 不思議な色だと思う。
 多分うちの船長も色合い的には金に近い、の、だと思う。あの人の目も不思議だが、此処まで澄んだ、金色らしい金色は珍しいと思う。
「なぁなぁ、俺はシャチ」
 俺の後ろからひょっこり顔を出したシャチは軽くサングラスをズラして笑った。
「お、おれ、ベポ」
 身体の大きなベポが俺ごときの背で隠れる訳ないと気付いて欲しかったが、シャチと俺の後ろに隠れて少し恥ずかしそうに言う。
「―――…おぉ、こんな感じなんだ」
 へへ、と口元を緩める姿からは、此処の爆弾首輪を自力で外せるとは思わないが、一体何をしたのか。
「こんな感じ?」
「前にシャンクスが、海賊は良いぞって言ってた。その時は断っちまったけど、もし、コイツと一緒なら楽しいって思えるような奴がいたら、それが海賊でも着いて行けって言われてな」
 向こうも俺を欲しいなんて思ってくれてたのは意外だったけど、と笑って見せる。
「そりゃ真理だな。俺達は船長が好きで此処にいる」
 当たり前、と言う顔をして肩を竦めれば、後ろでベポもシャチも大きく頷くのが視界の端に入った。
 恐らく我が海賊団程、船長大好き、クルー大好きな海賊団も珍しいんじゃないかと思う。船長の好きは至極解りづらいが、俺達クルーの船長大好きは分かりやすい程分かりやすい。
 例え船長の好きが解りづらくとも、俺達はそんな所まで船長が好きだからクルーな訳だが。
「クリスもキャプテン好き?」
「そうだな、あの人がどんな人かちゃんとわかってないけど、今は好き」
「まぁ、死の外科医とか言われてるけどさ、船長、恰好良いぞ」
 シャチが自分の事のように笑う。
「死の外科医? 医者?」
「そう。麦わらやユースタス程ではないにせよ、うちの船長の手配書も大分出回ってると思ったけどな」
「あ、俺あんまり手配書とか見たことなくて」
 申し訳なさそうに眉を下げる表情を見てクリスについて、脳内で注意書きを入れる。
「―――…新聞も読まないタイプか」
 情報に疎いタイプ。
「…何故わかった」
「船長、新聞でもよく名前載るからな」
 へぇ、と感心した顔。
「なんてったって、船長は億越えルーキーの中の1人だから」
「億越えルーキー…。最初の海でそれは凄いな」
「でしょ? キャプテンすごいんだよ」
 純粋に船長を褒められ誇らしそうなシャチとベポ。基本俺達はこんな感じだ。
 どこまで行っても船長大好き。

「―――こら、クリス。それとそこの海賊達」
 お互いの簡単な自己紹介などしていたら、呆れたような冥王の声が聞こえた。
「海軍に囲まれておるのに何のんびりしてるんだ。出るぞ」
 つい見合わせた顔はいずれも、そんな事すっかり忘れていた。



  *



 人間オークション会場を出たら、楽しそうに船長が暴れていた。
「おや」
「船長、楽しそうに暴れちゃって」
 船長が楽しそうだと俺達も楽しい。でも、いつ大将が来るとも知れない今は、そんな船長を微笑ましく見ている時では、きっと、ない。
 とっくに3船長が好き勝手暴れたせいで、海軍の陣形はあってないようなもの。
 端の方に船長に遊ばれた海軍を見付けて、苦笑した。
「すごいことになってるな」
 面白そうな顔をするクリスは戦えないらしい。俺とペンギンの間に立って、後ろにはベポ。
「海軍に追われる海賊なんて、見つかればこんなもんさ。じきに嫌になるぜ」
「あ、そっか。確かにそうかも」
 ぽんと手を打ち鳴らすクリスも、暫くはこんな状況には慣れないかもしれない。
 ユースタスのクルーは戦闘を始めているし、
「ベポ」
「アイアイ、キャプテン!」
 船長に呼ばれたベポも参戦。
「クリス、お前は俺の隣にいろ」
 戦闘はベポに任せて此方に歩いてきた船長が、入り口に座っていた奴隷の首輪に手を伸ばす。
「はーい」
 あっさり首輪を外してやった奴隷は、どうやら先程の天竜人のもの。
 きっと船長自身がこうやってクリスの首輪を外してやりたかったんだろうな、なんて考えずとも分かって、苦笑した。
「俺と来るか? 海賊キャプテンジャンバール」
 でも、こういう時、船長に惚れ直す。
 心の底から、この人について来て良かった、と思う。
「船長、恰好良い」
 小さく呟いた言葉は船長に聞こえただろうか。ふふ、と笑う船長は1度クリスの髪を撫でた。
「帰るぞ。船に乗ったら此処を離れる」
「アイアイ、キャプテン!」
 先頭は俺。しんがりはベポ。
 追っ手の海軍を蹴散らしながら進む。
 途中クリスが不思議な事を聞いて、1人の強い敵にも会ったが、船長とユースタスの力で無事に船にも着いた。
 それからはすっかり暗い海の底。
 シャボンディ諸島付近は珍しく海の奥まで光が入り大分明るい。潜水艦の窓から覗き上げては綺麗だと溜息を吐くクリスを、船長が船長室へ連れ去るまで、そう時間は掛からなかった。



  *



 何度も聞いた訳じゃないが、アイツが呼ぶ船長、の声に少しばかりムッとしたのは事実。他の部下…そう、例えばシャチやペンギン、ベポに呼ばれるのとは違う。
 アイツが俺を船長としか呼ばない事が不服。
 そんな言葉がぴったり当てはまるようだ。
 潜水艦に乗って、窓から差し込む少ない光を綺麗だと見とれるクリスが面白くない。きらきら光が入って煌めく金色に、俺が映っていない。
 俺を映せとばかりに腹の底から膨らむ欲求。どこから来るものなのか、膨らみ始めたらそれ以外考えられなくなった。

 ステージで見た時よりももっと近くで。
 吐息が触れてしまうくらい。
 熱を感じさせろ。

 俺がクリスを探す姿はある程度クルーに覚えられたらしい。それだけクリスを連れ帰ってから探しているのだが、クリスは掃除などの雑用が済むと大抵窓から見える光を覗いて過ごす。初日こそ、夜中に見ていたものの、少しずつ慣れたのか空いた時間をそう過ごしている姿を見た。時折ベポやシャチ、ペンギンにもたれかかって見ている姿すら見る。
 俺は金色に映れない。
 いっそ窓なんて塞いでしまおうかなんて思ったが、それは出来なかった。
 空いてる船室がないからと、他の部屋よりも広い俺の部屋をクリスの寝場所にしたのに、全然戻って来やしねェ。(身体の大きなジャンバールには空いてた部屋を与えた。ジャンバールと俺じゃ、広いと言っても部屋に限りがあるからだ。)
 これでペンギンやシャチの所に潜り込んでたら絞めてやる、なんて思ったが、クリスはずっと窓を見つめている。
 ただ外を見つめて美しいと溜め息を吐く。
 どうやら聞いた話によると、あれでも俺以外の、つまる所はクルーとは交流を持っているそうだ。

 俺だけ、金色に映れない。


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