悠久の丘で
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01.残念ですが手遅れです

 小僧とトリコの奴とグルメピラミッドへ行ってから何日かして。
 クリスがやってきた。


  *


「ハロー、ゼブラ」
 いっそムカつくくらい爽やかな笑顔。何度も洗ったとは言え、未だ何処からか砂が出てくる髪に軽く唇を落とされる。
「グルメピラミッド、楽しかったんだって?」
 あれだけ砂漠を歩けば仕方ないかとも思うが、いい加減辟易する。
「誰に聞いた」
 言う奴なんて1人だけ。聞かずともわかっているが、それでも聞いてしまうのはクリスのくすくす笑った表情が見られると知っているからか。

 三つ子の魂百まで、と言うのは実に怖い。

 俺が3歳の時、クリスは6歳。
 今なら3歳差ってのはそれ程気にはならないが、小さい時の3歳は大きい。
 それを自覚したのはとうにデカくなってからだが、その時にはもう遅かった。
「えっと、最初にサニーに聞いて次にココ。トリコ、小松、の順番だったかな?」
 サニーにはグルメピラミッドから帰ってきたって聞いて、ココからはメロウコーラを手に入れたらしい、トリコの言っている事は正確に理解出来なくて、小松に会った時に聞いた、と詳細に教えられる。
「……ちっ」
 自慢げに言うのは1人だと思っていたが、思い掛けない所で全員関わっていやがった。
「報酬、貰えなかったんだって?」
 からかうような口調。
「貰い損ねただけだ」
「フルコース、ドリンク決まったらしいな。おめでとう」
 この分だと要らない所まで詳細に聞いているんだろう。くすくす笑うクリスを有無を言わさず膝に乗せる。
「テメェ、笑いながら言うんじゃねぇ」
「笑いながらだなんて。会長も喜ぶと思うぜ?」
 ゼブラ、コーラ好きだもんな。
 小さい子どもにするように腕を伸ばしてわしゃわしゃ頭を撫でられる。
「そろそろ俺も真剣にフルコース決めないと」
「…何が決まってんだ」
 他人のフルコースなんざこれっぽっちも気にならないのに、少し気に掛かった。聞けば俺を見上げ答える。
「サラダ。オゾン草って奴。取りに行くのはちっと面倒なんだけど、オゾン草も俺を好いてくれてるらしくて」
「美味いのか」
「俺のフルコースに入れる程度には?」
 ふふ、と笑う。
「今度採ってくる」
 言外に食べてね、と言うクリスに、食うなら肉が良いなんて言葉は飲み込んで、別れる際小僧に半ば無理矢理持たされた物を出す。
「…?」
 しゅわしゅわとキメ細かい泡が変わらず立ち続ける琥珀を煮詰めた様な色合い。
「俺のドリンクだ。やる」
 グラスに満たされたドリンクは元々クリスがメロウコーラがメロウコーラとして楽しめる内に訪ねて来たら出そうと思っていた分だった。
「ん…? あぁ、これがメロウコーラか。良いのか?」
「何度も言わせんな」
「へへ、サンキュ」
 グラスを大事そうに持つクリスが男には見えなくて困る。幾ら隠せと言っても隠さなかった肌は白く、そこだけはサニーを認める部分。
 別に肌が浅黒くなろうともクリスはクリスで俺はとうに手遅れだろうが、触れると瑞々しく滑らかでしっとりと吸い付く感触が失われてしまうのは惜しい。
「ん…水晶コーラも美味いけど…なんて言うんだろう、これはなんか、別の次元だな」
 ワインでもくゆらすようにグラスを揺らし香りを楽しむ。
 香りを楽しむ所ではなかった狩りを考えればあの時の脱力感と、それを満たすあの味が一気に思い返され、思わず眉が寄った。
「流石、ゼブラのドリンク。すげー美味い」
 どこか恍惚とした表情が、その思い出をあっさり塗り替えていく。
「現地で飲むよりは味は落ちるがな」
「あー、やっぱこれより美味いんだ。どうしよう、俺も次のシーズンに採りに行こうかな…」
「行くなら連れて行ってやる」
 クリスの食運は四天王を遥かに凌ぐ。
 小僧の食運とどちらが強いかはわからないが、クリスならデザートラビリンスで迷子になり野垂れ死ぬ事もないだろうが。
「良いのか? やった、約束な」
「その代わりお前のオゾン草採りに行く時に案内しろ」
「あ、一緒に行くか? ふふ、楽しみだな。その前にまたやんちゃして捕まるなよ」
 くす、と笑う。見上げる視線にぶっきらぼうに返せばクリスからはにやにやした表情が帰って来た。
「誰に言ってやがる」
「お前だよ。鉄平に捕まったクセに」
 すっかり飲み終えたグラスを丁寧にテーブルに戻し、何も言わずとも再び膝に帰ってくる。
「小松の事もあるから、フルコース決まるまで捕まらなそうだけどな」
 けけけ、と笑って胸に頭を寄せるクリスになんと言ってやろうか少し迷った。
「俺にとっちゃお前も鉄平もどっちも大事なんだから、あんま喧嘩すんなよ」
「……アイツは気に食わない」
「すんなよ」
 間髪空けず告げられた言葉に眉が下がる。
「…俺の話、聞いてるか?」
「聞いてるとも。捕まるような事、すんなよって言ってんの」
 青が真っ直ぐに射抜く。
「今回は再生屋に依頼がいったけどさ。次、もし俺に来たらどうすりゃ良いんだよ。喧嘩のレベルで済ませられないんだからな」
 見上げる青に人相の悪い男が映るのを、何処か期待して、その通りになって落ち着く。
「…ゼブラが傷付くの、嫌なんだからな」
 ぽつりと呟くように落ちた言葉にわしゃわしゃ撫でた。
「…ゼブラ、約束」
 今すぐにでも泣き出してしまうような目で見上げるから。
「―――約束」
「守るか?」
「お前がどうしてもって言うからな」
 髪がぐしゃぐしゃになるのも構わず撫でる。

「その代わり、俺とも約束しろ」
 約束だなんて安易な物、信じてない。
 きっとそれは他の四天王も一緒。

「俺は料理人なら小僧を選ぶが、美食屋ならお前が良い」
「―――…全部は叶えてやれねーよ?」
「俺を選べ」
「トリコとか、サニーとかココ、鉄平とか…次郎に言われたらついて行っちゃうぞ」
「一緒に居ろ」
 クリスがふと目を和らげて笑った。
「都合つく時は一緒居てやるよ。約束」
 そう言って、もうすぐ三十路の奴は甘やかすように頬へ軽くキスをした。


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