悠久の丘で
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冬に悪戯をプレゼント

 起きたと脳が認識した時、そこにあるはずのない体温を感じて目を閉じたまま首を傾げた。
 ―――はて。此処は僕の部屋だし、何か体温を感じる理由もない筈だ。
 だけど、手に触れる自分のものとは感触が違う細い糸。
 目を薄く開けて、それが艶やかな黒色をしていた事を脳が認識した瞬間。

 ―――僕の脳は沸いた。


  *


「あ、イヴェール様、起きましたか」
 にこにこ笑ったクリス。予想が全く外れていなかったと云う証明にしかならない彼の笑顔に動揺して、急いで身を起こした。
「ちょ、クリス!?」
「おはようございます。顔が紅いようですが…風邪でも召されましたか?」
「あ、コレは違…」
「左様ですか。それならば私も安心です」
 胸を撫で下ろし目を伏せるクリスを見る。どうして此処にいるのだとか、そう云う事を必死に考える。
 別にクリスの衣服が乱れている訳でもないから、僕が理性を失って彼を寝室に閉じ込めたとかそう云う可能性はない―――と思いたい。(事実彼に対するやましい感情は在れど、僕自身の問題でそれは露見しない。双子姫はそれをヘタレだとか…そう、云っていた)
「―――ねェ、クリス」
「はい」
 ベッドの端に腰掛け、両膝を合わせ座っていた。
 ―――そして記憶違いでなければ(記憶違いならばどれだけ良いか)僕はその膝に居た。

「ど…、どうして此処に居るのか、教えて貰っても良いだろうか」
 クリスは不思議そうな顔をした。
「イヴェール様、覚えておられないんですか」
 その表情に自分が何をしてしまったのか不安になる。
 でも思い返してみても、昨日此処で静かに睡眠に落ちた所までしか記憶に残っていない。
 それを伝えれば、クリスはぽん、と手を打った。
「―――あぁ。イヴェール様、寝呆けていらしたんですね」
 合点がいったとでも云うように頷く。
「成程。わかりました。えっとですね、朝早くにお客様がいらっしゃいまして」
 うん?
「お伝えに来たのですが、イヴェール様が此処に居ろと仰ったので此処に」
 そう云って微笑む。
「えっと、因みに来客と云うのは―――…」
 なんとなく答えは予想出来ていて、だけどそれから目を離したくてやや上目がちになる。

「こんな朝早くからいらっしゃる珍客など、私は1人しか認知しておりませんが―――、我等が陛下、その人で御座います」
 僕が急いで着替え、慌ててその人の元へ行ったのは云うまでもない。


  *


「あ、おはよう。イヴェール」
「お、おはようございます、陛下…」
 急いで参じた僕に、陛下は暢気に手を上げた。
 それまで食べていた朝食(これもクリスが用意してくれたに違いない)の菜に向けた視線を僕まで上げ微笑む。
「ははは、イヴェール。髪を結ぶ時間もなかったか?」
 慌てていたせいで何時もならば長い銀色の尻尾のようになっている髪が、まだ1つに纏まっていない。
「―――そうお思いならば、こんなに早く訪ねて来なくても良かったでしょうに」
 席に座った僕の椅子を詰めてくれる。
 本当は教育係として来たのだからそんな事までしてくれなくて良いのだけど、クリスに趣味だから、と言われてしまってから言うに言えなくてこの状態が続いている。
「いやいや。本当は寝起きドッキリとかしたかったんだよ」
「仕事をなさい、仕事を」
 グラスに飲み物を注いでクリスは溜息を吐いた。
「それはそうと、陛下。イヴェール様にお伝えしなくてもよろしいのですか?」
「―――あぁ、それを言いに来たんだっけね」
「…陛下?」
 目が細くなったクリスに苦笑して(苦笑というよりはやや怯えた様な感も拭えなかったが)フォークを置いた。

「あのね、イヴェール」
「はァ」
「今日他の地平線の子たちが来るから」
「……は?」

 そう言って、サラダを1口。
「―――陛下」
「あ、はい。えっとね、今日は普通の日であって普通の日じゃない。だからね、本来なら行き来が難しい他の地平線とも扉が繋がるんだよ」
「はァ」
「その…まァ、座標点とでも言うのかな。此処が1番集まり易いんだよね」
「…はァ」
「だから此処にしたの」
「…はァ」
「イヴェール」
 陛下がにっこりと笑った。

「わかってないでしょ」
「―――はい」
「まァ詳しいことはわからなくても良いよ。僕もきちんとは理解してない―――クリス、睨まないで、お願い」
 要はどう云う事なんだ?
「イヴェール様。本日、来客があると、それだけ理解していただければ」
「あ…、あぁ。うん」
「―――と云うか、まァ、もう御着きになっているのですが」
「はァ!?」
「大丈夫です、すべて陛下の勝手とあちらもご存知ですから」
「クリス、冷たい…」
「そのお言葉はもう少し仕事を自主的になさってから訴えてくださいね」
 陛下の終えた皿を1枚1枚丁寧に片付けながらクリスが微笑んだ。

「それに―――今日はこんな日なので、仮装厳守だそうです」
 クリスがちらりと陛下の方を見た。
「イヴェール様のものも陛下に云われて用意いたしましたので、後で袖を通してくださいね」
 何から何まで決まっているのに僕自身にはまったく知らされていなかったこの会合に、僕はただ頷くだけだった。
「あ、クリス、聞いてもいいかな」
「なんですか?」
「今回…来る人たちって…」
 クリスが、今気づいた、とでも云うように目を大きくした。
「そう云えばお伝えし損ねていましたね」
 そう言って服の内側から羊皮紙を取り出して、やや巻き気味なそれを伸ばしながらクリスが読み上げた。


「まず、第7の地平線より、タナトス様、ミュー様、フィー様、オリオン様にエレフ様」
「第5の地平線よりイヴェール様、お嬢様がた、そしてサンローラン様」
 つい噴出してしまった。
「続きまして第1の地平線よりルキア様」
 いっきに数字が飛んだ事をいぶかしんで首を傾げれば、ヴェンは苦笑した。
「後の地平線の方々は都合がつかないようです」
「なるほど」


「―――という訳だから。よろしくね、イヴェール」
「はッ」
「うん。いい返事だね。あ、クリス、これお代わりしても良い?」
「…駄目だといってもするでしょう、貴方は。―――少しお待ちください」
 呆れた様な表情で溜息を吐いたクリスの表情が新鮮で(僕にはそんな表情は見せないからだが)、少し陛下が羨ましくなって、胸がチクリとした。
 何故だかはまったくわからない。
 なんだか胸焼けのする状態で朝食もまともに摂れなさそうだったので、クリスが心配そうな表情をしていたけれど朝食は辞退した。
「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。少し部屋でやることがあるから、クリスは陛下に」
「―――…畏まりました」
 不思議そうな顔でクリスが僕を見たけれど僕も詳しく何かを言えるわけもなくて曖昧に微笑んで部屋を出た。



「―――おい、レヴォ」
「わァ、クリス、二重人格みたいだね! あ、嘘。ごめんねって、そんな怖い目をしないで」
 2人になったからだろう、口調を戻したクリスを揶揄するように言えばすごい目で睨まれた。
「…なんでまた此処なんだ?」
「此処が都合がいいからって云うのは本当だよ」
「―――ならば、別に仮装はしなくてもいいんだな…?」
「だって、ハロウィンだよ? 気分出るじゃん」
 そう言ってへらっと笑えばクリスが何もいえなくなることを知っているので先手を打つ。
「それに第7の地平線ってさ、参加の半数が冥府組でしょう?」
「そう云う括りで括って良いならな。―――だからってのもあるのか」
「うん。彼らにとっては普通でも、他の地平線からしてみれば普通ではないからね」
「それはそうと、何でこの名前のリストの中に<書の意思の総体>が入っている?」
 見つかる見つかると思っていた結果なので、別に驚きもしない。
「彼女がクリスに会いたいんだってさ」
「―――この間出てきてくれたから、疲れてるだろうに」
「それでもクロニカはクリスの物だからね」
「知ってる。俺は最期までクロニカと一緒にいるって決めた」

「そう。13年前にね」
「そう、13年前に」

 どちらからかなんてよくわからない。
 一緒に笑った。


「あ、俺、もう準備の為に戻る」
「ああ、行っておいで」
「行ってきます」
 クリスが笑えていることに心底ほっとした自分がいたことに本当に誇らしくなり、そして同時に苦笑した。


  *


 さぁ、悪戯をしよう。
 人にも、<人在らざる者>にも。
 皆、皆、おいで。

 一緒にいれば、さびしくないでしょう?

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