悠久の丘で
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マントの怪人 コートの変人
「クリス」
ふと声をかけたのは、珍しく此方の世界に戻ってきていたゲンで。ちょっと嫌な予感がして読んでいた本から顔を上げてヒョウタは目を細め、それを見る。
義兄であるゲンは間違う事無き変態だと思うし、事実変態だ。
ただ1人、クリスが絡んだ時に限って。
「―――…なに、ゲン」
「お兄ちゃんって呼んで」
「ふざけるな」
彼が真性の変態だと露見したのはまだ幾らか幼かったクリスにお兄ちゃんと呼ばれて静かに鼻血を出した彼を見た時だったとヒョウタは記憶していた。
そしてその異常さに気が付いた彼の義父であるトウガンが、間違った民間療法で、取り敢えず首に手刀を入れた時、ヒョウタはその場にいた。クリスは汚された服を着替えに行っていて居なかったが。
『良いか、ヒョウタ』
自分でも結構似ていると思う父、トウガンは静かにヒョウタを抱き上げて言った。
『ゲンは変態だから、お前がコイツからクリスを守ってやるんだ』
その時初めてヒョウタは変態を見た。
いや、認知した、と云うのが正しい。それまでだってゲンの事を見ていた(筈だ)。
『良いな?』
『わかった!』
その答えはまだ変わらない。まだ即答できる。
…だが、大きくなるにつれて、クリスはどんどん変態を増やしていった。
まるで変態増幅機。
*
―――さて。
もう季節は冬に片足を突っ込もうとしている頃。
この頃にゲンが戻ってくるのは毎年の事だ。
更に云うならば毎年、ミオにある実家へ皆が集まる。小さい頃からの習慣で、あとは新年くらいしか戻れなくなってしまったからこそ、ヒョウタも楽しみにはしていた。
クリスは毎週のように遊びに来るからあまり長く会っていないような気にはならないのだけれども。
「―――なんで即答するの」
「なんで即答されないと思ってるのか、俺が聞いていいか?」
「だって、呼ぶだけでしょ?」
「それで俺が蒙る被害の甚大さを考えてみろ」
「掃除はするよ!」
「最初から汚す気満々か、この野郎」
クリスの声質は特に変わることもない。
だけど、確実にクリスの腕の中にいるアグノムが不審そうな表情を浮かべ始めている。そっと小さい掌の中で育ち始めているのは果たしてはかいこうせんか10まんボルトかシャドーボールか。
この位置からでは判別つかない。
わかっているのは家を壊したら怒られるのがゲンと云う事だけ。
「―――…こらこら、ムィ。はかいこうせんなんて人に向かって打っちゃ駄目だろ? これでも一応人間なんだから」
はかいこうせんだったらしい。
確実に殺る気だったのだろうか。
「ムィ、お前の力で人間相手に技出して遊ぼうと思ったらきっと父さんでも無理だからなー」
ましてゲンじゃ無理無理。
庇っているのかけなしているのか全くわからない。
だけど、基本的には聞き分けのよいアグノムは小さく、小さく、なんか納得出来ていないようだったけど、頷いた。
ちなみに意志の神・アグノムはクリスがいつの間にか連れていたのでどこでゲットしたのかとかは、まったく知らない。それ以前にあまりゲットすることを好まないクリスなので、ゲットしたのかすら怪しい。
因みに少し前まではユクシーも姿を見せていたから、訳がわからない。
そんなことが沢山あるから、もう慣れた。
「ん、いい子」
そう云って膝の上に乗せたアグノムを抱き上げて額にキスを落とす。アグノムは微笑んだ。
クリスが居ると、どんなポケモンもすべて生き物で、体温があって、そこで生きているのだと再認識する。
「今度ムィに特製ポフィンあげるな」
ずっとずっと前からわかりきったことだけど。
「………クリス、わ」
「呼ばん」
私、と云う隙も与えず、クリスは遮った。
「大体今日はもうハロウィンだろ? お前が衣装汚したらどうしてくれるんだよ、折角今年はルビーが贈ってくれたってのに」
「え、ちょ、ルビーって誰」
「ホウエン地方の子」
因みにシンオウ地方に来ていた彼は、急用があるとかでホウエン地方へと帰っていった。置き土産の様に、クリスへの衣装をとてもいい笑顔で置いて。
『クリスさんが着たら、ちゃんと写メって送ってね』
あまりにも目が真剣だったから頷いた。
「ぇ、―――…ダイゴくんと一緒の地方…?」
「そう。つかダイゴって名前がなんとなく懐かしいな…」
「今日来るとかなんとか云ってたような」
「え、ちょ、俺逃げるよ?」
抱かれていたアグノムが顔を上げた。
「え、ムィどうし…」
それが視界の端に見えたのか、クリスがアグノムを見て、その顔を上げた方を見ると―――…、
「よう、バカ息子共」
とてもよく見慣れた鳶色の髪。
「…と、今日も可愛いな、クリス」
これさえなければ普通にいい父親だと思うのだが…。
ミオシティジムリーダーにしてこうてつじまの管理者、ヒョウタの実父、トウガン。
粗野な外見と見た目を裏切らない性格。クマのような、と云う形容がしっくりくる男である。
「あーッ! 父様だぁ!」
何故か幼い頃からクリスはその日1番最初に会ったとき、必ずトウガンの事を「父様」と呼ぶ。誰に言い含められたのかはわからない。
以前はそれに加えて必ず抱きつきに行っていたのだから、本当に原因が誰にあるのか探りたい所だ。
「お帰り、父さん! もう、最近ずっと空気読めない子ばっかり出てきてたから父さんで安心したよ」
言外に責められた空気の読めない子は、父様と呼ばれたトウガンを心底羨ましそうに見ている。
「…おい、個人的にそれを誰だか聞いていいのか?」
トウガンは寄って来てクリスの頭をくしゃくしゃと撫で、席に座っていたヒョウタを見る。
「―――なんで僕に聞くんですか」
「いや、クリスを除いてお前が1番まともだからだろう」
「…え、トウガンさん、わた」
「間違ってもあそこに居るように見える青いのはまともじゃない」
「それはよくわかります」
向こうでゲンが泣きそうな顔をした。それを、いつの間にボールから出たのかゲンのルカリオが肩を叩いて慰める。
彼も苦労する。あんな青いニートを主人に持ってしまったせいで。
「ん? ……んん? え、ちょ、―――…ね、父さん。ごめん話の途中に」
クリスはゲンを視界に入れる事無く(入れると泣き付いてくるからだ)トウガンが入ってきたドアの方を見ていたが、段々言葉に焦りのようなものを感じ始める。何事かと其方を見ればクリスはなにやら一点を凝視して固まっていた。
「どうした?」
「あのさ。…あの、変なの何…?」
「変なの? そんなもの……え、何、あの黒いの」
そんな物あったのか、と確認するように同じ方向を見たヒョウタも止まった。問えば、父は堂々と言い切った。
「拾った」
そうして拾われているのが此処にすでに2人。
なんと言うか、何もいえない。
「―――…えっと、ダイゴ。いつまでも床に転がられてると困るんだが」
「…知り合いか?」
「………………うん」
「なんだ、凄く長い間だったな」
「そんな事ないよ!」
慌てて取り繕うように笑うが、クリスの顔は何やら呆れ果てていて。
「それで父さん、あれ、どこで拾ったの?」
「なんでもミオの外れに倒れてたそうだ。それをナミキが見つけたってんで引き取ってきた」
「うーん、成程。もう捨ててきちゃ駄目かなァ」
ぶつぶつと呟きながらも一応近寄るクリスの背を見守っていたが、またしてもクリスが呻いた。
「―――このマントってさァ…、凄くミクリのなんですけどー」
そのミクリさんがわからない面々はきょとん、としたけど、クリスはべりっとマントを引き剥がした。
「なんでお前が着ると凄く変態マントなのかなァ…。ミクリはあんなに似合うのに」
マントを広げ、ぎゅっと抱き締める。冷たい床に転がされ、防寒(なのかは知らないが)のマントを取られ、とてもとても間抜けな人は身じろいだ。
そして一言。
「…あれ、クリスがすごくセクハラの服着てる………」
「ああ、永眠ご希望でしたか、変態さん」
にっこりとクリスが笑った。
「ムィ、俺が良いよって言ったらコイツにはかいこうせん」
立ち上がって見下し、腕にアグノムを抱く。
素直なアグノムは言われた通りに手のひらの中で順調に高エネルギーを凝縮させる。
それで目が一気に覚めたのか、
「あ、クリス様すみませんでした」
―――様?
「そうやって呼ぶのもやめろって言ったよな、変態」
目が冷たい。
「―――…っち。わかったよ、クリスくん」
あ、舌打ちした。
「ムィちゃん、ストップ。やっぱはかいこうせんなしで」
アグノムはやはり不審そうな顔だったが、手の中の高エネルギーを霧散させた。
その頭を撫でてやりながら、クリスはまだ冷たい目でダイゴを見下ろした。
「それで、何しにきた訳? こんな辺境の地方まで」
「勿論クリスくんに会いに」
そこからのクリスの行動はすばやかった。
ドアを開け、ダイゴを押し出し戸を閉めて、鍵まで閉めた。
そしていい仕事をした、と言わんばかりの笑顔で一言。
「さ、父さんも帰ってきたことだし、はじめようか!」
この家で1番発言権があるのはクリス。
誰も外に追い出されたダイゴさんなんて気にしなかった。
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