悠久の丘で
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悪戯猫の優美な兎狩り
あぁ、暇だな。と思った。
どうせ暇なら女王に逆らってることなんていつものことだし、お茶会でも開こうと思った。
可愛い、可愛い、兎をおびき寄せるために。
悪戯猫の優美な兎狩り
「…はァ」
中途半端にため息をつく。別段嫌な事があったとか、退屈だとかそういった理由がないだけにため息をつくほうもやるせない。
内ポケットに入っている懐中時計を取り出しても、特にやる事もなくて切り株に腰を下ろす。
簡単に言えば暇だったのだ。
常日頃なら帽子屋や双子の割りに全く似ていない猫たちが遊んでくれるのだけれども、今日に限ってはどちらとも見つからなかった。
ため息が、零れ落ちる。
仕立てのいい滑らかな肌触りのジャケットは綺麗な雪のような白、腰を隠して尻と膝の中ぐらいまでの長さで、双子の猫がくれたものだった。
白の手袋を頬に押し当てると自分の体温は全く感じられずにただ、布の感触が冷たかった。
暇だ暇だと、呟く。
もういっそこのまま寝てしまったほうが有意義ではないか、と思ってしまうくらいに時間の流れが遅く感じてゆっくりと目を閉じると、なにやら聞きなれない大きな音が聞こえた。
長い耳が音がしたほうを向く。
「…なんだろう…?」
「アレか? なにやらこの世界の住人ではない奴が来たらしいぞ」
音がしたほうへ視線を向けたほうがよく聞こえる。
兎の長い耳でもそれは一緒で、だからこそ身を捻ってそちらのほうを仰ぎ見ていたら耳元で声が聞こえた。
「…っひぁ!?」
体を戻そうにも後ろから抱きしめられて動けない。ぎゅぅっと力を少し込めた抱きしめ方にそれが誰だかわかっておずおずと名を呼んだ。
「…カク…?」
「おお、よくわかったな」
聞き覚えがありすぎる声が、やけに感心したように耳を打った。
腕が綺麗に腰の辺りに回され、いつの間にか座っていたのはカクの膝の上だった。
「何してるんだよ、カク」
「クリスにスキンシップを」
さらりと淀みなく言い切られて音のした方になんて興味がなくなってしまった。
脇腹の辺りに違和感を感じて視線を下ろせば閉めてあったはずのジャケットのボタンがはずされていて、その下のシャツのボタンまではずされかけていた。
「…ぁッ、カクっ」
「今日はまだパウリーがおらんからなァ。儂1人でクリスと遊んでやるぞ?」
シャツの中に入り込んだ大きな手のひらが突起を掠める。
それだけで触れられ慣れた体は大きく脈打ちはじめた。
「なんじゃ、午前中せっかく手を出さなかったというのにもうクリスは駄目なのか?」
「…ッふ」
悪戯猫の筋張った手が突起を擦ると堪らなく気持ちが良い。
クツクツと喉の奥で笑われても体に甘い痺れが残る。
「クリス、少しは我慢せい」
カクの呆れたような声が聞こえて首を回して見上げようとしたら、突起を上向きに弄られた。
「ンっ」
突起を弄る手は片方だけ。もう片方の弄られてもない突起も期待に膨らんでいるらしい。カクが与えてくれる快楽に唇から喘ぎ声を漏らすたび、シャツに擦れて痛かった。
「カク…、痛ぁ…ッ」
「…まったく、兎は淫乱じゃのう。そんなに物欲しそうな顔をしていたら誰にでも突っ込まれるだろう。別に儂じゃなくても良いだろうに」
金属がカチャカチャと音を立てる。ジィー、と音がして、あまり温かくはない手が腹をすべり下腹部に下りていくのを肌で感じて目をきつく瞑った。
ふっと、項の辺りに相手の吐息を感じる。
「カクぅ…」
焦れて名前を呼ぶと肩口に唇が落ちてきて、肩から落ちたジャケットやシャツを無視してそこに吸い付いた。ちりちりした痛みに首を仰け反る。
「…おや」
カクが肩から顔を上げて、弄る手を止める。
「…カク…?」
煽られた身体の熱が苦しくて見上げても触ってはくれない。どこか遠くのほうを見て、多分、耳を澄ませている。
「クリス、お仕事のようじゃな」
「…え?」
嬲られた熱が重い。
「多分新人だろう、此方に向かってくる」
「うっそ!」
カクが意地の悪い笑みを浮かべた。俺はソレを見て青ざめる。
「クリス、忘れるなよ」
「…何を?」
カクの手が手早くシャツのボタンを丁寧にはめていく。ずれた肩も綺麗に戻されて、ジャケットも腕が通る。
「今日はお茶会じゃ」
カクの笑みが濃くなって、頬に軽くキスされた。
「お茶会ッ!?」
耳がピクリと反応したようだった。カクは笑って俺のズボンのチャックも上げて、カクと会う前のように服装を整えるとにっこりと笑って頭を撫でた。
「パウリーと帽子屋と一緒に準備をしておくから仕事が終わったらおいで」
「うんっ!」
「じゃぁお仕事頑張れよ、後で」
そう言って最初みたいにすぐにいなくなってしまったカクを想って、今回は外されなかった手袋で頬に触れる。
「…お茶会かァ」
楽しみである。これまですごく退屈だったのに、そんな事なかったかのようにワクワクしている。
これならお仕事も頑張れるだろう。
3月兎、時計を持って走り回る俺の役目。
急に止められて、そして嬉しい事を目の前に突きつけられて性欲の事は頭から飛んでしまった。
俺の頭の中には仲の良い4人で始められる優雅なお茶会の事だけ。
だから、いろんなモノを巻き上げながらやってくる新人の方に瞳を向けた。目を向けて目を細めて、唇に笑みを刻んだ。
「お茶会、楽しみだなァ」
*
「…ここはどうなっているんだ?」
何故か深い森。日が射さない様な鬱蒼と茂る森に、目を見張る。
先ほどであった芋虫はすごかった。
紫色な上にキノコを食べて、葉巻を吸っていた。
どう考えてもおかしい。
だが、悩んでいてもしょうがないので仕方無しに歩く。
そうするとどう歩いたのか森を抜けて広い広場のような所に出た。
「…あッ!」
道のように整備され、一旦芝生が切れた黄土色の土の上。
「…今度はなんだ…」
「いらっしゃい、新人さん」
何のことだか全く分からない。
目を疑った。
「うわァ…、今回の新人さんは楽しそうだねェ」
兎の、長い耳。
「なんだ、おめェ」
白いジャケットに胸ポケットより頭を出す銀の懐中時計。
「うふふ、よく聞いてくれました」
兎の耳を持ってるくせに身長は人間と大して変わらない、人間みたいなのが笑った。人間みたいなのに頭の上から生える黒い耳が人間ではないと現実に戻してくれる。
「俺は3月兎。ま、名前は別にあるんだけどねェ」
…別にあるのか。
そして、きっと、なんで3月なのかは聞いちゃいけないんだろう。
「この世界に来た新人さんの案内係」
…それにしても、と呆れたように言われた。
「普通新人君ってのはここまで来ないんだけど…、よく頑張ったねェ? 皆娯楽に餓えてるから何も知らない新人が来ると遊びたがるんだ。大変だったでしょ」
あっけらかんと言われた。
「だから俺が迎えに行くんだけどさ、今日はちょっと気づくのが遅くなっちゃって」
てへ、と笑われた。
可愛いのかもしれないその態度にも、これまで自分が通ってきた道の困難さには負ける。
思わず拳を握ったが、それを使うことはないだろう。
「…ここはどこだ?」
「不思議の国。Adventures in Wonderland」
やたらと発音がいい兎だった。
「…ンで、俺はなんでここにいる?」
「それは知らないなァー、俺に聞かないで? 新人さん」
タタン、と切り株の上に乗って、くるりと回って見せた。
「ここに来る人は大体自分の意思でくるんだよ。まァ…時折女王が無理やり連れてくる人もいるっちゃァいるけど」
俺の役目は新人さんへのこの世界の案内だけだし。
そう言った兎は俺の方へと手を伸ばして、にっこりと笑った。
「名前は? 新人君」
「…アイスバーグ」
「アイスバーグ? へー、綺麗な色だよねェ」
「…は?」
「いや、こっちの事。気にしないで」
こっちの事、と言って兎は胸の前で軽く手を左右に振った。だがしげしげと覗き込まれるようにして視線を合わせられるとなんだか罪悪感もあって視線をそらす。
「…ん、なんだよ」
「ンマー、お前もなんだ」
じっと見つめあうこと数秒。先に兎が諦めて視線を引き剥がす。
「俺、睨めっこ得意じゃないからなァ」
「そういう問題か」
「そういう問題さ」
はっきりと言い切られて、言葉を交わす気もうせた。
「あ、アイスバーグ君」
名前で呼ばれるのは新鮮だ。しかも、その敬称が君、であるならなおさら。下げた視線を少しだけ引き上げて、兎の銀色の髪と紅い瞳を視界の真ん中に納める。
「いったい何処まで通ってきた? 帽子屋にはあったかな、女王は? チシャ猫は?」
「…帽子屋? チシャ…」
「チシャ猫、可愛い2匹の猫だよ。双子なんだけどね、全然似てないの」
兎は嬉しそうに説明した。
「…んで、猫と女王」
繰り返し言の葉にのせて首を傾げる。
俺が会ったのは変な花と大きな芋虫ぐらいだ、目の前のコイツを除けば。
「あってないな」
「ふーん、一応ね、女王には会わせるべきなんだァ。なんたってこの国の王だからね」
兎の首もとに巻かれた黒いファーがどうしても目に付いた。
…もしかしたらアレは…
怖い事なんかも考えてしまって、ぶんぶん首を振って頭から追い出す。
兎はそんな様子を不思議そうに目を細めてみていた。
だがソレも興味が失ったようにさっさと視界から消して、空を見上げて言う。
「女王のトコに行こうと思うんだけど、大丈夫?」
「…ぁ、大丈夫って何が」
「だからァ、女王と面会する心の準備」
鈍いなァ、と呆れたように首を振られた。
「結局面会するのか!?」
「当ったり前じゃん。俺の一存じゃァアイスバーグ君の処置は決められないしー、女王に会って色々聞くと良いよ」
兎が軽く身体の筋を伸ばすように腕を腕で引いた。
「俺の名前はね、アイスバーグ」
コキコキと鳴る骨の音。全ての骨と言う骨を、筋と言う筋を伸ばそうとしているらしく今度は前屈をしてから首を回した。
「クリスって言うんだよ」
急に名乗ってにっこりと笑って手をさし伸ばされた。
つい、反射的にその手を取ってしまって俺はその後酷く後悔する。
「『3月兎の名において、親愛なる女王陛下の御許へ』」
兎はただそれだけの断りの後俺の手を取ったまま不思議な術を使った。兎は切り株に立っていたはずなのに急に重力を身体全体に感じたと思ったら兎に肩を叩かれてそれも敢え無く消える。ぎゅっと瞑った目を恐る恐る開ければ見覚えなんか全くない、綺麗に手入れされた庭先だった。
その綺麗に刈り込められた芝の先に、東屋が見える。
兎はソレを手で示した。
「ほらアイスバーグ、アレが女王。いってらっしゃい、君に御武運を」
そう言った兎は、すぐに消えてしまった。
俺はその広大な庭先で、真剣に女王とやらに会うのかを悩まされる羽目になった。
*
「カク、パウリー!」
「おやおや、随分時間がかかっていたようじゃな」
「クリスっ! お前、危険とかなかっただろうな?」
すっかり帽子屋を忘れた形で兎と猫が仲睦まじく絡み合う。
「大丈夫だよ、だって俺は3月兎だからね」
「ンな事言ったって心配なモンは心配なんだよ」
「パウリーはちょっと心配性だよねェ?」
「そうそう、この国で儂らを恐れずクリスに手を出してくる輩なんて女王くらいじゃ」
だがカクはニィと笑った。
「ま、今回来た新人は随分と女王の好みっぽい感じじゃったが」
パウリーの腕がパウリーより背の低いクリスに絡まった。
「ンじゃ、俺たちでクリスを占領って事か?」
「そうなるかのう」
似てない双子の猫は笑った。
兎もこの後の名ばかりのお茶会に思いをはせてニッコリと笑う。
「さァ、お茶会を始めようか」
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