悠久の丘で
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carnival of snow

 珍しく雪でも降って、しかも季節が季節となれば1日中騒ぐにはおあつらえ向きな理由になるだろう。
 だってほら、そんなことでもないと満足に騒げないんだから。


  *


 そうでなくても、元々静かに静かに人数の多い探索班や暇を惜しんだ科学班、総務班が準備をしていたのだが。
 その前日、突如黒の教団を襲った吹雪には誰もが手放しで喜んだ。
 例え後日の肉体労働が目に見えていても人間である。目先の幸せに、とりあえず喜んだ。

 そんなこんなで現在、黒の教団はその外見からは予想すら出来ぬほど華やかに飾りつけされていたのだった。

「…えっと、これで全部かな?」
「て言うか、ちょっと待ってくださいよ、クリス!」
「アレンは遅いよー。愛しい愛しいリナリーが待ってるんだから早く早く」
 倉庫の中身をひっくり返すようにして必要な物を台車に乗せた。すでに2人とも『神ノ道化』を発動しているため、いくら生身の人間が持つには重過ぎる荷物も楽々運んでいる。
 持ち込んだ台車の上に必要なモノをどんどん乗せていく。もともと教団にあったものも含めて、科学班が今回のために製作した機材なども含めると、生身の人間では持ち上げる事はおろか、運ぶ事も出来ないくらいの量になる。
「…いくら必要だからって僕たち、肉体労働しすぎじゃないですか…?」
「何、リナリーにこんなクソ重いもん運ばせる気か?」
「いや、すっかり興味を失ってる神田にでも」
 台車になんとか乗せきった荷物の量を見て一人ごちるとクリスが笑った。だけれどもリナリーと言ってくるあたり、本当には笑ってないのだといい加減知る。
「ユウちゃん? だめだめ、雪かき班だからね、あの子とラビは」
 とりあえずアレンが知ってる若いのはそんなトコだよ、と言われて外を埋め尽くす銀世界を思い出した。
「…それにしても雪なんて久しぶりに見ました」
「うん、クロスが寒いトコ嫌いだから」
 さらりと頷かれ、でも暖かい教団に疑問を覚えながらシャツの襟を立てた。
「クリスはそういえば師匠と旅、したんですよね」
「うん、アレンを見つける前の…3年間くらいかなァ」
 人一倍薄着なクリスは寒くないのか半袖だ。まァ、何処からエネルギーを消費しているのか教団の中はあったかいのだけれども。
 だけど、いくらなんでも半袖はないだろう。外は吹雪いてるわけだし。
 クリスの、むき出しにされた腕に視線が行くとどうにも寒くなって自分の腕を擦った。
「俺の時も確かに寒い方向へは行かなかったね。クロス、寒いトコにいると疲れるんだってさ」
 なんか、嘘が混じっている気もしなくもないが、敢えてそれは無視しておいた。
「よし、上に戻るか」
 荷物もこんぐらいあれば十分でしょ、とクリスが言ったので埃っぽい倉庫から出る。石畳なせいでガラガラと台車が五月蝿いが、仕方がないと気にしないことにした。


  *


 倉庫から出れば一転、綺麗に飾り付けられた内部を見る。どこもかしこも緑と赤で溢れ、通常の教団にはない色が視界の中に飛び込んできた。
「こうやって見てるとさ、いつもの白黒が寂しく感じるんだよなー」
 独り言のようにつぶやいたクリスを見る。
「そう思わない? いつもはさ、やっぱり掃除とかは行き届いてるけどこんなに華やかじゃないもんな」
 倉庫から出て真っ直ぐの柵の向こうに、何処から持ってきたんだか大きな樅の木がある。緑色のそれにはリボンやベル、飾り玉が取り付けられて綺麗だった。
 このあと、運んでいるイルミネーション用の電球も同じようにして巻かれるのだろう。
 この電飾はなんでもコムイさんら科学班の手作りなんだそうで、だが既製品と同じ位に今の所、綺麗だ。ただ、確実にいえることが、「既製品はこんなに長くない」。

「クリスマスくらい、戦争の事、忘れても良いよな」

 皆が笑ってるんだ、とクリスがつぶやいた。
 1年生き残って、また今日のように教団が華やかになる日を迎えられない者も、恐らくはいる。
 それが戦争をしている以上仕方がないことだとはいえ、そんな簡単な言葉だけで流せる物でもない。

 だからせめて今日だけは。

「ほら、アレン。今日はゲストが来るぞ」
 いっきにクリスマスらしいうきうきした声に変わったクリスを見て、首を傾げる。
 そういえば彼は僕なんかよりずっと此処にいる年数が長くて、もう10年はいると聞いた。リナリ−と同じくらいに入ってきたらしいから、死んでしまった人も多かったのだろう。
 そんな事を内心思ってどこか暗くなって首を振ってそんな考えは追いやった。
「へェー、誰ですか?」
 だが、聞かなければよかったと、真剣に思った。


「えへへ。我等が師匠、クロス・マリアン」


 体に染み付いた条件反射と言うものは恐ろしく、急に体温が下がった。
「…し、師匠ですか?」
「ン、クロスだよ。キャットニーズに抵抗するようなら食べてもかまわないって伝えてあるから、来るでしょ」
 けらけらと笑ってはいるが、僕は師匠が来る、という言葉だけで腹痛に見舞われはじめた。
「…あの人、今どこら辺に…」
「キャットニーズは日本までお迎えに行ってる。だけど、迎えにやったのがもう何日かまえだからねェ」
 今はもうロンドンくらいにはついてるかな? なんて恐ろしい答えを聞く。
「…クリス、僕、このパーティーやすんじゃ…」
「良いけど、後でクロスと皆にいなかった説明をするのはアレンだよ」
 そう言われると弱い。リナリーは楽しそうに飾り付けをしているし、恐らくラビは、いないと知ったら引きずり出しにくるだろう。
「…なんで師匠なんて…」
「そうでもしないと、どこで野垂れ死んでるかわかったもんじゃなだろ、俺以外は」
 俺はアイツが何処にいるのか知ってるからいいけどさ。
 そういわれて師匠が僕を気絶させてから何処にいるのか全く知らない事に気づいた。
「…そっか…、僕、もうずいぶんと師匠にあってないんですね」
「そ、俺は別に今年にあったけどねー」
「え、何処でです?」
「アレンが『巻き戻しの街』に行ってる時。俺、ユウちゃんと一緒に1回本部に戻ってきたからね。その後街に入ったわけ」
 来るの、遅かっただろう? と言われて、納得する。
「だからミランダさんを助けてくれたんですか」
「ぴったりで、正義の味方みたいな登場だったろ」
 ケラケラと笑われて、曖昧に頷いておく。おそらくこの人のこういうちょっと”飛んじゃった”所はあの人譲りなんだろう。
 まァ、3年も旅をしていたなら頷けるが。

 まァいいですけどね、と前置きしてクリスを見る。
「師匠、よく本部に戻ってくる気になりましたね。あの時だって僕を殴って気絶させたのに」
「んー…戻ってきたくないんだろうけどね。俺はここに繋がれてるから」
 だから、かなァ、と暢気に空を見た。
「クロス、アイツ分かり辛いけど優しいんだぜ? 俺が小さいときに薬漬けにされたときも治してくれたし!」
「…薬…?」
「アイツはさァ、俺がここを出れない事、知ってるんだ。ここにいなきゃいけない理由を知ってる」
 僕の疑問をサラッと流して、クリスは前を見据えた。樅の木のあたりにリナリーを見つけたからか目元がフッと優しくなった。
「言ったっけ、クロスは俺に仮初でも自由をくれたんだ、って」
 俺は…と続くクリスの言葉が耳から抜けていく。なんだか聞くのが怖かった。

 そんなに淡々と言われても、人の過去なんて怖いだけ。

「俺が縛られてる理由は多分アレンだって知ってるんだろうけど、クロスはそれからちょっとの間解き放ってくれた。その間リナリーにはコムイがいたから」
 俺が心配する理由もなくなったしな。
 ヘラリと笑うが、なら何故今、まだ縛られているんだ?
「もっともあれが最初で最後なんだろうけど…、クロスはそこら辺分かってるから…、ね。此処に来てるれるのもそんな理由だろうな」
 クリスが柵に手を置く。発動していない方の左手を柵に置いて、いつの間にか『黒い靴』を発動させて飾り付けしていたリナリーに手を振った。

「後は酒飲みたいんだよ、多分」

 ちょっと、知らない師匠を知った。
 師匠は、別に適当な人ではないのかもしれない。

 そういえばまだ餓鬼だった僕を拾って育ててくれた…。
  たとえ、借金にまみれて僕がお金を稼いできたとしても。


  *


 クツクツと喉の奥で笑う。
 久しぶりの教団に嫌気がさすが、この中に居る”幼獣”には別だ。
「おい、キャットニーズ。お前の主人は何処だ」
 パタパタと羽根を強く羽ばたかせて上を向いた。まったくを以ってティムキャンピーに似ている。
 もともとアイツがティムキャンピーを元にして作ったのだから、似ていた所で不思議ではないのだが。
 このままティムキャンピーの所に連れて行かせても良いのだが、今は恐らくアレンの元にいるだろう。
 会ったら借金の束をつき返されそうだ。

 もう、雪は降っていない。
 だけれども今の時間帯を考えて窓が開くようなことはありえない。


 ―――…だけれども、目の前で開いた。


「あッ、やっぱりクロスか」
 顔を覗かせたのは銀色。
「お帰り、ホームへ」
 嫌味のつもりなのか、ニコニコわらって言いやがった。
「なんだクリス、嫌味か」
 小さい声で言ったはずなのに、アイツといえば4階くらいの高さにある窓の桟に手をついて首を振った。
 そして何を思ったのだかその桟に足を乗せ、そのまま――…落ちた。

 下が雪だからか、大した音もさせず静かに下りたと思ったら走ってきた。
 …教団内ですごす薄い、半袖で。

「…バカかお前は」
「なんだよ、クロス。せっかく帰ってきたのに早速喧嘩売るな」
 そう言っても寒いのか、口には出さないが腕をさする。ソレを見て仕方なく自分の団服を肩にかけてやった。
「…へ?」
「寒いんだろう、バカだな、バカ」
「だから喧嘩売るなって」
 ムゥ、と頬を膨らませ、だが感謝はしているようで持っていた鞄を持ち上げられた。

「お帰り、クロス」
「…帰ってくる気はなかったんだけどな」

 タバコをふかす。紅い火が燃えて見えた。
 息を吐けば流石に雪も降ったから白い。


「そんなこというな。良いじゃないか、今年は来てくれたからクリスマスプレゼントは免除してやる」
「てめェ、その歳でまだたかるきだったのか」
 え? とクリスが悪戯っぽく笑った。答えは分かっていたが、それでも聞いてしまう。
 毎年のように、そういえば何かやっていた。教団にいるときは。
 教団を出てからはクリスが会いにきたときに渡してた、そういえば。

「あったりまえだろ、馬鹿師匠」
「…ったく、どうしようもねェ弟子だな…」

 それでも笑う。
 べつにどうとも思わないが、なんとなく待ってる奴がいるってのは、暖かいと思った。



 ―――…特に、こんな世の中だから。



  *


 メリー・クリスマス
 聖なる夜に祝福を―――…

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