悠久の丘で
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アイシクルの雪

 今ここで貴方に逢えたから良かった。
 そう感謝したい日は必ず来る。


  *


 ミッドガル。
 通常は黒い煙を吐き出す産業都市であろうとも、この季節だけは綺麗に飾り立てられる。
 それはミッドガル一大きなビル、神羅ビルとて変わらず、いつもの白い無機質な外壁は色とりどりの柔らかい光で照らされていた。
 正面玄関前、自動ドアの邪魔にならない程度の場所にこの街の浮かれ具合を現すかのような大きな樅の木が現れたのも、季節柄であろう。
 本物の雪が降る事自体珍しいミッドガルでは樅の木の枝に重そうに圧し掛かる雪は冷たくも何とも無い綿。
 だが、掃除をする苦労を敢えて厭わず雪の本場アイシクルロッジから取り寄せた雪が、樅の木の下には柔らかく積まれている。
 楽しくて仕方が無かったのか樅の木には金や銀の大きなベルがつき、飾り玉がぶら下がる。
 靴下を模した飾りや、イルミネーションのための電球たちも丁寧に巻かれている。

 そして、社内、社外ともに装飾を進めているのは総務部調査課だった。

「レノ、そっちの…それ!」
「はいよっと」
 近くにおいてあった飾りに手を伸ばすと欲しかったソレだったらしく、松ぼっくりにリボン等のオーナメントがついた大きなベルを取って脚立に上がるクリスに渡す。背の小さなクリスは何をやるにおいても脚立が必要なようで、見ればずっとその上に乗っている。
「氷像班、どうなったかね」
 丁寧に壁に張り巡らされた飾りにベルをプラスしていきながら問いが漏れる。

 氷像、というのは雪と同じようにアイシクルロッジの奥から運んできた氷の事。

 飾りつけは毎年の事で、この時期は戦争になる。
 それというのも、社の印象を良くするとか何とか、任務が入っていない調査課はすべて飾りつけにおわれるからだ。
 社内と社外。
 60階を越える社内すべてを装飾で飾り付けていくのは想像している以上に過酷で大抵は社長室を除いた最上階から飾り付けを行っていく。
 12月を過ぎたらやり始めなければならないほど広い会社にも、飾りつける順番というものはあって、主に人の目に触れないところから進めていくのだ。

 12月も下旬な行事なため季節にあった頃合で外に宣伝したいそうな。

 だが、1週間で終わるような半端な飾り付けでは許しが得られないため、調査課の12月は戦場と化す。ただでさえ人数が多くないというのに飾り付けまで入ればそうも、なるだろう。
「あー、あれなァ」
 その中でも最も過酷な作業が氷像造りだ。
「今回はルードがいるから大丈夫だと…思うぞ、と」
 溶かしてはいけない為、氷が溶けない外か社内の冷凍室で行われるその作業だけは男性社員だけで構成される。
 寒い上に氷が硬い為、思うように作業が進まないのだ。
 下手に銃を撃とうというものなら兆弾し、気を抜けば凍死する。

 そんな作業に選ばれた哀れな職員は今年はルード、名前2、名前1の3人で、 誰に当たっても文句が出ないように公平にあみだクジにして、選出された。

 新人2人にとっては恐らくこの季節がもっとも過酷だった事だろう。
「去年はツォンが作ったんだよね」
「あぁ、そうだな、と。あと…俺と…」
 日本刀をぶん回す後輩。
「綺麗な氷像だったよな、去年は。女の人だった?」
 そうだな、と思い出して目を細めた。

 誰をモチーフにしてつくったとか、そんな事は聞いちゃいけない雰囲気の中での氷像造り。

 ただ長く少し巻き気味の髪の女だった。前髪はセフィロスみたいに上がっていて、だけれども目は優しかった。
 何かに祈るように閉じた目と胸の前で組まれた手。クリスマスには雰囲気があっていた。
「今年はどんなのだろう」
「さぁな、と。…きっとストレートの髪で長い感じの気の強そうな女じゃね?」
 相棒をからかう訳ではないが、あとの後輩にまかれておけば間違いなく作り直しになるだろう。
 そして、彼が思い浮かぶクリスマスにあった氷像なんて、きっとそんなものだろう。
「ほら、そんな事より」
 丸まっていた背を伸ばした。パキパキと腰骨から背骨にかけてが鳴り、いっきに何かが楽になる。この階に飾り付けられる予定の飾りもあとちょっと。そろそろ籠の底が見えてきた。

「早くしないとお嬢にどやされるぞ、と」

 また1つ飾りを取って組み込んでいく。
「…つか、なんでこんなの上手くなってもどうしようもない気がする…」
 もう何年もやっていればそれだけ手際もよくなりセンスも向上してくる。
 しかも最初に殴られて覚えてきた身としては、忘れようにも忘れられないので少し、悩みの種だ。
「別にいいと思うけど、上手だよ。レノ」

 …そりゃぁお嬢直伝ですから。

 そう言うクリスも丁寧で綺麗だ。そう言ったら少しはにかんだ様に笑った。
「あぁ…だって、やってたからね。毎年」
 両親が生きてた時には。 続いた言葉に言葉を呑む。
「…っと、悪いな、と」
「んー? 気にしないでいいよ、神羅のおかげで俺は生きてるようなもんだし!」
 特大な笑顔で返されると尚胸が痛むのだが、気にしたところでクリスの両親が帰ってくるわけでもないので頭の端から追いやった。
「ほら、レノさっさと終わらせちゃおう」
「了解だぞ、と」
 そう返事を返したときだった。

「あれ…、クリスじゃん!」

 黒の長髪が視界の隅に入って、クリスの嬉しそうな顔と翻ったスーツの裾が視界にはいった。


  *


「ザックス! いつ帰ってきたの?」
 クリスに抱きつかれその背を優しく撫でていたザックスだったが、こちらの視線に気付くとぺらぺらと手を振り、にやっと笑った。
「…やっぱり性格悪いぞ、と」
 小さく呟いたのに、ザックスはクリスを抱きこめると口の動きだけで問いた。
「んで、誰が?」
 クリスがいるから返せない事を知っていながら聞くのだから尚性格が悪く感じる。
 それに相手のペースに飲まれるとうっかりボロが出そうだったので、大きく息を吸い込んで落ち着かせてから今度はちゃんと話しかけた。

「んで、いつ帰ってきたんだ? 確かセフィロス隊は誰だかの護衛に出てたんじゃなかったのか、と」
「仕事終わったんだよ」
 他に何があるんだ? と笑われた。
「仕事に真面目な俺だぜ? サボったりするわけないじゃん」
 仕事以外は不真面目だけどな。 心の中だけで付け足して、だが表面上は何とも思ってないように繕うと顎に手をやった。
「へェ…最初の予定じゃァクリスマスはあっちで過ごす予定だったのにな、と」
「それが、博士が女の人でさ。どうしても彼氏と過ごしたいって頑張ってくれたわけ。おかげで俺もクリスとクリスマスを過ごせるけどなー」
 なー、クリス。とクリスに同意を求められれば何も言えなくなる。

 大体、女好きだったお前はどこに行った。と言いたい位にザックスのクリス溺愛ぶりには閉口する。きっとその内クリスが誰か別の男と話しているだけで機嫌が悪くなるぞ。

 あーあー、やだやだ嫉妬深い男って。
 そんな意味を込めて米神に指を当て首を左右に振るとすごい目で睨みつけられた。
 だけどそれで怯えてやるほど人間出来てないから挑発的に笑うだけにしておく。
 お互いにクリスがいるから言えない事なんてたくさんなんだ。
「ザックス…? 今日はルーファウスがね、パーティーやりたいんだって」
 ぎゅぅ、と抱きしめられ身動きが取れないからか、ザックスの首をポンポンと軽く叩く。
「…ルーファウス…、副社長か」
「うん、ザックスも参加する…」
「する。クリスと一緒だったら何処でも良いよ」
 けっと唾でも吐きたくなった。コイツ、完璧に見せ付けてやがる。
 ムッとして少しは結べるようになった後ろ髪を弄りながらクリスに声をかけた。

「クリス、さっさとこの階終わらせてお嬢の所に戻るぞ、っと」

「…ん、あっ…うん!」
 どうせ籠の中にはあとちょっとの飾り。ザックスがずっと此処にいたとしてもすぐに本部に戻れる。
 頭の中でそんなコトを考えてクリスに声をかけ、ザックスから引き剥がした。
「…っちょ、レノ!」
「レノ…? どうかしたのか?」
「お前…、せっかくの逢瀬邪魔すんなー!」
 吼えているザックスは無視して、クリスを脚立の上に乗せた。
「さっさと終わりにしてルード手伝いに行くぞ、と」
「…うん、わかった。だから…」
 籠に手を突っ込んで飾りをとったクリスを見て、その後ろに現れた明るい色を見つけて安心して飾り付けに戻る。
 クリスはザックスを透かしてその後ろに微笑みかける。


「クラウド、ザックスを途中まで預かっててもらえるかな」
「うん、リョウカイ」


「…クラウド…?」
 コクリと頷いてザックスの真後ろに気配もなく立ったクラウドはそのままザックスの襟首を掴んだ。
「ザックス、あんたセフィロスが呼んでるぞ」
「なんでだよー?」
 クラウドはどこか哀れむような目で見て、その後は笑いを堪えるように他所を向いていった。

「お茶、だそうだ」

 その答えには流石のザックスも目が点になる。
「…はァ? お茶?」
「そう。誰が淹れた茶でもなくあんたのが良いんだってさ」
 肩をすくめたクラウドはそのままクリスの方を向いた。
「お帰り、クラウド」
「…ただいま。悪いけど、ちょっと借りてく」
「うん、セフィロスによろしく伝えて」
「分かった」
 若いもの同士の会話は終わったらしくクラウドが踵を返し、それにつられてザックスの体も連れて行かれる。
「…っちょ、クラウド!?」
「いやだ、セフィロスの機嫌が悪くなる」
 随分ザックスの使い方とかが上手くなったな、なんて感傷めいた事を思って見送って、クリスの方を見ると微笑んでいた。
「無事で、よかったね」
「あぁ…、そうだな、と」
 いつ死んでもおかしくない職業についているからこそ、帰ってきたときの安堵感は大きいのだろう。

 ましてやクリスの両親は…

 余計な感傷に浸りそうになって、クリスの頭をポンポン、と軽くなでた。


  *


「遅いですわ!」
 本部に戻ればいきなりそんなコトを言われた。
「えーと…」
 すっかり空になった籠を手に持ち、所存なさげにドアの前にいると奥から出てきた後輩に文句を言われた。
「信じられるかレノっ! 氷像! 何回作り直したと思う!?」
 名前2の憤慨の後ろで名前1は大人しくタオルに手をくるんでいる。
「…名前1、それ、もしかして…」
「あぁ…、凍傷だ」

 間が、あく。

「…凍傷!?」
「あぁ」
 平然と言ってはいるが手には真新しい包帯の端が見える。
「大丈夫!?」
「大丈夫だ、大袈裟なものじゃない。それに…」
 ちらりと、その原因は…とでも言うように名前2の方を見たことに気付いたが、あえて何も言わなかった。
「…で、名前2。何回作り直したんだ?」
 多少笑いを堪える感じで聞くと酷く憤慨して若い後輩は片手を突きつけてきた。
「5回っ!」
 遠くのルードの手にも包帯が巻かれている。おそらくはこいつが原因なんだろうなと思ってデコピンしておいた。

「ほらほら、邪魔ですわ! 料理を運ぶか料理を作るか、それが出来ないなら奥に行ってくださいな!」

 お嬢の声に俺は頭を低くして早速奥へといった。ちなみに怪我をしている名前1は勿論、名前2も後に続く。
「俺…ッ、手伝うよ!」
 ただしクリスだけは料理の腕も見込まれてそのまま本人の声どおりキッチンに引っ張られていった。


「…ツォンさん、あれ、止めないのか、と」
「…主任ですら、彼女たちは止められなかった」
 げ、と顔が引きつる。
「…マジかよ」
 それもこれも…、とツォンさんは声低く小さく続けて、彼の後ろに視線を移した。

「ルーファウス様の一言だ」

 あぁ、あの『クリスマスパーティーをするぞ』発言か。
 …彼女たち、行事もの好きだからな…。
 そんなこんなで溜息をついていたらやけに来るのが遅かった名前1が腕に大きな布のようなものを下げてやってきた。
「…どうしたんだよ、と。ソレ」
「テーブルクロスだそうだ」
 あと…、と続く言葉を聞きながら後輩にテーブルクロスの端を持たせてもう片方を持ち広げてテーブルに敷く。

「クリスが来たから予定を早めてすぐにパーティーをやり始めるらしい」

 その証拠かキッチンの方でクリスが呼んでいる。恐らく料理でキッチンがいっぱいになっているんだろう。
「…なら、運ぶか」
 どうせ運ばなかったら手裏剣か銃弾かパンチか蹴りが飛んでくる。


  *


「よかったね、ザックスもクラウドもセフィロスも間に合って」
 形式は女性陣…というか主にお嬢の意見で立食式になった。皿を持って壁際でクリスは笑う。
「あぁ、本当に」
 予定を早めちゃったからね…。苦笑したクリスは決して悪くない。
「ごめんね、呼びにいけなくて」
「気にすんな、そんなコト! クリスは料理作ってたんだろ?」
 律儀な名前1の電話がなければ知らずにすごしていたかもしれない。クリスの携帯はレノに奪われた後だったらしいから。

 本当に心からの礼を述べて、ここにいる。

 皆調査課の制服でスーツだから、俺らもスーツに着替えて来たは良いが、セフィロスは端から食事を食っていってクラウドは物好きだからそれについて行っている。
 おかげで、今は2人。
 レノは良い具合に副社長が向こうで捕まえてくれていた。
「あー、そうだクリス」
「ん?」
 クリスの料理は美味い。毎日食べているから知っていたが、任務明けで尚美味しく感じた。
「目ェ瞑って」
 訝しげに首を傾げるクリスを良いから良いから、と目を瞑らせクリスの持っていた皿と自分の皿をすべて置き、任務から帰ってくる途中で買った、本当だったら今日渡せる予定ではなかったものをクリスの首にかける。

「はい、良いよ。クリス、メリー・クリスマスな」

 クリスの首に細い銀の鎖をかける。その先には指輪が通っていて、だがクリスには鎖が長かったらしく胸の中ぐらいで止まっていた。
「…ザックス、俺プレゼント家…」
 せっかくのプレゼントだってのにクリスは見もせずに悔しそうに唇をかんだ。
「別にいらねェって、プレゼントなんて」
「それじゃァ俺の気が治まりません」
 クリスは仏頂面だ。可愛くない事もないけどやっぱり笑ってるほうが可愛い。
「じゃぁさ…」
 へらりと笑った。

「来年のクリスマスも一緒にいような」

 本当にそれがいい。来年のクリスマスも、誰でもなく俺と一緒にいてくれれば。
 そう言うとクリスは呆れたように、だが笑ってうなずいてくれた。


  *


 メリー・クリスマス
 聖なる夜に祝福を―――…

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