悠久の丘で
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2日目

 栄大母様が90になると云う誕生日。
 今年も相変わらず長野は暑いし(勿論東京なんかよりは涼しい)、侘助は帰ってくる気があるんだかないんだか全く分からないし、夏希はまたなんか面白い宣言をしてしまったらしい。
 まぁ、ばあちゃんが大好きな彼女に何を言っても無駄なのはわかっているし、最近具合が悪かったらしいからそのせいだろう。

 そのせいだったのか。

「………どちら様ですか…?」
「お?」

 見たことのない男の子が居た。


  *


 お兄さんがすっかり呆けた顔をしていたから、何事かと思った。
「…佳主馬」
 そうしたら十七夜月兄が困ったような顔で此方を見てきたから漸くなんだかわかった。
 パソコンに向かっていた身体を戻して、てへへ、と年甲斐もなく頬の辺りを掻く十七夜月兄を見て溜め息を吐いた。そして、きっと靴が1つ増えているくせに姿を見せない親類に、師匠辺りは豪快に笑っているだろうけど、理一叔父さん(厳密には従兄弟違いと云うらしいがそんなの厳密に言ってたらわからなくなる)は、いそしそしながらこっちに向かっている頃だろうし、そうなると、早く十七夜月兄をどこかに隠すべきかとも思う訳で。
「―――…十七夜月兄、また何も言わないで来たの? おばさんに怒られるよ」
 だけど取り敢えずお兄さんが困った顔をしていたから聞いた。
「だって佳主馬に早く会いたくってさ。多めに見てくれるだろ、万理さんなら」
「―――そんなの十七夜月兄にだけだよ…」
 はぁ、ともう1度溜め息を吐いて。本当はこんな事をしている場合ではないのだが、そう伝えたところで十七夜月兄が自らお兄さんに自己紹介をしてくれるとは思えない。
 今此処にすぐに十七夜月兄が来てくれたという事実は非常に嬉しい。
 嬉しい。嬉しい。
 でも、やっぱりお兄さんの困ったような表情が気になって仕方無い。
「……お兄さん、これ十七夜月兄。万作おじさんの所の末っ子。それで十七夜月兄、此方健二さん。夏希姉が連れてきたんだって」
 はぁ、ともう1度溜め息を吐いた。
「佳主馬溜め息吐きすぎ。妖精さんが死んじゃうんだぞー? 佳主馬はそんな子じゃないよな?」
「……十七夜月兄、今ちょっと我慢できそうにないからあんまり触らないでくれる」
 ぺたぺたと触れてぎゅっと抱き締めたりもしてくる十七夜月兄の表情はいたずらっ子そのもので、だが今は此処にはお兄さんが居るせいでいつも通りというわけにはいかない。

 唯でさえ、いつ誰が入ってくるかもわからない場所。

 十七夜月兄にその程度の羞恥なんかありはしないと知っているけれど、俺にはあるから一応釘を刺した。
「もうちょっとでどうせ理一が来るよ、それまで待って」
「……佳主馬くん…?」
「お兄さん、十七夜月兄にはあんまり近付かない方が良いから」
 陣内家にはいないタイプのお兄さん。
 そんな事で十七夜月兄を盗られでもしたら困る。
「…は、あ、…え?」
「酷いなぁ、佳主馬。俺は危険人物かい? 確かに危険でないとは言えないけれどね、健二…くん、だっけ。よろしくな」
 困惑するお兄さんを置いて、十七夜月兄は俺の心を読んだみたいににやにやと笑ってから満面の笑顔でお兄さんに挨拶をする。

「―――十七夜月兄、性格悪くなった?」
「いいや? もしかしたらこの間までの仕事のせいかもな」
 元から意地は悪い十七夜月兄。
 本当にムカつくのはそんな事しても十分魅力的すぎるくらい綺麗で可愛くて恰好いい所。
「ほら、この間までは性格悪いのが主人公で書いてたからさ」

 頬を撫でる仕草も、久しぶりに十七夜月兄に触れられる感触も、身体が思わず震えそうになるくらい気持ち良い。
 本当に、本当に、愛してる。
「それで―――…、健二くんはなんで佳主馬の根城に居るんだ? パソコンは確かに此処にしかないかも知れないけど」
 それで思い出した。
「―――ぁ、十七夜月兄、今、OZに入れる?」
「OZ? あぁ、朝から不調なんだっけ。入れるぞ」
 はい、と言って差し出された携帯の画面には、見事な尾を持つ狐のアバター。9つもある尾をゆらりゆらりと揺らすアバターは、十七夜月兄専用のアバターだ。書いた小説に因んで作ってくれたのだと聞いた事がある。
「どうした? 佳主馬が入れなくなった訳じゃないし…、あ、健二くんか」
 パソコンをちらりと見る十七夜月兄の目が滅多に見れないほど真剣で、一瞬声が出なかった。
「…よくわかりましたね…」
「少し考えれば簡単だ。そういや君の写真はニュースでよく見たしな」
「そ―――…」
 お兄さんの表情が一瞬で固くなった。
 それを見て十七夜月兄は唇を吊り上げて笑った。
「くくく。安心しろ、佳主馬が力を貸す子に悪意があったとは思えないし、君には動機も度胸もなさそうだ。俺が健二くんを追い出す理由はない」
 翔太はどうかわからんけどな、と続いた言葉と、沢山の足音が重なって、どちらが先かなんてわからなかった。
「…おや、怒られてしまうかな」
「―――十七夜月兄、楽しんでるだろ」
 頬に触れて背に胸をくっつけていた十七夜月兄は、お兄さんの方を見てにやりと笑った。
「さあてね。誰の仕業だろうねぇ、うちは色んな方向に人脈が厚いから、どちら
側かわかったものではないな。俺か、健二くんか。さてどっちだろう?」
「―――…十七夜月兄は何をしたの」
 まるで使っているアバターのように目を細めて、笑った。豊かな尻尾でもあったらさぞ優雅に振っていることだろう。
 そして彼はそのまま舌を先だけ出して、お茶目に笑う。
「まだまったく書いてないんだが、放置してきちゃった」
「―――ん?」
 ふぅん、と言いかけて、何かに引っ掛かって言葉がそれしか出て来なかった。
「ははは、担当くんはこの夏に首を吊ってしまうかもねぇ。大袈裟なんだよなぁ、彼」
 ちゃんと帰ったらやるのに、と唇を尖らせる。
 それは何というか笑い事ではないのではないか?
「十七夜月兄?」
「大丈夫だよ、いくら俺でもばあちゃんの誕生会に彼女の嫌がる事をする訳ないだろう? ちゃんと会社には許可を取っている」
 意図を汲んで告げられる声に、改めて凄いと思う。
「―――…あの、十七夜月さん…の、ご職業は…?」
 そんな状況でもないのに恐る恐る聞いたお兄さんの問いに答えるのと、戸が開いて人が押し合いながら雪崩込んでくるのは一緒だった。

「俺? 小説家」
「―――…あはは…、バレちゃった」

 思わず人の波にパソコンを退避させた。


  *


 当然の如く、夏希姉、お兄さん、十七夜月兄は並べられて怒られた。
 ―――特に十七夜月兄。
「十七夜月、どうして来てすぐに挨拶に来なかった?」
 理一に真正面に座られて怒られている。
「…だって、理一もばあちゃんも誰かの相手してたから。邪魔だと思ったし、佳主馬はまた1人なのかと思ったら佳主馬に会いに行ってしまうだろう、どう考えても」
 十七夜月兄は真っ直ぐに理一の事を見ない。
 拗ねたように視線を逸らして、時折しゅんと項垂れて其方を見る。
 その表情が酷くずるくて、俺とほぼ同時に理一が顔を逸らして口元を手で押さえた。ここからだと、非常に口元がニヤついているのがわかる。本当に、アイツ、ただの変態なんじゃないかと思う日がずっと続いているんだが、どうなんだろう。
「それに俺、佳主馬のこと大好きだしー」
「何!?」
「俺も好きだよ、十七夜月兄」
 ぴっと手を上げたら、理一に凄い目で見られた。負けじと睨み返してみたら、ソレを見て十七夜月兄が笑ってて、なんか凄く幸せな気分になったので十七夜月兄に微笑み返しておく。
「本当に可愛いねー、佳主馬。愛してる」
 ちゅっと投げキッスを投げられて思わず鼻を押さえたのは正解だ。流石にこんな所では鼻血も出せない。十七夜月兄の家ならまだしも。
「十七夜月…ッ!」
「はいはい、りーちも好きだよ? りーちの事もちゃぁんと愛してますとも。だからそんなに怖い顔しないでくれるか? 健二君が吃驚してるじゃないか」
 逃げ出さないように、と何故か後ろ手にタオルで縛られている手をえいと持ち上げて、主張してみせる。
「理一ー、常識ある大人の行動ではないと思うよ? なんで縛るんだよー、そういう趣味はまったくないし、逃げないからさぁ」
「なら、ごめんなさいは?」
「僕は悪い事をシたつもりなんてありません! りーちが悪い」
 ふいっと背ける顔がまた好みで、視線が合うと笑ってしまって、理一に睨まれる。


「―――…十七夜月、理一、佳主馬、話が進まないから他所でやりなさい」


「…はーい」

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