悠久の丘で
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彼が彼を選んだ理由

 俺はどうしても十七夜月に聞いておきたい話があって、それを確かめるのは今日以上に相応しい日などないように思えた。
 なにせ今日ハルヒは長門と朝比奈さんを連れ新しいコスプレ用の衣装を買いに行ったし、古泉は何時ものようにバイトだと言って申し訳なさそうにしながら帰って行った。今日は特にハルヒの機嫌が悪いわけではないし、古泉も閉鎖空間が発生したときのようなピリピリした雰囲気を纏っていたわけではないから、恐らく「機関」とやらへの定期報告にでもいったのだろう。
 ―――そんな訳で今現在、この物寂しい部室には俺と十七夜月の2人だけ、と云うことだ。
 ずずっと行儀が悪いとは思いながら多少の緊張もあって朝比奈さんの淹れてくれたお茶を飲む。まだじんわりと掌に熱くて、飲めば少し何時もと味が異なった。
 そういえば新しい茶葉を買ったと言っていただろうか。ふむ、今回のお茶も美味しい。まァ朝比奈さんの御手の差し出すものなら何でも美味しいけどな!
「十七夜月?」
「―――ん、何、キョン」
 十七夜月は本を読んでいた。なにやらこの間から長門と結束して何かを読んでいるらしい。珍しすぎる長門のぎこちない微笑みが見れる、数少ない瞬間だ。谷口に教えてやったら何日でもこの文芸部の部室に入り浸るだろう。
 邪魔なだけだからな、御免こうむるが。

「聞きたいことがあるんだ」

 その言葉に十七夜月は手を止めた。珍しいね、と言って本に栞をはさみこむとパタンと閉じ真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
 …頼むからそんな目で見ないでくれ、俺はその眼に弱いんだ。
「嘘付け。お前はそんな簡単なことで陥落できるような奴じゃないね」
 それは過大評価のし過ぎというものだ。一体全体十七夜月は俺をなんだと思っているのだ?
 空になってしまった湯呑を静かにおいて、ムッとする。
「俺思うわけ、絶対一樹の方が陥落しやすいって。キョン色んな所で流されてる割には意外と自分を持ってるから、それに反することだと意地でも折れないもんな?」
 ―――そんな事はないとも。じゃなきゃ朝比奈さんに対するハルヒの妄言を許さないのは何故だ? 俺は正直なところ結構見たい。
「それはお前がむっつりだから。脱ぐなら自分の前だけでって派だろ」
 十七夜月は軽く言うが今の一言で俺はいたく傷ついた。そんな風に思われていたのかと、今更ながらかなり凹む。
 すると十七夜月は笑った。
「キョン、あんまり可愛い事してると襲うぜ?」
 ずい、と机の向かい側から身を乗り出される。


「の…ノーセンキュー」あまりにもいきなりで焦った。


「そんなに遠慮しなくていいぜ? 俺キョンの事も好きだから優しくしてあげるけど」
「いいいいや、遠慮する!」
「―――そんなに遠慮するこたねェだろうって」
 十七夜月が少し傷ついたような視線を投げかけ、それを受け取るとなぜか悪い気がしてくるから不思議だ。だからその視線に弱いって言ってるんだ、この野郎。
 十七夜月は傷ついたような視線のままテーブルへと突っ伏し、だけれども腕を枕にして顔を伏せる。
 時折ハルヒ達を帰したあと致していたりするから、まァ賢明な判断だろう。
「ンで聞きたいことって…?」
 あァ、そうだった。俺はお前に質問があるんだ。
 …それを俺が口に出すのは至極憚られ、恋する乙女なんかじゃない図体のでかい俺が聞くことなんて間違ってるような気がして仕方ないのだが。それでも気になっているのだと言えばそれまでで、十七夜月の問いかけから十二分に時間をもらったあと、俺は本題を切り出した。

「……なんで、古泉なんだ?」
「何が?」
 本当になんなんだろうな…?
「―――…十七夜月が選んだ人間が」

 口に出すと恥ずかしさだけが先行して顔や首のあたりがすごく熱い。
 大体何なんだ? それじゃァまるで古泉に嫉妬してるみたいじゃないか。そんなことは決してないぞ、断固拒否する。
 俺はいろいろ百面相をして内心身をくねらせていた。
 恥ずかしすぎる! なんだソレ!
 十七夜月は俺が百面相している間によせば良いのに面白そうに俺を見つめていた。
「…キョン、嫉妬か? あまり可愛い事するなよ、犯すぞ」
 それについてはさっきも拒否したはずだがな! その肉食獣みたいな目をやめてくれ、正直かなり怖いんだ、その眼。
 大体十七夜月は先ほどからいちいち声色を操作しすぎだ。お前、いつもの声からずいぶん低いじゃないか、そんな声で言われたら女だったらすぐに落ちるだろうよ。
「俺、女は嫌いだからいらない。俺は高校に入ってからキョンと一樹で十分」
 こんな事をさらりと言う十七夜月、男は高校に入ってから体験した、というのだから驚きである。天然タラシめ。
 十七夜月が手を伸ばす。その手を取ってやって細くて長い指を撫でていたら十七夜月が小さくつぶやいた。

「―――俺が一樹を選んだのは…」
「選んだのは?」
「……理由言って引くなよ?」
 ―――…引くような理由なのだろうか。いやいや大丈夫。まさか古泉のような変態な理由ではないだろう。
 小さく頷いた。

「―――…一樹の、お綺麗な顔見てるとどうしても歪めてやりたくなって」
 はァ?
「あれだけ綺麗な顔だから快感に歪んだら最高だろうなァって」
 十七夜月の表情が恍惚としたものに変わる。
「実際一樹の顔は綺麗だったぜ? 男に嵌る位には綺麗で…媚びてくるような女共を嫌いになりきれるくらい好かったし」
 抱きたいって言ってるのに最近じゃァ抱かせてくれない、と小さく不満を漏らした。


 そりゃそうだろう。今言ったことすべて十七夜月にも当てはまるのだ。
 俺でなくとも古泉でなくとも嵌る。


「それに彼氏がいた方が電車で痴漢されにくいし」
 おい。
「最近は脂ぎったおっさんもあんまり手を伸ばしてこなくなったし」
 おい。
「電車降りて吐き気が酷くなるくらい触られることもなくなったしな」
 何故そんなにすっきりした顔なんだ、お前は。それは嫌がって良いんだぞ。
「…別に、今更だしな」
 そんなもんに慣れるんじゃない。
「キョンは良い子だな。…でもこの世の中はキョンが思ってるよりもっと複雑で醜い世界なんだぜ」
 何故そんな風に諦めたように笑うんだ。笑えないなら笑わなくて良いんだ。
「電車乗るとほぼ毎日のことだからな、いい加減諦めもするだろう? 俺は男だから、痴漢されたなんて言いたくもねェし。……女にしてもそうだろうけどな」


 そう言って十七夜月は笑って、それに、と続けたから俺はそれ以上言葉を紡げなくなった。

「それに、俺を1番必要としてたのが、うちのクラスの中じゃ一樹だったって訳だ」
「必要…?」
「そう。この世の中に、この学校の中に、自分の生活の中に。いずれにせよ自分の居場所が曖昧すぎて見失ってたんだよ一樹は。機関に所属しながらその能力は周りに認められるものではないし、一樹の存在は涼宮とか俺みたいなの――俺と涼宮を同列に語るのはおかしいけどな――のために在るようなもんだから」
 十七夜月が指を組む。
 その指を静かに見つめる瞳は静かで、瞳には何の色も浮かばない。
「だから俺は一樹に居場所をあげたわけ。どうせ俺も――他の奴らと馬合わなかっただろうから実質的に俺も助かってるわけだし、俺は今、あの子の事も愛してるけど」
 言うと十七夜月は少し遠慮気味に視線だけを上げた。
「…俺の居場所はお前か一樹が居る所だとおもってるんだが…、それで良いのか?」
「………なぜ俺に確認するんだ?」
「いや、嫌がってたら悲しいなと思って」

 そう言った十七夜月はやはり可愛らしくて。

「嫌なものか」
「…そう、か」
「あァ、俺も十七夜月と一緒に居るのは気に入ってる」
 好きだ、と素直にいえないところは大目に見て欲しい。
 俺にはそんな古泉みたいな安売り大セールが出来るほど笑ってやれないし、大体王子様属性なんて欠片も無いんだ。しかも笑うことが専売特許の奴もいることだし、そういった部分に関して俺の分はかなり悪いんだよ。


 だがそんな事はわかっている、とばかりに柔らかく笑む十七夜月の表情を見て珍しく、この部室に朝比奈さんの存在以上の大切さのような感情が芽生えた事に俺が気付くのはもう少し先のことになりそうである―――。

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