悠久の丘で
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33 君をどれだけ愛しているかなんて知らない
「なァ、馨」
名前を呼ばれる。
「おい光!」
名前が、2人で一緒のものではなく、固有のものとして耳殻を打つ。
そして笑いかけられる表情も2人に1つのものではなく、個人個人に。
「「なに、十七夜月」」
だから僕らは笑う。
彼が僕らを全くの同一として、
そして彼が僕らを全くの別の者として呼んでくれるから…、
*
「おい光。明日、学校早いとか言ってたか?」
「あ、うん。明日は早いらしいネ」
僕は実際よく知らなかった。そういえばハルヒがそんな事言っていたかもしれない。
「なら終わったら連絡寄越せ。俺様直々迎えに行ってやる」
ニヤリと十七夜月が笑って、
「今日中に…つか寝る前に馨に会えば俺も言うけど光のほうが馨に会うだろ? 伝えておけよ」
「うん、分かった」
ついへらりと笑い返してしまう。
「…あれ、お前何か良いことでもあったのか?」
「なんで?」
頬を左右に引っ張る。それを見た十七夜月は苦笑して僕の腕を止めた。
「…こらこら、お前顔綺麗なんだからンな事すんなっての。…ほら、頬紅くなっちまってるだろうが」
十七夜月の手が頬に触れる。確かめるように何度か頬を撫でる。
「十七夜月―――…ッ」
「なに?」
「…ぁ、ちょ…」
「触らないで、って? 顔真っ赤だぜ、可愛いなァ光」
悪戯を思いついた子どものような目で十七夜月が僕を見る。舌をチロリと覗かせた十七夜月がにやりと笑って首に顔を寄せた。舌の濡れた感触が背筋を這い鳥肌が立つ。
「十七夜月…ッ」
「そうしてれば随分可愛いよなァ、光。感じちゃった?」
「―――性質、悪い…よッ」
「おうおう、性格も悪いからな俺様。やめて欲しい?」
十七夜月が舌を浮かして目元を拭った。
「…ン、しょっぱいなやっぱり」
「……十七夜月、趣味悪い」
何かおかしい気がする。いつもはこんなに触れてこないのに。
嬉しいが僕も手を出して良いのか悩む所だ。
「あァ、今日偶然な?」
にこにこと十七夜月が笑う。
「馨から貰ったジュースにいつも通りではあるんだが薬が入っててな」
「…十七夜月、よく頑張るネ」
「あァ、俺もそう思うよ。随分と我慢強いらしい」
くすりと笑う十七夜月にいつも以上に色気があって困った。
「ンじゃ俺は部屋行ってるから」
十七夜月が触れていた手を離して、額に掠めるようなキスを置き去りにケラケラと笑って去って行った。
そのやけにすっきりしたような笑顔が可愛くてムカつく。
あァ、もう、クソ可愛い…
いつになったらあの25歳は慎みとか、恥じらいとか、そう云ったことを憶えてくれるんだろう。
まァ嬉しいけどね、可愛いしね。
―――…学校なんかに、連れて行けないけどネ。
いや、連れてってるケド。自慢するために。
「―――…ねェ馨」
「………あれ、バレてた?」
「うん。多分気付いてないのは十七夜月くらいのモンだって」
あはは、と馨が笑った。
「薬入れたって本当?」
「うん。だって十七夜月に何かあげるなら入れなきゃって…なんか段々鏡夜先輩に毒されてきてるような気がするよ、僕」
「…まァ、十七夜月の事だから大丈夫だろうケド」
「ねー。最近十七夜月慣れてきちゃったから次はどんなのにするか悩むんだよね」
「十七夜月も大変だな」
「そりゃァ…僕らに好かれちゃァ、ね」
お互いに苦笑した。
僕ら2人だけの世界。
その扉をはじめて叩いて入り込んできたのは十七夜月だった。
そりゃァ―――覚悟してもらわなきゃいけないだろう、と2人して笑った。
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