悠久の丘で
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猫のある風景

 朝起きていつも通りの生活がまた今日も始まるのだと、心の底から期待していた訳ではないが―――それでも、そうなる事を望んでいたはずだった。
 そう云うのは、いつも通りの生活のスタートなんかでは、全く無かったからである。

「―――…嘘、だろ」

 呟いて、一瞬学校を休む事も考えたがこの自分だけの領域にコレ幸いと踏み込んでこようとする女子の群れを想像して吐き気で倒れそうになった。
「―――それだけは避けるべきだな…」
 学校で癒される人物といえばあの2人だけで、自身に残された癒しの空間をこんな事で失うのはあまりにも馬鹿すぎた。第一、こんな所まで押しかけられたら今まで2人をつれてきたことが芋蔓式にバレていくだろう、それもあいつらに迷惑をかけるだろうから避けなければなるまい。

 ―――…と、いうわけで仕方なしに帽子を探し始めた。








「―――おはようございます、十七夜月」
「おはよう…」
 机の上でぐったりしている。何故なのか分からないが、一見して女物ではないのかと疑いたくなるようなフワフワの帽子を、今日は被っていた。折りたたむと長方形に近い形になる、実際に被れば猫のように、頭部の左右に耳のような三角が出来る、アレである。
「どうしたんですか、その帽子」
 十七夜月の1つ後ろの席に鞄を置いて、問う。
「―――…どうもしないけど、家に在ったから。似合うか?」
 そんな理由でこんな学校全体を騒がせるような事をしないのだと信じている僕としてみれば―――嗚呼、何かあったのか―――と思うだけで、それよりも遥かに応える声にすらも力がない十七夜月が心配になった。
 確かにそんな女物の帽子が家に在ったというのも驚きだが――十七夜月は1人暮らしである――、似合うかなど、聞かれるまでもなく答えは決まっているので、やはり僕の関心は元気のなさそうな十七夜月の様子に移る。帽子を被ってきた理由もあるのだろうから、ソレも同じく。

 彼の漆黒の真っ直ぐの髪を縁取るような雪のように白い帽子が尚更彼を目立たせている。恐らく今日クラスの前で意味不明の渋滞に巻き込まれた事も、先ほどから囁く声が幾重にも折り重なって大きな騒音となっている状況、その他諸々が彼に1因があるのだ。
 そして彼はソレにすっかり嫌気が差して―――もしかしたら髪でも触られたのかもしれない、彼は不用意に触れられることを嫌うから―――こうして不機嫌なのだ。
 これによって彼の人気の高さが伺えるが彼にとってソレは邪魔でしかなく、時折思い出したように光るフラッシュも邪魔にしか思わないのだ。上級生の黄色い声も、何故か―――とは云えなかったが―――熱視線を送る男子生徒の存在も邪魔、という大きなくくりの中にしかない。
 恐らく、彼が登校して以来、現在に至るまで1年9組に覘きに来た生徒の数も、彼の苛々の原因になっているのだろう。
 僕はいろんな意味を込めて、溜息をついた。


 例えばコレほどまで人気を博する彼の存在とか、
 例えば暇人としか思えないようなこの人数とか、
 例えばコレを耳に入れた涼宮さんの反応とか、
 例えばこの後彼の機嫌を直すために自分がとるであろう行動とか、


「似合ってますよ」
 本心である。
「だからですね、クラスに入り辛かったのは」
「煩いし、いっぱい触るから頭痛いし、もう帰ろうかな―――…」
 受け答えの仕方が幼児のようだ。拗ねたようなその表情も可愛らしいが、そんな事を考えている場合ではないだろう。コレは余程参っている証拠だ。
「今日帰っては涼宮さんが残念がりますよ。今日は会議を行うと、はりきっていましたから」
「―――…うん」
「保健室でも、行かれますか?」
「……それは、嫌。あそこ寝させてくれないし、セクハラされる。触られるの嫌いだから行きたくない」
 すでに言葉に接続詞や修飾語が減ってきている。良くない兆候だ。

 だが、その言葉の中に引っ掛かりを覚えたのもまた、事実で、

「……セクハラ?」
「そう」
 なんでもないように応える十七夜月が恨めしい。
「僕は存じ上げておりませんが」
「キョンは知ってるよ。俺が何時だったか…保健室で寝てた日、アイツはその現場を見てるからな」
「キョ…!?」
「キョン。昼に迎えに来てくれた日」
 ―――あの日か。
「年増とは言わないけどさァ、化粧が臭いンだよあの人。お前みたいなのとかキョンみたいなのとかなら頭痛もしないってのに」
 素直に喜ぶべきか。
「古泉」
 少なからず、胸が痛むのは否めない。
 教室であるからして―――…、そしてそれが十七夜月の癖であることも承知の上ではあるが、それでも流石にきついモノがある。
「―――…一樹」
「…え?」
 スッと、十七夜月が顔を寄せた。そして人の目が在る所で髪に手を入れ込み、頬に触れる。
「―――か、十七夜月?」
「古泉、目にゴミ入る。じっとしてろ」
 そう言って更に顔を寄せる。
「……すっごく、泣きそうな顔した。そんなに苗字で呼ばれるの、嫌いか?」
 小声で問われて、恐らくはソレだけを言うためだけに顔を寄せた十七夜月に、今度は微笑む。
「――――――いえ、大丈夫です」
「でも」
「十七夜月、目のゴミ、取れましたか?」
「…あァ、ばっちり」
 笑んで、十七夜月に頬から手を離すよう視線にて促す。
 十七夜月は時折感じる強い視線に苛付くのか時折鋭くドアのほうへと視線をやり、その度に一瞬だけ、教室の喧騒が嘘のように静かになる。
「…煩いし、俺、サボろうかな。今日の授業は」
「ノート、貸して差し上げた方がいいですか?」
「いいの、一樹もサボるんだからンな心配しなくて」
「――――はい?」
 聞き返したら何を今更、という視線で見られた。

「お前、まさかとは思うけど俺を1人でサボらせるつもりか?」
「―――…いえ、ご一緒させていただきます」

 確かに1人にさせておくよりは、遥かに、自分もついていった方が安全だろう。
 それが仮令授業を抜け出すのであっても。

「それにしてもサボるにしたって何処に行くんですか?」
「部室棟なら誰も来ねェだろ」
「そう…ですね」
「そしたら俺が今日嫌々ながら帽子被ってきた理由を教えてやる」
「はい、ありがとうございます」
 胸に手を当てて微笑む。
 本当に十七夜月は素直じゃなくて、良い。素直な十七夜月も十分魅力を感じるがどうしたって、この、素直じゃないものの言い回しがグッとクる。

 しかも嫌々だったのか。可愛いのに。

「HRは出ますか?」
 そう問えば十七夜月はやけに真面目な顔で頷いた。
「一応出席だけは取っておく。ンじゃねェと俺がこんなに我慢して教室にいた意味がなくなるだろ?」
 本当に、素直じゃなくて可愛い。






 1限目開始を告げる鐘が鳴った。
「ん―――…静かで良いな!」
 そりゃそうである。只今授業中、こんな時間帯に教室を抜け出してこんな所で大騒ぎできる人物がいれば恐らくソレは只の大馬鹿者か、もしくは余程の大物に違いない。
「十七夜月、そこはキョン君の教室から見えますから」
 本当は、教師に見つかるから下がれ、という意味で言ったのだけど。
 窓辺に近寄る十七夜月を見ればそれも云えなくなった。
「キョン? 何処何処?」
「ほら、後ろの方の窓際です。涼宮さんの前の席ですよ」
 黄色いリボンが見えませんか? と問えば、面白そうな十七夜月の声が聞こえた。
「わァ、キョンの奴寝てるぜ!」
「え、何処です?」
 確かに彼は寝てましたよ。
「キョン凄ェなァ。あの涼宮の前だよ? よく寝れるよな」
「…ァ、涼宮さん、何か投げましたよ」
「……あれは…、消しゴム、かな」
「―――…そうだと思いたいですね」
 そう言ったのは次にカッターと思われるものが飛んだからである。
 ちなみにカッター(仮)はクルクルと軌跡を描いてお尻の、刃が出ない方を下に、頭にぶつかった。
 キョン君はガバッと身を起して文句を言いたげに涼宮さんを見たが、それよりも先に怒りを露にする教師の青筋を見つけていた。涼宮さんは本当に楽しそうに笑っている。
 キョン君は嫌そうな顔をして眉が中心に寄っていた。
「こうして考えるとさァ」
 十七夜月がまっすぐに窓を見たまま呟いた。
「俺って、キョンの事、本当は良く知らないんだろうなァ」

 クラスの皆が絶対に知りえない事を知っておいて何を云う、と思いはしたが何も言わなかった。曖昧に微笑むだけで止めておいた。


 だって、そうすれば少なくとも僕は彼を、十七夜月を知っているのだと思えるから。


「…なんか悔しいな。2年で上手いことクラス同じになったりしないかな」
「…そんなにキョン君と一緒がいいんですか?」
 少し、拗ねたような口調になってしまっただろうか。
 十七夜月は呆れたように腰に手を当て、何を言ってるんだ、と視線で強く云った。
「馬鹿。お前と俺とキョンがいるから楽しいんだろ?」
 肩を竦めて、
「お前はそう、思わないの?」

 正直なところ彼とはライバルのような関係で、
 だけれども彼と十七夜月については考えを共有していて、

 悲しませたくないとか、
 泣かせたくないとか、
 笑っていて欲しいとか、
 傍に居て欲しいとか、

 そう云った事、普通と思われること全て凡て、
 だから、

「いえ。心から思いますよ」
「本当に?」
「えェ、本当ですとも」
「―――なら、今度は一緒になるな。たぶん、涼宮が望めば」
「そうですね」
 確かに彼女は十七夜月をも気にしているようですし―――その辺りは以前、彼が他の誰も寄せ付けなかった新世界に存在できたあたりで証明できるのではないでしょうか―――、…僕だけ別のクラスとか、ありえそうで怖いですけど。
「大丈夫、俺を癒せるのはお前かキョンだけなんだから」
 それはどういう意味でしょう?
「だから俺がお前を必要とする。それなら問題あるまい? 離れたら…また部室に入り浸っていれば良いし」
「正直こんな心臓に悪いことはしたくないンですけどねェ」
「俺は大丈夫。教師受けいいから」
 そりゃァ良いでしょうとも。
「―――遠慮してほしいよなァ、視線がエロいんだよって投げたら過剰防衛だと思う?」
 …微妙ですね。
「どなたですか?」
「5組の担任」
「投げましょう、すぐにでも」
「だよな!」
 十七夜月は嬉しそうに笑っていた。
「後で投げにいこう!」
「えェ」
 決して止めないだろう、と、恐らくはキョン君まで交えて大乱闘になりそうな予感を胸に抱きつつも頷く。

「よーし、ンじゃ昼休みって事で」
 満足したように十七夜月は笑むと窓辺から離れた。そして僕の手を取ると僕を常日頃涼宮さん、キョン君が座っているパソコンの前の席に座らせると、膝に乗り上げてきつく抱きしめられた。
「…十七夜月?」
 これほどまでに積極的なことは幾度かあったが、それでもこれは記念になるのでは、と思ってしまうくらい積極的だ。
 ついつい腰に手をまわした。
「…一樹、帽子とって」
「帽子、ですか?」
「ん…、帽子」
 小さくコクリと頷く。本当に猫なのでは、と思ってしまうくらいには可愛い。

「…なら、失礼します」

 それもどうかと思ったが、それ以外に何を云えばいいのかよくわからなくてそんな事を云った。
「…あんま触るなよ」
 何のことだろうか、と思っていたが、そんな僕が馬鹿だったと思った。

「十七夜月」
「なんだよ」
 拗ねたような照れたような声が可愛らしい。
 そして―――…

「十七夜月、今恥ずかしいンですか? 耳がペチャンコですよ」
「言うな!」

 十七夜月の頭部には左右に三角―――柔らかな毛に覆われた―――耳があった。

「あァ、なんて可愛らしいんでしょうかね。十七夜月、これどうしたんですか?」
「知らん、勝手に今朝生えてた」
「生ですか」
「生とか言うな、バカ」
「生じゃないんですか」
「―――……生だよ!」

 耳がぴくぴくしている。可愛らしい。

「尻尾ないんですか、尻尾」

 腰にまわした手で尾てい骨の辺りを撫でたら、変な感触に行き着いた。
「…もしかして、」
「あァ―――ッ! うるさい、在るよ、しっぽもあるさ!」
「見せて下さい」
「嫌だ、触るだろ」
「触りますよ。ね、可愛がってあげますから」
「―――…可愛がるなッ」
「だって、誰もいないんですよ?」
「…此処学校…、」
「十七夜月はシたくないんですか?」
「―――…それ、は」

 学校だとか、そんな事今更すぎる事にいつ気づくのだろうか…。
 すでに部室でも何回か弄ってあげてますからね。

「それは?」
「それは―――…」
 言葉を濁す彼の尻を撫でて、密着した前がお互いにどれだけ興奮しているかなんてすぐにわかって、知っているからこそ苛めるように笑う。

「お前、性格悪くなったよな」
「お褒めにあずかり光栄です」

 にこりと笑って十七夜月の額に唇を押し当て、

「どうしますか? 十七夜月のココは随分と可愛らしい事になってますけど」
 かといって、自分のモノがそうではないか、と聞かれればそれは否定するしかない。
「お前のも、だろ…!」
 この通り十七夜月にもバレてますしね。
「僕のは無視して下さって構いませんよ。十七夜月は―――…我慢できないでしょう?」
 十七夜月の薄い唇が「失礼な」と形造った。音は全く出なかったけれども。
「お前が盛るからだ、俺は何も悪くないからなッ!」
 恥ずかしいのか顔を真っ赤に染めて、
「えェ、わかってますよ」
「お前がえっちな事するから」
 それは腰を撫でたことでしょうか?
「えェ」
「別に俺がシたいとか、そう云う訳じゃ」
「わかってます」
 十七夜月の細く白い指が緋色のネクタイに絡んで、しゅるりと解いていく。よくよく気づけばすでに十七夜月の息は上がっているし、目も潤んでいる。
 ブレザーはそのままにシャツのボタンを急くように外され首元に齧りつかれた。
「…ッ」
「一樹」
 今度は舌で押すように、
「――― くくく、お前も感じてるンじゃん」
「当たり…ッ前でしょう」
 十七夜月の吐息がかかる度にビクリとしてしまう。
「…何で?」
 十七夜月が下から見上げるようにして肌を舐め上げた。
「なんで…? 僕は十七夜月相手じゃなければ勃ちませんから」

 十七夜月は微妙な顔をした。
「―――…それを、不能と云うのでは…」
「自分から、と云う意味では、ですよ。流石に高校生なので性的刺激を受ければ勃ちますけどね?」
 笑んでやると十七夜月はビクリとした。表情が堪らなくエロく感じるのは唇が開いているからだろうか、それとも目が潤んでいるから?
「十七夜月可愛いですよ。目が潤んでる…」
「―――煩い、一樹」
「素直になりませんか?」
「―――ん、無理…ィ」
 そう言って肩口に顔を埋める仕草が可愛らしい。気づけば耳がぺたんと垂れていた。
「十七夜月、耳が」
「知って、る…ッ」
「ふふふ、尻尾も震えてますよ」
「知って…ッ」
「そろそろ我慢できませんか」
「―――ン、ぁ」

 首を仰け反らせて、
「…可愛い」
 白い頸が、

「う、るさい…ッ、ヤらないンだったら触ん、」
「はいはい、十七夜月は声、出してくださいね」
 見ただけでは分からないが意外にも出た喉仏を指の腹で触れ、それから唇で柔らかく食んだ。苦痛にか、歪む顔も美しい。
 胸にかけて外したボタンの合間を縫って唇を滑らし胸の頂を歯を立てて噛んだ。
「…っン!」
 引き攣ったような声。
 労わるようにザラつく舌で舐めて、機嫌でも伺うように上目で見ると十七夜月は口元を押さえて目を瞑り、肌に薄い影を落とした睫が時折、痙攣するように動いていた。
「…十七夜月、指、自分で濡らして」
「…ん、」
 最後まで言う前に顔の前に差し出した中指が十七夜月の口内に導かれる。不思議なくらい湿ったソコは丁寧に僕の指を濡らしていった。
「十七夜月、随分と美味しそうに舐めますね」
「ちが…ッ」
「ほら、舌でもっと舐めて」
「…ン、ふ…ぅ」
「指の方が僕のを舐めるより楽でしょう?」
 直接的な言葉を嫌う十七夜月に言うのはある一種の快感で、ついつい、こういったときは特に苛めたくなる。
 十七夜月は紅い舌をチロリと出して唇を舐めた。
「―――そ、りゃ…指と比べりゃ、そう、だけど…」

「どっちが美味しいですか?」

 十七夜月はピシッと固まった。
 指に歯が立てられる。
「一樹…ッ」
「だって、聞きたくなるじゃないですか」
「ならねェよ!」
「そうですか? 僕は十七夜月の指よりもこっちの方が美味しいと思いますけど」
 こっち、とすでに勃ち上がったモノに触れて、揉むように刺激する。
「―――ン、っふ、ぁ…」
 すると可愛らしい喘ぎ声が唇から零れ落ちた。その瞬間の十七夜月の表情を読むに、つい、と言ったところだろう。
 常日頃からあまり声を出したがらない―――勿論、家では別である―――十七夜月を何時も無理矢理攻め立てて声を出させている事に快感を覚え始めた僕も、相当かもしれない。
 だがそれを地で行ったキョン君よりはマシだろうが。


 たっぷりと唾液を絡ませた指を十七夜月の口から引き抜き、徐に十七夜月の蕾に触れた。


「―――ッひ、…ぅ」
 指を、唾液を沁みこませる様に動かして、僕は笑った。
「十七夜月―――…、もう随分ここ、濡れてますね」
「言…ッぅ、な…」
「どうして? それだけ十七夜月が僕を求めてくれてるって事じゃないんですか?」
「そ…りゃ、―――っ」
「それに十七夜月、中も随分解れてるみたいですよ」
 中指の間接を1つくらい埋めて幾度か抜き差しすると肉がめくれ、すんなりと第2関節まで埋まる。力が抜けたのかくたりと肩口に顎を乗せ、枝垂れかかってくる十七夜月の髪を撫でてやり、だがその実、差し込んだ指を関節の部分で折り曲げる。
「い、…っき、の変態」
「光栄ですね。男なんてたいていそんなモノですよ」
「少なくともお前とキョンはそうだろうな…ッ」
 十七夜月が吐き捨てるように言って、僕は笑った。
「いやいや、十七夜月もこんなものでしょう? 僕も最初はそっち側でしたものね」

 そっち、と云うのは紛れもなく受け側だった、という意味である。
 十七夜月の思考回路が満足に回っていないうちにズボンと下着から片足、抜いておく。

「十七夜月も充分こちら側ですって」
「違…ァっ」
 ぎゅ、と目をきつく瞑った。
「違う…? まったく、どこの可愛らしい口が云うんでしょうね、そんなコト」
 愛しくて愛しくて眦に唇を寄せる。
「今はこうして僕が抱く側になってますが、もともと十七夜月は抱く方でしょう?」
 最近では滅多に抱かせてくれない、と文句を言うほどなのに。
「抱かれている十七夜月は本当に可愛らしいので、変わる気になんて、もう、なれませんけどね」
 十七夜月は文句たっぷり、みたいな顔で僕を睨み付けるけれども眦に涙があふれ、それでもなくとも煽情的な、所々白い肌が露出して乳首が勃っているような恰好をしていれば恐いとも思うことなどなく、余計に煽られるだけである。
「変われ、よ」
「嫌ですよ、だって十七夜月可愛いんですもん」
「一樹だって十分可愛かった」
「こんなに背丈がある男が抱かれてどこが可愛いんですか」
「十分可愛かったっての」
「なら、今は違いますよ」
「ンじゃ…」
 なんとなく、続きの言葉が見えて先手を打っておくことにした。
 それまで入口付近を弄っていた指を奥へと進め、よく知った十七夜月のイイ所を擦り上げてやる。
「―――ッひ、」
「ほら、もう解れたでしょう?」
 ぐちゅり、と濡れた音を立てて指を1本追加して。
「こんなにスムーズに動かせれば、ね」
 抜き差しをしながら内壁を抉るように指の先で敏感なソコを苛める。それだけで慣れた壁は嬉しそうに絡みつき、たかが2本ぽっちの指を離してくれない。
 十七夜月の計り知れない所で自然と腰は浮いてきて、解し易いような体勢へと変わる。

「ねェ十七夜月、」
 声をかければ、何だよ、という視線にさらされる。
 その視線があまりにも真っ直ぐで、僕はつい、こんな事を口に出すべきじゃないのだろうか、と悩んでしまった。

「え―――…と、もう挿れても良いですか?」
 十七夜月は笑った。
「ンじゃ駄目って言ったら挿れないのな?」
 その言葉に僕は苦笑して、 



「いえ―――十七夜月、もう挿れさせて頂ます。…僕もさすがにもう我慢できそうにない」
「ん、一樹早く…」



 やはりそんな風に可愛らしくお願いされたら焦らしている事なんてできない。
 椅子に座り、十七夜月をその上を跨ぐようにさせてから、彼の腰に手を添えた。
「…けけけ、一樹も我慢できないんだ…?」
 挿入する直前、そう云って、十七夜月がどこか照れたように笑った。
「当たり前です。誰のせいだと思ってるんですか」
 そう云うと十七夜月は妖艶に笑って、
「ん、可愛くて格好良いオレ様」
 と云った。

 えェ、えェ――― 貴方のせいですとも。

「良く分かってるじゃないですか。偉いですよ、十七夜月」
 十七夜月の手が肩にかかる。
 僕は幾度か先端を十七夜月の蕾に擦りつけるようにして、そして十七夜月の腰を落とし始める。
「ン…っ、ひ…ぁ、ああッ」
 肩を掴む手が爪を立てた。ブレザーを着たままなので特に痛い、と云う訳ではないがそれでも苦笑する。
「十七夜月、辛いですか?」
「―――だぃ、じょぶ…ふぁ…ッ」
「無理にそんな事言わないでもいいんですよ」
「だいじょ…ぶ、だもん」
「―――…だもん、とか云わないでください。可愛過ぎます」
「っひゃあ…! てめ…ッ、挿れきってないのに、でか…く、なってる…ぅッ」
 十七夜月の目が濡れている。
「十七夜月のせいですよ」
「違…ッ、おま、え…のせいッ」
 せわしなく息を吐く、上下する肩のラインが綺麗だ。
「は、はァ、………っン」
「―――十七夜月」
「―――…何?」
 薄く目を開ける。
 目の端に浮かんだ水の珠はつぅ、と頬を流れる。気だるげに流された視線がこちらを見る。


「辛いなら、やめましょうか? 泣いてしまうくらい辛いなら―――」
「―――バカ。ンな事考えてたわけ?」


 十七夜月が目元に唇を寄せる。
「だって…」
「だって? 言い訳がましいなァ、本当にお前は」
 そう云うと十七夜月は優しく僕の手に触れ、いきなり―――…、いきなり、



「…んん―――ッ、ぁあ…っ」
「十七夜月!?」



 自身の体重をかけて、途中でとめていた自分の身体の中に、僕のものを含んだ。
「何してるんですか十七夜月!」
「何って…、SEX?」
 至極まっとうな事を云っている、と云う顔をして実はあまりまっとうではない。少なくともそんな可愛い顔で、可愛らしい声で「SEX」なんて言わないで欲しい、と思うのは男としての最低の願いでしょうか。
「そそそそう云う事ではなくてですね!」
「…ンじゃ、どういうことだよ?」
 …十七夜月、本当にいつからそんな子になったんですか。僕はなぜだかとてもさびしいですよ。
 あァくそ、どこか拗ねたような視線が可愛いですよ! 馬鹿ァ!
 まァ、恥ずかしがってさせてくれないのも困りものですがね!
 ―――…そう、自分を慰めて、僕はようやく快楽に目を潤ませる十七夜月の顔を見れたのです。

「十七夜月―――…っ」
「な…なに?」
 ずり落ちたワイシャツが床に落ちていた。ましてや片足に引っ掛かっていたズボンまで落ちて、ふと床を見れば十七夜月の制服のオンパレードである。
「全裸ですね…、十七夜月」
「―――そりゃ…まァSEX中だからな」
 ついでのように十七夜月は付け足す。
「…よく考えるとお前もキョンも自分服着たままなのに俺のこと全裸に剥くの好きだよな」
「好き嫌いで聞かれればすごく好きですけど、―――…って、そう云う事じゃありません!!」
「―――どんな問題だよ、そこまで全肯定しておきながら」
 呆れたような視線が痛かったがそれでもあえて気にしている場合じゃなかった。
「確かに…せ、SEX中ですけど、ここは学校―――…」
「ンだから俺だってここ学校だぜ? って言ったじゃねェかよ」
「だってそんな―――十七夜月今ノリノリ…」
「勿論。俺年頃の男の子だから」
 そりゃァ弄られて勃たせられて散々嬲られたら…その気にもなるよな。ねェ、一樹、と顎のラインを撫でられる。
「―――それとも何? 俺のせいだって、そう言うか?」
 十七夜月はふと顔をあげ―――
「もう、いい加減こうして長いしなー。もうちょっとでキョンが来ちゃうかも―――」
 そしたら間違いなく俺は変態扱いされるよな。
 ふふふと笑う。それが実に楽しそうで―――顎を反らした。
 そして意識したのだろう――中を締め付け――十七夜月は笑った。だが締め付けた際にいっきに妖艶な色を醸し出す。
「続き、しないのか?」

 そう云った十七夜月は本当に卑怯だった。

「―――しますよ、もちろん」
「…ッん、」
 十七夜月が微笑む。
 本当に卑怯だな、と思って揺すった。
「十七夜月、肌が熱い…」
「お、前…ッ、だけには―――…云われたくない…っ」
 息が詰って、十七夜月の首が仰け反る。
「可愛いですよ、十七夜月」
「あっ、あ―――…ッ」

 さらりと揺れた髪の先から汗が飛んで、昼直前の木の葉ごしの光を受けて光る。 それがすごく綺麗だった。
 ―――たまになら危険を冒してでも学校でSEXするのもいいじゃないか、と思えるくらいには。

 …でもその時はキョン君も呼ばないと流石に怒られますかね。

「一樹なんか別の事考えてる…?」
 気だるげな視線に笑いかけて、
「たまには学校でするのも良いな、と思いまして」
「キョンに言ってみろ? あいつも絶対授業サボるぜ」
 十七夜月は苦笑した。


 事が終わり額に張り付いたままの髪をどかしてやって、飛んだモノやら汗やらを拭ってやる。
 未だ椅子に座ってぐったりしている十七夜月にいちいち服を着せてやって、今はどうにか下半身は着衣状態である。
「十七夜月、ほらシャツも着ましょう。風邪引いてしまいますから」
「…動くの面倒うなんだって」
「じゃァ着替えさせてあげますから」
 十七夜月のシャツを持って、
「―――…一樹、脱がすのも好きだけど着させるもの好きだろ」
 袖に腕を通して前のボタンを順に嵌めていく。
「―――…それは、偏見と云うものでは」
「嫌いなのか?」
「いや、確かに好きですけど」
「だろうな、顔が生き生きしてる。ぁ、一樹ネクタイも!」
「―――はいはい」

 差し出されたネクタイを取って、十七夜月の首にかけてやる。意外と向かい合わせでネクタイを結ぶのは難しい。
 うっかり間違えてしまって何回か解いては結びなおす。

「一樹もしかして不器用?」
「違いますよ、逆からがやりにくいだけで…」
「ふぅん…」
 首筋に指を感じる。
「―――十七夜月、」
「大人しくしてろって、お前は早く俺のネクタイ結ぶの」
「―――…、はいはい。わかりました」
 仕方なしに首筋に指を感じながら、視界の端に揺れる尻尾を見ながらネクタイを結ぶ。


 十七夜月がふいに、
「―――…ッ」
「一樹可愛いなァ…」
 唇を鎖骨の辺りに寄せた。
 可愛いのはどっちですか、と唇から絞り出した声は聞いてもらえなかったらしい。
「俺のって証、つけていい?」
 結び途中のネクタイが落ちた―――そんな時。






「―――お前らはこんなとこで何をやっているんだ」






 後頭部に多少の衝撃を感じる。
「やっほー、キョン」
「…ぁ」
「―――そして十七夜月、お前その耳どうした?」
「起きたら付いてた、可愛いだろ?」
「…確かに可愛いが、な…」
「襲うなよ、学校で」
「―――…善処、する」
「さァて、と。帽子とって、一樹」
「―――あ…ぁ、はい」
「サンキュー」
 白の帽子ですっかり耳を覆ってしまうとキョン君があからさまに残念そうな顔をした。

「―――何、キョン」
「………………いや、なんでも」
「なんでもって顔、してねェけど?」

 なァ? と十七夜月に振られたので頷いておく。
「キョンは放課後、家に帰ってからなー。そしたらたんまり堪能させてやるから」
 楽しみだな、と笑った十七夜月の顔が妖艶で、キョン君だけでなく僕まで頷いたという事はお約束である。

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