悠久の丘で
 top about main link  index

Menu>>>name / トリコ /APH /other /stale /Odai:L/Odai:S /project /
  MainTop

不能

 その日我々―――半分以上無理やりこの部活に入らされたのだが―――SOS団の男子部員は元気な女子部員―――紛れもなくハルヒ1人である―――に置いてきぼりにされ、長門も珍しくいない静かな教室で額を突き合わせていた。

「…ンでなんでお前らは迫ってくる!」

 中1人は逃げようとするがにこやかな笑顔を浮かべ、人畜無害だとオーラで無理やり語る男に腕をとられていた。
「どこに行くんですか、十七夜月」
「どこっていうか此処だと俺の貞操が危ないのかなァ―――…って」
「安心してください、優しくしますから」
「それ安心できないから! 只でさえ俺、今日、腰痛ェの、お前らが自重しないから」
「何云ってるんですか十七夜月。僕は優しくしてあげたでしょう?」
「良く言うぜ、寝不足だって言ってんのに!」
「おい…古泉、お前、壊すなよ?」
「安心して下さい。十七夜月が願うのでそうしたまでですから」
「願ってないし!」
「おや…、そんな事言っていいんですか?」
 古泉は何か含みのあるような声で尋ねる。俺は、溜息をついた。
 元より十七夜月がどう強請るかなんてお互いに知っているのだから、コイツ自身も云われたところで痛くも痒くもないだろうに。

 ―――なのに、十七夜月は何時までたっても慣れない。

 女遊びも激かった―――それと云うのも最近はひたすら俺と古泉に構っているため女に気が回る余地もない、と云うのが十七夜月自身の言い分である―――彼で、其方の方の伝説は数々1人歩きしているようにも思えるが、取り敢えずこの学校の女子学生で彼を知らぬ人間はいないと云っても過言ではないくらいは、有名人である。

 1年生でこれほど有名な人間も彼を除いては、ハルヒくらいのものだろう。

「…お、俺、今日体育出たし…遠慮したいなァ…って」
「おー、それは奇遇だな。俺も出たぞ」
「僕も出ました」
 にっこりと笑っておく。
「お前らとは立場が違うだろ!?」
 バンッと机を叩いても、何時も通り驚いてくれるような人間は此処にはいない。
 それどころか十七夜月に賛同する人間は皆無なために、いい加減校内きっての色男もやや半泣きになっている。
 そんな表情も他男2人は可愛い、と感じるのだから仕方あるまい。
 それに一向に気づかない十七夜月も十七夜月だ。
「そうでしょうか?」
 クスリと笑って反論して見せたのは古泉だった。
 その理由は云うまでもない、今と立場が逆転していたからだろう。

 古泉も、辛かったのだろうか。

「…っぐ、一樹、俺を苛める気か」
「それも可愛らしくていいですね」
「本気か…?」
「えェ、豪くマジです」
 確かに豪くマジそうな顔である。
「―――キョン…ッ」
 そうしていたら救いを求めるような表情で此方を見られて俺は至極焦った。
 …仕方ないだろう。十七夜月の顔は整っていて、男としてみるなら只難点が1つ、背が低いだけ、というほぼ完璧の容姿の持ち主である。その難点でさえも十七夜月よりも年上のお姉様からは「可愛い」と絶賛を頂いているのだし。
 細いなりにしなやかに筋肉の付いた腕は一見掴んだら折れてしまいそうで、だが、その細腕が繰り出す投げは受け身をよほど丁寧に取らないと呼吸困難になる。
 ―――授業で行う柔道ならいいのだ。
 問題が山のように積まれているのは十七夜月の容姿だけに目をつけセクハラまがいのことをした時に繰り出される防衛の為だけの技である。
「…悪いが助けてやれないぞ」
「なんで…?」

 そうやって下から見上げるな、涙を目に浮かべるな。
 手を出しそうになるだろう!

「なんで、でもかんででもない。お前が悪い」
 かなり理不尽なことを云われているのに十七夜月はすっかり沈んでしまった。
 でも此方も此方で隙だらけだったのでついうっかり、欲情してしまったのだ、その姿に。

「…もう、キョンも一樹も嫌い…」

 だが、その何気ない言葉に胸がひどく傷んだのも事実―――。
「お前ら、俺の身体にしか興味がないんだろ」
 そして、自分で言って十七夜月は豪く傷ついている。

「―――…もう嫌だ。俺、この顔嫌だ…」
 皆、皆、俺のこと見てくれてる―――?

「十七夜月…」

 つい、それまで手を出すタイミングを考えていた此方としては実に気まずい質問だった。
 だが、これだけは確実に言い切れる。
 ―――否、云わなくてはならない。

「お前がどんな顔だって、関係ないだろ」
 ここで好き、だと云えればどれだけいいだろう。
「僕は十七夜月、と云う人間が好きです。それじゃァ――…だめですか?」
 ない物ねだり、ということは重々に理解しているのだが。

 ―――しているのだが、どうしても願ってしまう

「…………本当に?」
 寂しげに俯いた顔が上がった。それに少なからずホッとして、頷く。
「嘘言ってどうする」
「本当ですよ」
 髪を梳く。
 そんな馬鹿な事は考えるなと云いたい。
 古泉よりもはるかに長い彼の髪は背の真ん中辺り。指通りがよくて、サラサラしていて、十七夜月自身によく似ている。
 コイツと一緒にいると、いつか消えてしまうような焦燥に少なからず駆られるのだから。

 手の中をすり抜けてしまう、髪のような、
 そんな頼りない、何か、

「キョン」
「うん?」
「一樹」
「はい」

 消えてしまいそうな十七夜月。
 コイツが消えてしまったら、俺は耐えられるだろうか?


「―――…嫌い、じゃない」


「―――…、ぷ、くく」
「―――もう、素直じゃないですね」
 笑ったが、
「―――なんだよ、お前ら素直じゃない俺が好きなんだろ」

 本当は笑うなんかよりも安堵なんかよりもずっとずっと、

「あァ、―――…好きだよ」
「愛してます」

 胸を支配したのは黒い感情


「ならそれで良いじゃん」
 呆れたように十七夜月は言葉を紡いだ。
「―――…つか、俺ら不能みたい?」

 だがその言葉にははっきり言って2人して反論した。

「何言ってるんですか、毎日十七夜月を喜ばせてあげてるでしょう!」
 古泉…、キャラが壊れて知ったお嬢様方が卒倒するからそういう発言は控えるように。
「不能ってなんだ、いつも挿らないとか言ってるくせに!」
 他の奴が聞いていればやはり卒倒するような台詞を2人で大声で言って、何れもその話題の中心にいる十七夜月は真っ赤になって、

「うるせェ違ェよッ、このホモ共!」

 と、怒鳴った。
 そう言ってる本人もホモなのだから致し方ない。
「そう云うンじゃなくて俺は種の無駄遣いだって言ってるだけだろ!」
「そう云うのは不能とは口が裂けても言わん」
「僕も彼に同感です」
 古泉は俺の方を手で指し示した。

 明らかに分の悪くなった十七夜月は膨れ、それ以降―――ちっとも帰ってこないハルヒらを待ちつつ下校時間になってから3人で帰った。
 その日は帰りに十七夜月の部屋に寄ってから帰り、妹に興味深げな視線で迎えられたのは言うまでも無い。

<<< 






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -