悠久の丘で
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偉大なる拘束された天使

 俺が生まれた理由は決まっている。
 この世界を救えるかもしれない、生贄のために生まれたようなものだ。
 ―――まァ、別に良いか。
 俺はまだ自由だ。






「技術開発部局長、石動十七夜月。召喚されてやったぞ」
 堂々たる態度にすでに慣れてしまった面々は一向に気に掛けない。だがそれでも滅多にここに来ない国連軍のお偉い方の視線は一気に浴びた。
 後ろにいた青葉は冷汗をかいた。
「遅かったな、十七夜月」
「おう、急にお前が呼び出すからな。俺調べものしてたしー」
 ふん、と鼻で笑って総司令にそんな口を利けるのも十七夜月くらいだろう。ぎょっとしたお偉い方なんて気にせず、十七夜月は日向の真後ろに立った。
「マコ、どんな感じ? ンでいつの間に街壊滅したんだ?」
 いつの間に、と大方後ろのお偉い方への皮肉をさらりと投げかけて、その爆煙の中に見える使徒を見つけると十七夜月は思わずきゃぁ、と可愛らしく悲鳴を上げた。
「どうした、十七夜月」
「やだ―――、コイツの名前なんだっけ、サキエル? 可愛いなマジで!」

 …悲鳴ではなく歓声だったらしい。

「ふふふ、こんな使徒だったら俺OK。拘束して連れて帰ってくれないの?」
「……レイが今初号機で出ている」
「―――レイじゃ無理かなァ…、可愛いのにー」
 そう言って十七夜月は至極残念そうに舌打ちをした。
「……可愛いっていうか…気持ち悪いんですけど……」
「おや、マヤにはそう見える? すんげェ可愛くない? あれで人間じゃねェんだぜ? N2爆弾喰らってもまだ生きてるし、俺、これ好き」
 可愛いなァ、ともう1度言った。
「あ、ね、シゲ、あれ、人形で良いから俺に作って」
「え…」
「そしたら俺、それと一緒に寝るわ」
「わかった」
 にやりと十七夜月が笑って、踊らされていると知りつつも青葉はすぐに頷いた。ただ単に人形を抱いて眠る十七夜月が見たかったせいである。
「青葉早くな、可愛く作れよ」
 すでに可愛くないものをそうやって可愛らしく作るのかを少し悩むが、そんなこと十七夜月が気にするわけもなかった。

「……十七夜月、」
「なんだよ赤木」
 声にとげがあるのはまださっきのことを怒っているのだろう。その白衣のポケットに後ろに気づかれないように飴をもう1つ入れて、耳元で促した。
「……国連軍のお偉いさんの存在、端から無視しようとしてるわね…」
「うん! だって、街1つ消して、なのにサキエル倒せないんだろー? あ、でも俺にお土産としてサキエル持ってきてくれたら好き」
 その台詞にわずかながら反応した3人の男を横目で見て溜息をついた。よくもあんなに小さな声だったのにもかかわらず聞こえたものだ。
「ン、ま、無理だって知ってるけどねー。別にいいよ、俺、サキエル欲しいけど」

 言っていることと行動が見合っていなかった。

「………ん、誰だか入ってきたぜ? これは…ミサトと…サードか?」
 それまで満足にモニターも見ていなかった十七夜月が声を上げた。
 確かにメインモニターの端にはゲートをくぐる同僚と、学生服に身を包んだ少年の姿が見られた。
「あー、この死んでる目はサードだな」
 モニターを確認していた日向が吹いた。
「……十七夜月、いくらなんでも総司令の息子…」
「気にしないの、俺はンな小さなことちっともね。どうせEVAのパイロットとして連れてこられてEVAのパイロットにしか道はないなら結末は決まってるだろ」
 十七夜月は1度もモニターから視線を外さなかった。
「――――――…あ、赤木出動」
「………は?」
「ミサトが道間違えた」
「…………………………行ってくるわ」
「いってらっしゃい。見事順調に反対の区域に紛れ込んでる」
「――――――何回道に迷えば気が済むのかしら」
「何回だってミサトは迷うさ、それがあの子の天性ならば、ね」
 そう言ってモニターを見つめていた十七夜月は笑って、モニターを拡大するように言った。

 後ろで足早に司令室を出て行く赤木を見つける。

 だが、それに視線を取られている間にもすぐにマヤの作業によってモニターが拡大されて、あきらかに迷っていると知れるミサトとサードがアップで映された。
「ほぉーら、早いとこ行かないとレイが危ねェよ? レイ生真面目だからなー、サキエルの戦い方には合わねェよ、これは完璧に」
 巨大なモニターにNERV内で迷うミサトらと外のサキエルVSレイが半分半分に映し出されていて、十七夜月はそれを見て白衣の中から飴を取り出して口に含む。ころころと口に中で転がして、口の中の水分を取られて少しむっとした。
「あー…、マコ、ミサトに回線つなげる?」
「やってみます!」
「おう、早くなー。持ってるかな、持ってる…だろうな、多分」
 いささか確定に至らないのにはわけがあった。基本的にはインカム着用を義務つけられてはいるが、過去にも何度か彼女は持ってはいても気づかなかったことがあった。

 十七夜月の心配はそれ故である。

「十七夜月、つなぎました!」
「おう、サンキュー」
 そう言えば十七夜月はすぅ、とその場で大きく息を吸い込んだ。


 ―――そして、


「てめェこの緊急事態にどこほっつき歩ってるつもりだ、ミサト!」
 いつもの十七夜月の声よりは大きく、そしてやや低めにインカムに囁いた。その声に気づいたのかモニターの中のミサトが足を止める。
『…………十七夜月?』
「そ、お帰り。ンでサードはようこそ、NERVへ。挨拶は後でな、今はそんな場合じゃねェんだよ、知ってるだろ? 可愛い可愛いサキエルがいつここに気づいてここを破壊してくれるか冷や汗もんなんだ」
『…まさか、あたし来た道間違えた?』
「おう、ばっちり。俺がここに移動してからはずっと違うぞ。今赤木が向かったから恐らくそろそろ会うだろうよ、ちゃんと赤木について行ってくれよな」

 恐らくこのタイミングでサードが呼ばれた理由は1つ。代替品だったレイでは意味がなくなってきたのだ。ようやく本腰入れて使徒が襲ってくる、と予測を立てたんだろう。


 ――――――酷い事、するねェ。


  十七夜月は小さく唇だけでつぶやくと、大して顔色を変えない後ろの2人をモニター越しに見た。

 あァ、酷い親。ありゃ、もう、唯ちゃんしか見えてねェって顔だな。ゲンドウ、唯ちゃん大好きだったしな。
 それに息子のシンジは恐ろしいほどに唯ちゃんの面影を残している。死んだ目が輝けば、あるいは唯ちゃんと見間違えることも会ったのだろうけれど、何を見たのか、恐らくはこの世の汚さを垣間見てしまったらしいあの少年の目は死んでいて。

「勿体無いよな、せっかく綺麗な顔立ちしてんのに」
 つぶやけばマコとシゲに不審な顔で見られた。それに、誤魔化すように微笑んでおいた。

 壊レル。
 そんな予感がしているからこそ、十七夜月はこのサード・チルドレンを大事にすることを心の中で決めていた。


 唯ちゃんが許すわけがない、あの子が、サード・チルドレンが、碇シンジが死ぬことを。


 それがたとえ息子の精神を歪に歪めることだとしても、それが母親の精神だ。ましてや彼女はもう肉体を持てなくなってしまったから。
 だから守るだろう、彼の心に大きな傷を作って。

「ゲンドウ、俺も出たほうがいいのか?」
「あぁ」
「あ、そ」
 短い確かな肯定の言葉を聞けば十七夜月は踵を返した。
 裾が舞った白衣を無視して歩く。ゲンドウの脇まで来ればコウゾウが怪訝そうな顔で見ていた。
「大丈夫だよ、コウゾウ」
 何が大丈夫かなんて口に出さなかった。その代わりまったく関係ないことを口に出してみた。
「俺は遊んでくるだけだから。この―――可愛いサキエルと」

 尚怪訝な顔をされた。
 こいつもサキエルのこのその身からあふれ出る可愛さを理解できないクチか…。可愛いんだけどなァ。

「挨拶だけだぜ、ゲンドウ。それ以上はダメ。俺が戻ってこないと作戦が始まらないばかりか初号機の覚醒すら面倒な手続き踏むんだから」
「わかっている」




「そ。ンじゃ、いきますか、偉大なる我が拘束された天使の元へ」




 にぃ、と笑った。エヴァはその隠された力を解放する。拘束具を引き千切ってまで。必ず。

 なぜならエヴァは「汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン」であるから。

 細かい説明など要らないだろう、それだけで十分だ。
 エヴァはロボットではないのだから。
 汎用人型決戦兵器人造人間と名がついていることは伊達でもなんでもない。
 きちんと意味を持ってつけられたもの。


 それを知るには早すぎるサードを憂えた。
 自分はまだしも、母の顔を思い出したくても思い出すことのかなわないサードでは。
 自分のように捨てられ、此方もその生死を正確に知ることのできる時間と機関と権限を持ちながら意味のないこと、として一切気にかけない自分とでは違うのだ。


「ゲンドウ」
「何だ?」
 降りていくとき、ふと、呟いてみた。






「俺はシークレット・チルドレンだ」






 ゲンドウの視線が、それがどうした、と言っていた。
 だから十七夜月は何も言わなかった。

 サードは壊れるよ。
 そんなことを言えばゲンドウはあまり気にしていないようで。
 少し、サードを哀れに思ったことだけは確かだった。

 そしてもう1度、何があっても一応サードを擁護する、という意思を固めた。

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