悠久の丘で
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満を持して紫降臨
何故か急に成玲に押し付けられたもの。
お前がコレを買ってどうする気だったんだ、と問えば、ただ一言寒い言葉が返ってきた。
「貴方を理解しようと思って」
気持ち悪かった、と素直に伝えておこう。
流石に小学生の頃ならマセ過ぎてて可愛くないだろうし、中学生くらいならばまだ良かっただろうか。
だけど、間違ってもとうに社会人になった奴が、同じく社会人のしかも男に言う言葉ではないはずだ、と、正常な俺の脳が言っている。
大体、記憶が確かならば成玲の方が歳が上のはずだ。
「…なんの企みだ」
「本当に、ただやってみようと思っただけだよ。でもちょっと難しくてとりあえず十七夜月ちゃんがやるべきかなって、俺は思うんだよね」
ならば買うな。
だけど押し付けられたその紫があまりにも澄んだ目をしていて、成玲に落ち度はあってもコイツにはまったく落ち度がなかったから、つい、受け取ってしまっただけだ。
*
「さァ、我家にやってきました新入り君だ」
仕方なしにつれて帰ってきたといえば、それは少し、嘘になる。
そもそもこれ以上ないほどの特権を成玲から奪っている俺はまァ有体に言えば暇で、且つ、1人で生きるには弱い人間であると自負している。
それ故に家には”家族”が居る。
ヒトではない。
だけど、ヒトでなくても家族になれるし、奴等は感情も思考もある。
自他共に認めるほどに、俺は彼ら―――VOCALOIDに依存しているし、愛している。
それを彼らは彼らなりに理解してくれているらしい。
「あれ。マスター、誰ですか?」
「ミク知ってるよ! この人、最近良く話に聞くもん」
「マスター、また連れてきちゃったの? 本当に好きなんだから…」
メイコがぼそっと次は誰で書こうかしら、と呟いた声を聞いてしまって、ちょっとだけ気が滅入った。
妄想の中でとは言え、あんな恥ずかしい恰好で、あんな恥ずかしい行為を自ら受け入れている自分、と云うのは、見ていて気持ちの良いものではない。
且つ、メイコの書く文章にはリアリティがあって、イメージが脳内に流れるから尚の事、問題だ。
「わぁ…綺麗な紫っすねェ!」
「だろう? えっと…一応リンとレンからしてみればお兄さんになるのかな…?」
「おいおいおい、俺と十七夜月の時間、これ以上減らしてどうする気だ?」
肩にのしっと体重を感じて、見なくてもわかる。アカイトだ。
大元はカイトと同じ筈だが、何をどうしたのか性格は(殆ど)真逆だ。一緒なのは1割くらいだろうか。
…まァ、へたれな所とか。
「元々そんなもんなかっただろ、パプリカ」
「あん?」
そして、何故か喧嘩っ早い。挑発するレンもレンだけど、何故か俺が居て、レンとアカイトが2人揃っているときには必ず喧嘩が勃発する。
そして今はがくぽのインストール中なんだが…。
つか、どうしてだろう。
パプリカって、赤も黄色もあるよなって言いたくなったのは、俺だけだろうか?
「え―――? パプリカって、そしたらレンも同じっすよ?」
あ、やっぱり?
そして、お互いに酷い顔をした。
「―――パプリカなんてなくなれば良いのに」
なんて酷い言いがかりだ。
「あら、マスター。もう終わるわよ」
「あ…あぁ」
喧嘩はリビングの隅でやってもらう事にして、メイコの声でパソコンを覗き込む。なんかこの最初が酷く懐かしい。
ちょっと前にもやったし、まだリンとレンが来てから1年経ってないはずなのに。
「レンもアカイトも元気ですね、マスター」
「ね。まァ…、半分くらいはお前と一緒のはずなんだけどね、アカイトって」
「―――…それは…」
「まァ、厳密に言えばってだけだけど。あのアカイトとカイトを見て同じに見える奴なんて1人いたら多いし、全然違うし」
一旦パソコンから視線を外し、まだ喧嘩しているレンとアカイトを見れば自然と溜め息しか出てこない。
仲良くしてくれれば良いのに、まったくあいつらと云ったら。
「マスター、大丈夫?」
「そんな溜め息なんて吐いてると幸せが逃げちゃうんですよ」
「―――男の嫉妬って醜いのよねェ…」
リンはとくに何も言わずに頭を撫でてくれた。
「…なんか、1人違うの混ざってたぞ」
「そんな事ないわよ? アタシも一応マスターのこと心配してるし」
「知ってる。ありがとう」
メイコは照れたのか、少し驚いたような顔をして、頬をカリカリと掻いた。
「…マスターって、本当に時々素直で頭撫でたくなるくらい可愛いわねー」
「それは褒めてるのか良く分からないけど、まァ、ありがとう…?」
「いやぁね、褒めてるのよ?」
くすくす笑って、何故か隣りでカイトが真剣な顔でさりげなく頷いていた。それだけかと思ったらミクとリンも頷いていた。
喧嘩はどうした、と突っ込みたいのは、全く同じタイミングで頷いたアカイトとレンを見たときだ。
もう、あいつら本当は凄い仲良いんじゃないのか…?
「まァ、そんな馬鹿なこと言ってないで、がくぽのインストールが終わったから…」
起動すれば、彼が出てくるはず。
―――と、アイコンをクリックする前に。
『そなたがマスターか?』
電子音とも、肉声ともいまいち判別しにくい声。
ソレと云うのも確かにがくぽだけは実際に歌手から声のサンプルを取ったからだが…、と云うか、何で起動してるのかが不明。
まァ、本人の声に似すぎて、調教しなくてもそれなりにうまいと評判のこの紫。
容姿のせいか確かに結構上から口調名ところが多かったけれど、本当にここまで上から口調だとちょっと面白い。
『返事をせい』
「―――マスター、これ、こんなんなんっすか?」
「うーん、よくわからないけど、多分…」
頬をかりかりと掻いてから、パソコンの中から此方を覗う綺麗な紫の目を見る。
「がくぽ、俺がマスター。十七夜月だ」
『マスター…』
「そう。これからよろしくな、がくぽ」
『―――ふむ。お前は近づくことを許そう』
後ろの、喧騒が一瞬にして静まった。
そして、いつから持っていたのか、それとも最初からオプションなのか(カイトやアカイトのマフラーのように)ぱさりと扇子を広げる。
「「…は?」」
『十七夜月』
「あ、うん」
何をしたいのかわかって頷いてキーボードで少しだけ操作する。
この作業をするのも久しぶり棚なんて暢気に思って、成玲のせいで必要以上ににぎやかになりそうなこの日常生活に苦笑した。
騒がしいのは嫌いじゃない。
「出来たよ。―――出ておいで」
『―――あーあーあ…、おお。流石は十七夜月だな」
まァ何と云うか。
出てきたがくぽも背が高かった。これじゃァ、俺より低いのは男だとレンだけなんだが…。
つか、レンはかなり年下だし。
「まァ…パソコンは得意だしな。そっちのほうが動きやすくていいだろう?」
今は本体のほうに容量が足りなくてノートパソコンだけど、そのうちもう1台デスクトップ型を買う予定だからそっちにがくぽを移して…。残りの容量を見たら、がくぽを入れただけで、あと何かをしようと思ったら固まりそうだった。歌わせるくらいの容量は残っているから、とりあえずこれでよし。
「ああ。この方が…」
「あ?」
がくぽが袖を翻らせたのを見て、いつだかも似た様な事があったなって思った。
―――うん、お前ら、好きな。
「この方が触れやすくて良い」
「「今すぐ離れろ、ナス!!」」
狙ったわけではないだろうに、声がぴったり合っている所に実は仲がいいんじゃないのだろうか、と思いつつ、お前ら、完璧にがくぽの事知ってるだろ…。
なぜか(色のせいだろう)ナスと呼ばれ続けている殿は、形の綺麗な眉をしかめた。
「うるさいぞ、そこのパプリカ組」
「―――ッ!」
「てめェ、聞いてやがったな!?」
まだ羽交い絞めでもされるようにくっつかれたままの俺を、いつの間に離れたのか、メイコがいやな笑みを浮かべて見ていた。
その隣で本当に困ったようなカイトと、もう片方に続くニヤニヤ顔のミクとリン。
とてもとても嫌な予感がした。
「あら、カイトも混ざってきなさいよ」
メイコが言って、リンとミクが(会との後ろに回された手でおそらくそうだと推測した)カイトを押した。
「え、ちょ…」
耐え切れなかったのか、よろよろと此方に来て、がくぽにコツンとぶつかるカイトを見て、まだまだニヤニヤしているメイコが、実は1番怖いんじゃないかと思ったけれど、それでも俺はコイツらのすることに怒れないからきっとこのままこの家はこれ以上にカオスになっていくんだろう。
さァて。そろそろその原因が誰にあるのか探ろうかな…?
*
「あ、メーコちゃん?」
かかってきた電話に出て、目の前にいる社員の1人に目で合図して待たせる。
「あ、やっぱり十七夜月ちゃんインストールしてくれた? だよねー、あの子可愛いの好きだもんねー。本当に可愛いよねー」
目の前の社員が不可思議なものを見るような目をして見ていたけれど、別に気にしない。
別にコイツなんかにそんな目で見られても、この世の中でたった1人だけに拒絶されなければ俺は生きていけるし、むしろ、他の人間は要らない。そんな俺が十七夜月ちゃんをせっついてこの会社を作ったのには理由がある。
たった1つだけの、俺の自我で出来たこの会社。
「ふぅーん…、あ、写真添付してくれたんだ、ありがとうっ!」
パソコンを弄っていたら、見慣れた彼女から来たメールを発見して、恐らく今現在彼の家で彼が受けているだろう愛情の裏返しを見て、思わず顔がにやける。
ちょっと首が絞まってそうだったが、彼は決して悲しそうな顔をしていないから俺はそれだけで嬉しい。
「うん。今度何か甘い物持って行くね。ん、じゃ」
ぴっと軽い電子音をさせて通話を切って、ふぅ、と溜め息を吐くと奇妙な顔をしている社員と目があった。
―――えっと、名前はなんと言ったっけ?
「―――しゃ、社長、今のは…」
「私は社長ではない」
苛々する。こうやって簡単すぎるほど簡単に十七夜月の存在を消す奴ら。
「君は入社何年目だね? そんな事も知らないで此処に勤めていたのか」
急に興味がなくなった。
「戻りなさい。用事はなくなったから」
青ざめたような目の前の彼を見ても、特に何か感情が生まれることはない。
この会社は唯一十七夜月を捕まえる檻にするつもりで創った。
この会社の全てが、俺も含めて十七夜月の為の物。
十七夜月はそれを知っているから、月に1度の出社を拒めない。
そんな優しいところも好きだった。
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