悠久の丘で
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面白いバグが発生致しました


 なんだか最近妙な要望があって曲を作ってはいたが、成玲が邪魔しに来たせいであまり思うように進まなかった。そのせいで我が家の可愛らしい奴等が中途半端に拗ねている。
 分かり易く拗ねているのはカイト。可愛いからもう少しこのままでいるかな、なんて思うけど、あまりにもいじめ過ぎると奴は大好きなアイスを食べても機嫌が直らなくなるからそろそろ頃合だと思う。
 あとレン。
 少しわかり難いけど奴も可愛く拗ねている。
 レンは拗ねていることを悟られるのを嫌っているらしいけど――なんでも恰好悪いとか言ってたかな――、残念ながらばればれで。流石に、俺の職業になると―――なぁ。

 まァ、要約して何が悪いのかというと、成玲だ。
 奴が大した用事もないのに家に入り浸るから。

 奴が来ると我が家の可愛い奴らが嫉妬してくれるから、確かに可愛いのだけど。だけどまァ確かに邪魔といえば邪魔だよな。
 会社に何かがある訳じゃないのに最近の奴のこの家への足の運び方はおかしい。
 ―――何があったんだろう?
 あいつも、よくよく考えれば高校の頃からおかしかったしな。大学に入ってからはもっとおかしかったけどな。


  *


「―――マスター?」
「うん?」
 自室でのんびりとパソコンの前でぐだぐだとすごしていた時だった。部屋の扉を薄く開いて、中を窺うようにしたリンとミクを見つける。
「―――何してるんだ? 入って来て良いのに」
 椅子をくるりと回して扉のほうへ身体を向けると細くあけた扉を段々と開け、こっちを覗き込んでいたミクとリンが部屋に入ってきた。
「それがっすねー」
「マスター、お兄ちゃんが…」
 それが、なぜか一様に困ったような表情をしている。
 いや、それでもどこか楽しそうな表情もうっすらと隠れているからおそらくまたカイトに何か面白いことでもあったのだろう。


 過去に同じようにメイコにいじられてる時も呼びに来た。
 過去に同じようにレンにいじられたときも呼びに来た。
 過去に同じように成玲に遊ばれていたときも呼びに来た。


 そのいずれもカイトは面白いことになっていたから今回も恐らくそうだろう、と。
 ―――そう、思っていたのだけど。
「それが―――…お兄ちゃんが…」
「うん、カイトが?」
 そんなに言い難い事なのだろうか? これまでの3つの例は物凄く嬉しそうな顔をして報告に来たというのに。
「えっと…そんなに言い難いことか? 見に行ったほうが早い?」
「あ、でも多分心の準備が…ッ…必要、っすよ?」
「―――心の、準備?」

 どんな凄い事になってるんだい、カイト。
 お前は本当に家のギャグ担当だなァ。
 果たして買った当時の俺はそんな事になると予想していたか。いや、全くしてなかったんだけどな。

「えっとね、今回は…」
「うん、今回はちょっと…」
 またもや2人して顔を見合わせる。
 これはなんだか楽しみというよりは不安になる感じだな。
「―――でも、まァカイトの記憶がたとえなくなって問題はねェだろ。また一緒にいりゃ時間はいくらでも作れる。性別が変わった…。それはそれで面白そうだし、もっと凄い事でも…面白けりゃ、いいぜ? 幸い俺は暇だからな」
 もう、外に出ないから。
 買い物くらいだろうか、外に出るのは。
 会社には1ヶ月に1回出社。成玲が迎えに来るから仕方なしに出ているといった程度。最初から、会社が落ち着いたら俺は自宅待機ということが決まっていたから奴に手を貸した。

 ―――成玲はそれでもその条件を酷く渋っていたのだけど、俺はそこだけは決して譲れなかったから。
 俺は、もう面倒ごとにはかかわらない。
 否応無しに巻き込まれる自分の体質を、骨の髄まで染み渡るくらい理解した。

「えっと…ね、」
 こしょこしょ、とリンが背伸びをして俺の耳に囁く。
 その言葉はあまりにも簡単に信じられるものではなくて、だけど確実に面白いことにはなっていた。


「―――へェ…それはまた……、楽しそうだな。まァた面白い事してくれんのね」
「だから、マスター、来て欲しいの」


 それで呼びに来たのだと、ミクは苦笑しながら訴える。
 くっつくリンを宥めて離しながら、髪を掻き上げながら立ち上がる。
「まー、それはね、俺も見てみたいなァ。どんな性格?」

「お兄ちゃんをそのままSにした感じ!」
「お兄ちゃんを鬼畜っぽくした感じっす!」

「ははは、お前ら遠慮ねェなぁ」
 ほれじゃまるでカイトがヘタレみたいじゃないか。
 そう言ったら2人はきょとんとしていた。
 え、違うの? 見たいな目で見られて俺も少し考えて苦笑した。
「―――いや、それが奴の普通だったな」
 なにせレンにも悪戯されるくらいだ。まァレンももともと鬼畜…ないしSっぽい所があるから、仕方ないのかもしれないけど。
「まァ、カイトがヘタレだとかわんこだとかドMだとか、そんなことは後において置こう。戻る、だろ?」

「ねェ、マスター」
「うん?」
 隣に立ったミクが見上げる。
 俺のもう片方の隣にはリンがいる。
「流石に私でもお兄ちゃんをそこまで言わないよ…?」
「だって仕方ねぇだろう? アイツまじ夜可愛くてさー」
 自分から脚を開くように調教し終わって、もう、リンにもとうにバレたからそう云う発言を控えるのは止めた。
「あ、私も今度見たい」
「それはだめ。カイトが壊れちゃうだろ? アイツ、淫乱ちゃんだから見られてる方が感じるんだってさ」
 以前レンがいたときにシていたら何時もより感度がよくて苦笑した。
「だってちゃんと見たほうが書けるんだよー、小説って」
「だからお前らはいい加減仮にもマスターである俺とか奴らを使って小遣い稼ぎするの止めろよなー」

「ん、マスターごめんなさい☆」
「…うん、大方知ってた。良いや」

 別にお前らが楽しそうなら。別に俺だってバレるわけでもあるまいし、現実にあることをネタとしてるなんてバレる訳もないだろうし。
 ―――いや、何故だろう。成玲だったらわかる気がする…。
 そういいながらも順調に階段を降りて、リビングへ。

 此処に、カイトと面白いのが居るという情報。
 いやァ、そう云うネタが出たときから実際にいたら可愛いなとか思ってたんだけどさ。まさかこんな風に実際に出てくるとはね。
 バグか何かの一種だろうけど、俺は少し嬉しい。


 リビングを開けながら、
「よう、カイト。そんで―――アカイト」
 手をひらひらと振ったら青い視線と赤い視線に晒された。


「―――えっと、なんでお前そんな恰好な訳? アカイトもこんな昼間っからカイトを襲うなよ」
 奴らはリビングの床に転がっていた。
 カイトが下、その上にアカイトが跨って、服を脱がそう…と、しているように見える。
「ぁ、マスターおはよ」
「おはよう、レン。朝食で会ってるけどな」
 それにもう時間的にはおはようではない。
「ンで? レンは最初から見ているんだろう?」
 何があったんだ、と問えばレンが答える前に―――何かに抱きしめられた。

「―――ん?」
 背が、高い。ボーカロイドたちにも体温というものは一応あって、それが人間ほど高くないにせよ、心地よい温度を保っていることはもう、随分前から知っている。

「―――十七夜月、待ってたんだ」
 名を、低いざらりとした声で呼ばれる。
「あん?」
 この声はカイトじゃない。カイトはもう少し高い。レンの声は高いし何よりも視界に物凄くイライラしたようなレンが見えているし。


 ―――と、なるとこの子は1人しかいない。


「…アカ、イト?」
「そう」
 低い声が耳元でして、その後ぬるりとしたものが耳に差し込まれる。耳を甘噛みされて、それが舌だとわかる。
「早く俺を呼んでくれれば良かったのに…」
「ちょっ、お前マスターに触りすぎ! 離れろよ!」
「―――なんだよ、ちびっ子。十七夜月はお前の物じゃないだろ?」
 なにやら面白いことで喧嘩なんてしているのでついつい傍観してしまった。
 いやァ、アカイトもまた巧そうだよなァ。なんて暢気に考えてた。
「俺…っ、の、じゃ、ないけど、お前のでもねェんだよ! 離れろ! マスターに触んなッ」
「そーんな風に怒ってると、十七夜月に呆れられるぜ?」
 更に抱きしめられて、カイトとよく似た身体に頭を抱かれる。
 あ、くそ、やっぱりカイトの派生だからかな。背が高い。奴も180越えてるからなー、ずるいなァ。
 俺ももう26だから伸びないし。こう…夜旋毛とか押してたら縮まないかな、コイツら。
「そうやってやらしい手付きで触るな!」
 髪を撫でられる。
「やらしくねェよ」
「お前が、やらしいんだよ! って云うかさ、カイト兄もなんか言ってよ」
 少し離れた場所でおろおろしているカイトを、八つ当たりからだろう、レンが睨む。

 ―――というか、こんな状況になってまでミクとリンが楽しそうにしている所を見ると…これは次回のネタに使われるんじゃないのか…?
 なんか、ちょっとアカイトが可愛そうになった。
 レンは知ってるから良いけど。

 さて、そろそろ俺は発言するべきなのかね。

「―――あー、アカイト、1回離れろ、な?」
 云えばレンがパッと笑顔に、アカイトが悔しそうな悲しそうな顔をする。
「…1回だから。後でたくさん構ってやるから」
「―――本当、だよな、十七夜月」
 おお、やっぱりわんこみたいだな。目が垂れてるぞ、ちょっと吊り目なのに。
 それを見て、どうにもカイトと被り過ぎて小さく笑った。その仕草が可愛くて頭を撫でて目元に軽く触れる程度にキスをする。


「本当だよ、アカイト。可愛いなァ、お前も」
 どうやら、これからも楽しいような気がする。
 ―――まァ、カイトがきっとギャグ担当なのは一切変わらないだろうけど。

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