悠久の丘で
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18 世界崩壊の瞬間は着実に近づいているらしい

窓の外には吐き気でも催したくなるよな赤い、目玉。
目玉のような星。
世界崩壊の瞬間は着実に近づいている。
そんな事見れば分かる。
いつだって空に浮かんでその終わりを誰にでも想像させるように。
残酷で、気でも狂ったのか、美しさすらも感じられるような、星。


小さなノックが部屋に響いた。
「ツォンです。入ってもよろしいでしょうか」
「勝手にしろ」
机の上にあふれる書類を仇のように目付けながら短く答えると、ドアの開く小さな音がして暑苦しい黒のスーツが覗いた。
髪を下ろした部下。総務部調査課の、現在の主任。
ツォンは小さく眉を寄せ、あふれすぎて机からひらりと落ちた書類を拾い、わざわざ机まで歩み寄る。
「ルーファウス様、落ちてらっしゃいますよ」
「知らん、どうせこの世界も終わりなんだろう?書類なんぞクソ喰らえだ。やったところで私の苦労が報われるわけでもなかろうに、こんなに並べやがって」
組んでいた腕を崩し、手近にあったインクの蓋を指ではじく。開いたままの黒いインクのビンに触れそうだった書類を、ツォンの手が救った。
その手を辿って上へと上がる不機嫌に細まる目が、ツォンの黒い目に視線を送る。
なのに、ツォンはその視線に気付かなかったのか無視したのか、決して上げることなく手元の書類に視線を落とした。唇が、僅かにためらったように音にならない声で何かを囁いた後、ツォンは視線を上げて、今度ははっきりした声で言った。
「あなたらしくもない。…期待はずれどころかいっそ哀れですね」
「なんだと?」
眉の上に、瞬時に皺が刻まれる。その直後目付けて、射殺しそうな勢いで相手を見た事を心の底から後悔した。
怖いくらいに真っ直ぐな黒の視線が、ふいに嘲るように揺れて、細まったのを見たからだ。
部下の前で失態を見せるのは得策ではない、少なくともここでは。
怒りで真っ赤になり激情しそうになるのを、自分に強く言い聞かせ、かろうじて机に拳をついて耐える。
「私の勤める会社の社長の器がいかに小さいのか、を再確認させられただけです。どうかお気になさらないでください」
ツォンは、『小さい』と強調して挑発するように言った。そして、なんでもない事のように首を軽くふって、朗らかに笑ってみせる。
「小さい、だと?私が」
「いいえ、そうは申しておりませんとも。決してそのような事は」
「言っているだろう、社長は私だ」
手元の書類に力がこもって、ピンとした綺麗な紙が一瞬にして簡単にくしゃくしゃになった。
ツォンはその手元を見て、笑って、書類に手をかけた。その1枚1枚を丁寧に重ね合わせ、綺麗なままの書類もツォンの手の中に集まっていく。
「力を、込めるからですよ、ルーファウス様。もっとも…、もうこれも必要ないのですから、汚れても、例え破損した所でなんの問題にもならないでしょうが」
にこやかな笑顔のまま集めた書類を手に持って、机から離れる。
「…ツォン、どこに行くつもりだ」
「この書類ももう必要ないですが、仮にも社長にお目通り願わなければならなかった書類ですからね。この会社が今存続している以上、通常のごみとして出すわけには行きません。燃やしてきます」
「必要ない」
「しかし、重要書類でした」
「問題ない、その書類を渡せ」
「…しかし」
渋るツォンの手から、書類を取り上げ、乱暴に机の上におく。
「…何をなさるつもりですか、ルーファウス様」
「目を通そう。そうすれば、文句もあるまい?
お前にこの会社の社長の器の大きさを見せ付けてやる」
「…この会社は世界の崩壊とともに、崩壊する予定なのでしょう?必要ないのでは」
「どうしてあの目玉などに滅ぼされなきゃならない」
「しかしこのままでは必ず」
「戦えば良い。腹が立つことだが、アバランチの輩は、そうして動き回っているんだろう? 世界をこのような危機的状況に貶めたのは私らのせいだと言われても仕方あるまい、面倒くさいが」
「…何もなさらず、この地で果てる予定だったのではないですか」
その言葉に、片方の眉を上げた。もうすでに怒りなど消えてしまった。
「馬鹿を言え、ツォン。私が果てるなど、この世界の損失だ」
ツォンが、笑った。
「…何を笑っている?」
「いえ、やはり私がこの会社に入って、貴方の元で働いていることは正しいことだったようですよ、ルーファウス様」
そう言った後、ツォンは踵を返した。その背に声をかける。
「…そうだ、特に仕事もしない幹部共に伝えておけ。後で会議を行おう」
「…リーブ部長には」
「私が直接言うさ。まともなアイディアを出すのはあいつくらいだからな」
机上にある電話に手を伸ばした。内線でリーブ本人の私室に繋げる。
ツォンは、軽く礼をして、元来た通りドアから出て行った。
内線はまだつながらない。
都市開発部門の方に繋げ、すぐさまに出た女性社員にリーブを来させるように告げ、電話を切った。


今だったら、あの憎らしい星にでも勝てる気がした。

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