悠久の丘で
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躁鬱始動
呆れたように溜息を吐いた。
―――だからこそ、コイツは恐ろしい。
*
「………何、お前らまで一緒に来ちゃったの? それに隊長、久しぶり!」
クリスは溜息を吐いてから、だが少し嬉しそうな声色で偶然(ある意味充分すぎるくらい必然だ)集まったCP:5幹部面々を見て笑った。
特に、自らの隊長に向ける笑顔は眩しすぎる。流石に他の幹部面々もちょっと嫌そうな顔をした。
勿論、俺も例に漏れず。
「……お前のジュリオ好きには困ったもんだな…」
「…つかよ、いい加減離してやれよ、クリスの首」
「―――え? あぁ…」
何を言われたのかわからない、とでも言いたげなジャンが、イヴァンに指示されて漸く指を離す。今は着けていない首輪の代わりに少しばかり赤い指の痣が着いてしまったのは、クリスの肌が弱いせいだろう。
その痣をしきりにジャンの指が擦り、クリスは擽ったそうに顔を背ける。
「…ふふ、ジャンくすぐったいよ。イヴァンちゃん、サンキュ。んでルキ久しぶり」
ちゃんって呼ぶな、と噛み付くように返したイヴァンの声を聞いているのかいないのか(十中八九聞いていない)クリスは自らの隊長に身体を向け、まるで尻尾と耳(しかも垂れ気味)でも見えそうなくらい嬉しそうな顔をした。
「ジュリオ、逢いたかった。だから遊びに来ちゃった」
「……クリス…、」
「ンな必要ないって言うのは無しだぜ。ジュリオが捕まったせいで俺はすっげえ寂しかったし、俺の兵隊たちもしょんぼりしてたんだからな」
ジャンの表情が、それまで浮かんでいたクエスチョンマークからびっくりマークに変わる。
「ごめん、なさい…クリス」
「謝って欲しい訳じゃないって、頭の良いジュリオならわかってるよな? …そんなにしょげた顔すんなよ、可愛いなぁ」
驚愕の表情になったジャンは、クリスが見ていないのを良いことに(語弊がある)しきりにクリスを指差して周りを見る。
言いたい事はある程度想定がつくので、それにこくりと頷いてやると目を丸くしてクリスを見た。
「―――マジ、かよ…」
「大マジだ」
前はこうじゃなかったんだがな、と告げるルキーノに、俺もイヴァンも頷く。
「―――…何、何か文句でもあるのかね、諸君」
突然冷えた声が聞こえたかと思えばジュリオを抱き締めたまま此方を睨みつけてくるクリス。ジュリオの手が彷徨っている所を見るとあまりそういうスキンシップはされなれていないのかもしれないとも思う。
確立で言うならかなり低いが。
「それとも、抱き締めて欲しいのか?」
ぴくりと1番動きが目立ったのはイヴァンだった。
「―――何、イヴァンちゃんマジで? ま、減るもんじゃないしな」
高い方だとは言え、この中なら真ん中あたりに位置するクリスの身長とイヴァンの身長には約5センチ程の差がある。妙に楽しげなイイ笑顔で腕を広げて見せたクリスから後退るイヴァンの顔はやけに必死だ。
それでも迫ってくるクリスから結局逃げられないのだから、我々はどうにもクリスには頭が上がらない。それが幹部の中でも下位のイヴァンのみならまだしも、筆頭である俺は勿論、ルキーノ、ジュリオ、カポになるジャンすらもそうなら溜息しか出ない。
「なんだよ、イヴァンちゃん、抱き締めて欲しいんじゃないのか?」
「だぁぁああッ! うっせぇ! クリス近寄ってくんな!」
「なんでだよ、理由を述べてみろ。そんで俺が納得したら止めてやる」
無茶苦茶な言いようだが、かつて何度か経験した事があるのでなんとも言えない。
基本的に、クリスは人が好きなのだ。
異常過ぎるほど真っ直ぐに、性別など関係なく。
「―――なぁベルナルド」
「ん? どうした、ハニー」
「クリスってさ、まったく変わらないんだな」
しみじみと呟いた言葉が、何故か必要以上に過去を懐かしむようにも聞こえてジャンの旋毛を見下ろした。時折ジュリオが此方とクリスの方を確認するように見ていたが、気にしないように目を伏せた。
「何も変わらないね、吃驚するくらい。かれこれ10年の付き合いだが、本当に何も変わらない」
変わった事と言えば、精々扱う武器が変わった事くらい。
「安心、したかい? ハニー」
「バカ」
クリスが変わらないでいてくれることに安心感を得たのは俺の方。俺が幹部になっても、段々と序列が上がり今筆頭になってしまっても、クリスは何も変わらない。
変わらずに接してくれる。
それが嬉しいだなんて、初めて知った。
「バカ、かな、確かに。今凄く構われてるイヴァンが羨ましい」
「あれぇ? ―――…すっげぇ。同感」
少し驚いたように目を大きくさせて、それから笑うジャンも美人だと思う俺はある意味病気か? でもイヴァンばかり構われてるのは我慢ならないので、一足先にクリスに絡みに(イヴァンを泣かせに)行ったジャンに続いた。
「クリス」
「…っげ」
「げ、とはなんだイヴァン。心外だなぁ、クリスに構われてるお前を助けに来たのに」
クリスの手前余計なお世話だと言えないイヴァンを苛めると言うのはなかなかに楽しい。2人かと思いきや加わった新戦力がナイフを構えていないのだけ確認して1人傍観しているルキーノに近付くと、肩を竦めて見せる。
「流石に参加はしないか」
「当たり前だ。こんな所できゃんきゃんしてみろ、GDのクソ共に鼻で笑われる」
「…でもクリスの事は見てるんだな」
「あぁ。アイツが何の為に来たのかは知ってても、アイツが簡単に堕とされる奴じゃないと知ってても、やっぱり面白くない事はあるんでな」
とんとんと一定のリズムで叩かれる腕が何を探しているのかなんて聞かずとも検討が付いたので何も言わない。
「―――後でイヴァンを苛めるなよ?」
「さて、どうだろう」
にぃっと獣のごとき笑みを浮かべる男が、うさぎのようになっている若年者をどういたぶるつもりなのかは特に興味がないから聞かない。
おおっぴらに問題さえ起こしてくれなければ、ジャンがいて戦力:人外ズが揃った今、ジャン曰わくフルコースは問題なく食せるだろう。
―――あくまで問題を起こさなければ。
「―――ルキーノ、頭の良いお前ならわかっていると思うが…」
「そういう釘刺しはあそこのひよっこに言ってやれ、ベルナルド。俺には必要ない」
「…ジャンは兎も角、な」
「ジュリオとイヴァンには釘を刺しておいた方が良いんじゃないか? 特にジュリオは今クリスがいる」
きゃいきゃいとはしゃいでいるようにしか見えない子ども達を見て溜め息が出る。
―――耳の早いクリスの事だから今の状況をわかっていて゛ああ゛なのなら。
「…まったく、対等ならまだしもクリスが下にいて良いことなんかこれっぽっちもないな」
つくづくカポ・アレッサンドロが偉大に見えるよ、とひとりごちるとルキーノは煙草の端を噛みながら苦く笑って見せた。
「違いねぇな」
「まったく、好き好んで爆弾を抱え込まなきゃなんのがこんなに不安だとは」
大きく溜め息を吐いても、安堵している自分がいる事も確か。何にって、あの゛爆弾゛がいる事にたいして。
「仕方ねぇさ、そんでもアイツを欲しいのは俺もお前も、ジャンも親父も一緒だ」
それが本当だからこそ、本当に性質が悪いのだ。
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