悠久の丘で
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私が従う人

 私のご主人様はとても愛らしい。
 私と彼が出会ったのはもう十数年も前で、その時彼は今と比べれば些か若かった。
 私が1番最初に見たものは―――

 『あッ、リオ生まれたよ、ゲン兄!』

 とても嬉しそうにしてくれている、彼―――クリスの笑顔だった。


  *


「暑いー」
 夏が始まってから冬へと移行するまで。
 クリスはぐてっとして過ごす。私たちポケモンとしてはそれが惜しいけれど、そうしているクリスが可愛いのでそれも仕方無いかと思う時もある。
 クリスは、極力移動や体力がないとき以外、私たちをボールのような狭いところ(彼談、だ)に閉じ込めておく事が許せないらしく、私たちは大抵クリスの周りに集まって暑さを寝転んで凌ごうとするクリスの傍に居る。

 腹を出して寝ようとすれば私は毛布を掛け、寝付きが悪いときは添い寝をする。
 あくまでも、近くに他の人間がいなかったときの話だ。

「リオー、こっち来て一緒に寝ようよー」
 クリスの声がする。
 だけど、クリスのすぐ近くに人の気配がする。
 つい、クリス好きが祟って、我々の力と人間の力の差を測り間違えてしまう我々は、1度、誤ってクリスを傷付けてしまってからクリスの近くにクリスに好意を持つ人間が居る時は近寄らなくなった。
 だけど、何かあればすぐさまクリスの盾になれる距離を伺う。

 私のように陸を歩む事の出来るポケモンならまだマシだ。
 クリスが小さい頃から私と共に育ててきたギャラドスは、身体が大きく、且つ、陸上での活動が制限されてしまうので近くに居られない。

「え、ちょ、…クリスさんなんでそんな恰好してるんですか」
「…ぁ、ルビーじゃん。だってさ、ほら。暑いから」
 まるで今は朝だよ、とでも言うように微笑みながら言うクリスに、思わずため息を吐きたくなってしまうのは誰とて一緒だった。
 頭を痛そうに抑えてから、ルビーと呼ばれた少年は腕を組む。


 ルビー。
 ジョウト地方に赴いたときに出会った少年で、最近こちらへ来て、今はクリスの弟殿、ヒョウタの所にクリスと同じく厄介になっている。


「クリスさん、あのねェ…」
「俺、冷房入れると風邪引くから脱ぐんだ。夏風邪って引きたくないだろ?」
 治るの遅いし。
 ルビーが言う「そんな恰好」と云うのは単純。薄い、肩が出たシャツ(それなのに袖もついてるから人間の作る服というものはよくわからない)に7分のズボン。いつもに比べれば今日はコレでも露出が少ない方である。
 暑い気候が得意ではないクリスは、毎年の夏をこのようにして過ごす。こう云う時ほど風邪を引き易いので率先して薄手の毛布を掛けようとするのだが、大抵は数分後にクリスに剥がれ、私自身が抱きこまれる結果に陥る。
 クリスの体温が無防備に出された腕を通してじんわりと伝わる。
 心地が良すぎて抜け出せないのが唯一の難点だ。

「暑いってね…、クリスさん、いかに家の中だとは言え、男が2人も居るんだよ? 気をつけなよ」
 開け放たれた窓から、私の居る木の上まで、声が良く聞こえる。
 同感だと思った。

「俺が死んじゃうー」
「この程度で死ぬ人間はいません。ほら、服着ましょうって」
 いつも不思議な事を言っているクリスだが、特に気候に関するとそれが酷くなる。
「―――って云うかね、クリスさんだったら知ってるでしょ。
この地方が他の地方に比べて随分涼しいの」
 クリスは顔を背けた。

「―――…あッ、またそんな薄着で居るの、クリス兄様!」
 説得する声を聞きつけたのかヒョウタがやってきて、部屋の隅で転がるクリスを見つけて眉を潜めた。
「ちゃんと着てるよっ。そんなに可愛い顔歪ませるなよ、2人共」
「クリスさん、せめて一般的な常識までレベルを上げましょうって」
「だいたい兄様、そんな恰好してて急にゲンさんが帰って来たらどうするの」
 呆れたように腕を組む。最近のヒョウタはクリスのせいですっかりため息が癖になってしまった。
 クリスは面倒くさそうにころりと身を起こし、床に胡座をかいて、曲がっていた身体を伸ばす為に大きく伸びをして見せた。
「―――…んん、ゲン兄も急には帰って来ないよ。この間の定期連絡、テンガン山からだったじゃん」
 まるで猫のように背を綺麗に弓なりにし、背骨から矯正する。そしてもう1度腕を引っ張った。
「それでもクリス兄様に何かあったと聞いたらすぐに戻って来るのがゲンさんだよ…」
 ヒョウタのため息が更に重くなった。

「リオー、リオー引っ張ってー」
 下から呼ばれる。
 彼にはいつでも居場所がバレている為、クリスの視線はまっすぐに私の方を向いていた。
「リオ?」
 説明を求めるような視線が向いたのはヒョウタで、それはあらゆる意味で正しいと思う。
「そう。兄様のルカリオ」
「あぁ…、あの綺麗な」
「兄様、リオが1番最初に出会ったポケモンだからね」
 クリスの声がもう1度名前を呼ぶ。


「リオ」
 その高くも低くもない音に逆らえない。
 決して。
 何があったとしても。
「おいで」

 それは、生まれる前からずっと聞いてきた声だから。


『―――…御意』
 テレパシーで声は幾らでも伝えられる。枝に付いていた脚を離せば当然の如く重力にしたがって落ちる。突然木の上から出てきた私の姿に、ルビーは驚いたように1歩下がった。
『クリスが呼ぶなら何処へでも』
 同じ地面に脚をつけた私を、クリスはとても綺麗な藍玉の瞳で見る。そして、へらっと笑って手を伸ばす。
「リオ、おいで」
 伸ばされた手に触れられるくらいまで近づくと、クリスの腕が首に回り、抱きしめられた。
「リオやっぱりふかふかだー。な、一緒に寝ようよ」
『…その前に、服を』
「あ、リオまでそんな事云う」
 私の声は、会話に不自由が生じるためにその場にいる全員に送るようにしている。近すぎるクリスの目からそっと視線を離してちらっと助けを求めるようにヒョウタを見れば何故か頬を膨らませていた。

『―――ひょ、ヒョウタ…?』
「なんか兄様ずっとリオにべったりでずるくない?」
 そう云う問題ではないと思うんだ。
「…ん、ヒョウタさん?」
 ルビーの信じられないものを見るような目にも気づかないのか、ヒョウタのクリスとは真逆に近い目はずっとクリスだけを見る。


「ならヒョウタもおいでよ。ぎゅーってしてあげる」


「ちょ、何血迷ってるの兄様!」
「―――血迷ってるのはどっちかというとヒョウタさんだよね…」
 私もそう思う。
「だってリオがずるいんだろ? だったらヒョウタもぎゅってしてあげるって」
 クリスも善い笑顔過ぎる。
 そして、悪巧みしたらそれが実行されるまで諦めないクリスは、ヒョウタに向かって両手を広げて見せた。そして極め付けに小首を傾げてみせる。

 ―――ヒョウタがそれに弱いことを知っていて。

「兄さ…」
「ただいまー」
 だけど、言葉の途中で上から声を被せられた。
 みんながこの声を知っていた。
「え、誰…?」
 知らないのはルビーだけ。

「ちょ、本気でタイミング悪すぎる…」
「いやー、マジで本当になったねー」
『…すごく久しぶりだな……』
「誰?」

 知らないって良いよね、とヒョウタが小さく呟いて。
 クリスが困ったように頬を掻いた。


「えーとね、兄さん。ゲン兄」

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