悠久の丘で
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僕が決して逆らえない人

 僕はその日、拾いモノをした。
 僕は、本当の意味でその時父さんの子どもだと云う事を知る。

 僕が管理できるものですらない。
 それでもつい手を伸ばしてしまったのは、やはり父さんの血が混じっていたからだろう。


 それはとても綺麗な銀色だった。


「―――ねェ、」
 そっと触れる。
 ―――僕は、結局ソレを持って帰った。


  *


 そんなことがあってからもう早いもので10年以上が経っている筈だ。
 厳密に言えといわれても僕にはよくわからない。父さんなら覚えているかもしれないけれど、まァ、僕は小さかったから。
 それが厳密に何年前からこの少し異端な家族に加わったのかは、本人が覚えているとは思えない。覚えているような性格じゃないし、何年経ったから家族になれたとか、そういう問題でもない。

 1人目の拾いモノからして我が家はおかしいのだから。

 そこに2人目が増えようと、それはたいした違いになる訳でもなく、あの日拾って帰った僕に、父さんは、ただ一言「病院に連れてくぞ」としか云わなかった。
 父さんもある程度諦めていたのだと思う。
 1人目をつれてきたのは父さんだったから、何も言えなかったと云うのもある。

 そしてそれ以上に人として、放って置けなかった。

「ねェ、ヒョウタ」
「なんですか、クリスさん」
 やけにくっつくこの義兄を、僕が何年前だかよく分かたないけれど拾った。
 彼は、何故だかよくわからない場所に倒れていて、そして家族となってから何日かで重度の方向音痴だと云うことが露見した。
 それ以来、僕はあまりこの人の傍を離れられない。

「ヒョウタ可愛い」
 なんの意味もなく、彼はこんなことをよく言う。
 その度に僕がどんなことを思っているのかなんて絶対に知らない。
 くそ、マジで性質悪い。
「クリスさんには負けますよ」
 方向音痴の彼を、僕らは特に炭鉱に入ることを禁止した。
 何故かと問われれば酷く単純。
 ―――…1度入ったらその日の日が暮れたとしても戻ってこれないからだ。
 しかも性質が悪いことに迷っていても決しても慌てないから迷っているのか目的地があるのかわからない。
 性質の悪い迷子を根本から迷子でなくす為には出さない事が手っ取り早い。
 ―――…その作戦が、成功したかどうかはおいておいて。

 昔から本当に迷惑な人だ。いろんな意味で。
 彼がなぜか今こうして僕の任されたクロガネシティにいるせいで、僕は重度の不眠症に陥りかけている。


 原因は2つだ。
 酷く単純。
 どこから嗅ぎつけて来たのかはわからないけれど、ゲンさんと父さんの度重なる嫌がらせ電話と、クリスさん本人。
 もっとも僕のすぐ隣で丸くなって気持ち良さそうに寝るクリスさんは知らないだろうけど。


「俺はねー、可愛くないよ。マジでヒョウタが俺の天使☆」
「馬鹿なこと言ってないで早く僕から離れてください」
「可愛いなァ…」
 ため息と同時に言われて僕までため息を吐きたくなる。
 可愛いのはどっちだ。
 僕らの背は大した差がないから、項に吐息が当たって身じろいだ。
「―――…わかりました。百歩譲って取り敢えずその薄着をやめてください」
 外に出れば迷えと云われていると言わんばかりに必ず迷うクリスさんを、怖くて1人でなんか出せない。
 だから陽にも当たらない白い肌が眩しい。
 陽に当たらないのは一緒だが、土埃にまみれて生活しているような僕とは違う、綺麗な肌。クリスさんの肌はサラサラしている。
 だけど、クリスさんは僕を見つけると必ず僕がどんな状態でも抱き締める。汚れてしまうから止めて欲しいと云えばなんと言われたのだっけ。

 あぁ、「やだ」の一言だった。
 だけどそんな汚れている状態でクリスさんを抱き締められる訳もないから、僕は馬鹿みたいに生殺しの状態を享受する。僕にとってはその腕から逃れる選択肢すらもないのだから、その状態に陥るのは必須だ。

「え、譲るどころか俺を侵食してるぞ」
「気のせいです。つか、ここは僕の家です」
「だって暑いし…」
 眉をハの字にする。
 それが視界に入ると僕は負けてしまうから、目を細めて、寧ろ軽く瞑る気持ちで。
「せめて外に出れる程度に服を着てください」
「俺は出れるよ」
 ぱっと顔を明るくさせて手を上げる。この人をこんなに幼く育てたのはいったい何処の誰だ。

 もう1度ため息を吐いた。

 何の為に僕がこの街に来たのかもきっと知らない。
 ゲンさんが根無し草のようにあちこちをふらふらするようになったのも、どう云う経緯があってだかよくわかっていない。
 …確かにゲンさんのは自分が旅が好きだから、という路線もかなりありえるけれども。
「―――…僕が気にするんですよ」

 血が、繋がっていない兄弟というのは要は他人。
 そう思いたくても思えない年月が僕やゲンさんを散々苦しめて、今こんな状況になった。

 この人は可愛い。

 これが、もしクリスさんが隣りの家に住む人ならば、話はまた違っただろう。
 僕もゲンさんも、ただのライバルで居られた。
 だけど、僕がクリスさんを拾ったから。


 その日から僕は胸にずっと1つの罪を持つことになった。
 消しようにも消せず、明かせもせず、ただくすぶるだけの火種。


「上着着たら暑いんだよ?」
 凄く、言い含めるようにゆっくりと言う。
 薄いタンクトップのような袖のない服に、父さんに持たせられたのだろう。腰に上着を巻いている。
 こうやって見ると、本当に鎖骨が綺麗だ。
 そこまでなんとなく考えて、慌てて首を振った。
 そう云うことでは、決してない。
「クリスさん、そんなに露出多いと襲われますよ?」
「腕しか出てないよ!」
「そう云う問題じゃありません」
 不貞腐れたように頬を膨らませるクリスさんを真実可愛いと思う僕はきっと変態だ。

「―――それに此処に居るのはヒョウタだし」
 それは果たしてどういう意味なんですか、クリスさん。
「ゲン兄の前とは違って、危なくないし」
 当たり前だ。あの変態と一緒にしないで欲しい。

 余談だが、ゲンさんはクリスさんが拾われたときから呼んでいた「お兄ちゃん」というワードにある時から酷い反応を示すようになって、クリスさんは危ないから彼の前では彼を兄と呼ぶことを止めた。
 いくら鈍いクリスさんでも流石に、呼ぶ度にその辺りを血の海で染められたら危ないと思うだろう。

「それに、俺はヒョウタが好きなんだよ」
 止めてください。そんな期待してしまうような事。うっかり、ゲンさんに勝ったなんて思ってしまう。
「それとも―――ヒョウタは俺が嫌?」
「そんな訳ないでしょう」
 バカな事を言わないでください、と小さく呟けばクリスさんが頭を撫でてくれた。
 なんか最初からわかりきった事だが、クリスさんには勝てそうにない。

「即答されるなんて、なんか愛されてる?」
 そんな風にやや嬉しそうな声色で言って。
 それにも当たり前です、と返せば抱き締められた。

「俺も好きだよ、ヒョウタ」
 この無自覚ドS。
「僕も好きですよ、クリスさん」

 この腕から逃れる気力も術も持たない僕は、一生甘さに満ちた棘に深く傷付けられたままだろう。だけど僕は笑う。
 仕方ないんだ。最初から、この腕から逃れる選択肢すらも僕には与えてもらえてない。そして自分に与えるつもりさえない。

 絡め取られた棘に、馬鹿みたいに恋い焦がれているのは僕。
 本当は棘なんてない滑らかな腕に幻覚を見るのも僕。

「―――ん、ヒョウタ」
「なんですか、クリスさん」
 もうとうに諦めた。
 この人はドがつく無自覚Sだし、僕はクリスさんから離れたくない。
 だからこうして押し掛けてきたクリスさんを拒絶出来ないんだ。
 離れろと言ったのに結局くっついて、首の辺りにクリスさんの髪が触れてくすぐったい。それでもクリスさんと大して身長が変わらないから、その状態を打破するにはクリスさんに言うしかない。
 だけど、極力言いたくない。
 むっつりスケベみたいで嫌だけど。

「ヒョウタから石鹸の良い匂いがする…。いや、シャンプーかな?」
「ちょ、クリスさんっ!?」

 だけど、セクハラなのは間違いなくクリスさんの発言だ。慌てて立とうとした
ら、クリスさんが体重をかけて僕が立てないようにした。
「クリス、さん!」
 近い、近い。
「慌てるヒョウタも可愛いなー。ねェヒョウタ、襲っていいですか」
「何真面目な顔して聞いてるんですか!」
「えー、だって真面目に聞かなかったらまるでゲン兄じゃん」
「知りませんよ!」
 もう、眼鏡を外したってクリスさんが見える距離。頬を膨らませるクリスさんに、本当にあなたはいったい幾つなんですかと聞きたい。全力で。
「じゃぁさ、その作業着の上脱ごうよ。なっ」
「は…?」
「だって下にタンクトップとか着てるだろー? なら良いじゃーん」
 にこっと音がするんじゃないかと思うくらい良い笑顔でクリスさんは言って、僕の服の襟に手をかける。
「クリスさん、クリスさん!」
「だってヒョウタが俺の事、なんか他人行儀に呼ぶし!」
 それと脱がすのはまったく次元が違うと思います。
「それにさァ、ヒョウタ可愛いしー。ね、いい子だからそうやって力入れるの止めようぜ」
「クリスさんこそ止めたらどうですか!」
「だってそうしたら脱がせられないだろー?」
 もう、何当たり前のこと、みたいな風に言ってくるクリスさんが可愛いやら僕が危険やら、なんか大変だ。

「ヒョウター? そんなに強情張ってると…」
「は、え? ―――っひゃ、」
 ん、と続きそうになった声は必死に飲み込んだ。
 なぜなら? 目の前で物凄くニヤニヤしたクリスさんを見つけたからだ。
「あ、やっぱり耳弱いんだ?」
 なんでこの人すごく生き生きしてるんだろう…。
「ふふふ、ヒョウタは他にどこが弱いのかなー?」
「ちょ、クリスさん!? なんかすごくゲンさんみたいになってますよ!」
「んー?」
 そう言って下唇を舐める。
「もう、なんかテンガ山にゲン兄と2人っきりで閉じ込められてさー。ちょっとゲン兄移っちゃった?」
 可愛く小首を傾げるけれど、内容は可愛くない。


「え、ゲンさんと2人!?」
「あ、そこなんだね」


 クリスさんが苦笑して、僕が抗議しようとした瞬間に力の抜けた手から上着を奪われた。
「あっ!」
「あはは。ヒョウタ肌触って良い? ダメって云っても聞かないけど」
「ちょ、返事する前に触らないでください!」
「え、無理」
 その言葉の通り僕に触れるクリスさんの手には迷いも遠慮もなくて、寧ろ僕がいたたまれなくなってくる。
「―――…ヒョウタ」
「ダメです!」
「ちょ、まだ何も言ってない! 良いじゃん舐めるくらい。減らない減らない」
「は、舐め…って、言った端から舐めるなクリス兄様!」
 何故か床に押し付けられ、言葉が終わる前に鎖骨のあたりに生温いものを感じる。
 つい、殴ってしまった。
 ―――勿論手加減はしたけど。
 そしてせっかく直した言葉が戻ってしまった。
 クリスさんがにぃと笑う。
「―――ん、ヒョウタに兄様って呼ばれるの、なんかクるね」

 可愛いクリスさんが段々いやらしくなってくる。絶対にゲンさんのせいだ。

「ねェヒョウタ」
「…はい」
「昔の口調に戻すなら今日は諦めてあげるよ?」

 悪魔が笑ったかと思った。
 とても綺麗な恋い焦がれる悪魔。

「―――わか、った…よ、クリス兄様…」
 兄と呼ぶ度に自らの罪を意識して呼ばなくなった名前。
「ん、良い子。ヒョウタ大好き」
 抱きしめられて、額に押し付けられた唇の温度は昔とまったく変わっていなかった。

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