悠久の丘で
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大元の大元、諸悪の根源
たとえば愛する奴がいたとして。
そいつは猫みたいな奴で、基本的に愛想が良くて。
頭は良いし、刀の腕は立つ。
残念なのは男だと言う事くらい。
*
子伝々虫の受話器を荒々しく置いて、部下を呼びつける。
仕方なしにジャケットを羽織って、背に刀を刺す。葉巻を深く吸い込むと味なんか分からなくなっていた。
積み上げていた石は、アイツからの通信の時にすでに崩れている。必然的に深いため息の後になってしまい、入ってきた部下の不審そうな顔も見る。
「大佐、なんでありましょうか」
「…たしぎの奴をさっさと連れて帰って来い。…船を出す」
声は苦い。きっとタバコと同じくらい、苦かったはずだ。なんのせいか舌が麻痺したようにタバコの味は分からなくなってしまったが。
「…は? 船、ですか」
顔面いっぱいに?マークを浮かべる部下に、仕方なしに行き場所を伝えて手を振って促した。どうせトロくさい部下であろうとも、連れて行かなかったら怒られるのだ。
そしてそれは怒るというには泣く、に近い。
「シェルズタウンまで行ってくる」
結局はアイツの望むとおりになることが少し、悔しい。だけれどもアイツに呼ばれて断る理由も見出せなくて、ため息が出る。
アイツに賞金がかけられたのは少し前の事だった。
そして俺とアイツとたしぎの付き合いはそのずっと前から。
アイツがまだ10歳の時。
――――…もう、5年も前になる。
*
この海ではない場所。
まだ一兵だったたしぎとはなぜかその時からの腐れ縁で。
その時追っていた海賊のおかげで…クリスに会ったといっても過言ではない。
「動くなァ!」
さして強い相手でもない。
だからこの船の指揮を取るのは少佐だ。
張りのある声で海賊どもをその場に居止め、だがしつこくじりじりと後退していく海賊を半眼で見据える。
「お前らはもう完全に包囲されている、余計な気を起こして死ぬよりはマシだと思うが」
「ふざけんな――! 誰がお前なんかに捕まるか!」
負け惜しみのように怒鳴り返す海賊の足元を狙って銃を撃つ。
鋭い音が海賊を縫い付けた。
「お前ら、もう1度言う必要があるか…?」
はためく正義の文字。
咥えた葉巻の煙を吐き出して言うと海賊は今度は動かなかった。
その代わりに視界の端に入り込んできた部下に視線をずらす。
「…スモーカー少佐」
「…なんだ?」
今日もつまらなかった。
今日も俺を楽しませてくれる奴は現れない。
銃を今度は眉間に定めたままため息をついた。
いっそのこと、”偉大なる航路”に入ってしまえば面白いかと思った。
チラリと頭の端をよぎっただけで、決して本気ではない。
何より”偉大なる航路”に入るには船の装備も経験不足の兵士たちも、足手まといになる。
「見慣れぬ子どもが」
「…子ども?」
短く返事をした部下は手のひらで示し…スモーカーはそれを見た瞬間開いた口がふさがりそうに無かった。
「…アイツはあんな所で何してやがるんだ…?」
肉眼で見えるくらいには近い。
そこに居る、子ども。
細いのであろう下肢を隠し、腕は長く露出している。肩甲骨の辺りの髪を大雑把にまとめ、とにかく綺麗な顔をしている。どこかの王族だと言われたほうが納得できるくらいに丁寧な造りの顔は間違いなく人攫いに狙われるタイプである。
海賊に目をつけられたら面倒くさかった。
「…誰か、この船に女は乗ってたか」
「はッ、たしぎ一兵なら乗船しております」
「ならそいつでいい、あの餓鬼を回収しろ」
誰でもいい、完全包囲した海賊を捕り逃がす羽目になりそうなあの餓鬼を回収してくれれば。ここで行かせる人員を女にしたのは子どもへの配慮と戦力をそがれたくなかったからだ。
「…ンとに何やってやがるんだ…あの餓鬼」
その子どもに視線が注がれると、視界に短い髪の女が現れた。恐らくあれがたしぎ、という奴なんだろう。
計算外といえば唯一、コレひとつだけだ。
「…あ」
女がこけやがった。
そんで、あろうことか海賊に見つかった。
ただ、コレだけ。
「たしぎィ!!!」
思わずタバコを取り落とすくらい驚いたし、目の前で嬉々として――かなり危ない目つきで――たしぎに踊りかかる海賊を見たせいでもあったかもしれない。
たしぎの位置まで行けば子どもの存在もすぐにバレるだろう。苦々しくこの先をどうするか目算を立てていたときだった。
「スモーカー少佐!」
悲鳴のような声。聞きたくない、と思いつつここには俺以上階級の高いものはいないのだと、あきらめて現実をまっすぐに見る覚悟をつけた。
「どうした、たしぎと餓鬼は!」
「それが…、子どもが」
「子どもが…」
それ以上言おうとしない。もう、殺されてしまったのか? ンな莫迦な。ある程度知能犯で通ってる海賊だ、すぐに殺すことなんてないだろう…多分。
「早く報告しろ!」
「…っは、…こ、子どもが海賊を斬りましたァ!」
そしてまたしてもタバコを落とす。
「…は…?」
「で…ですから、たしぎ一兵まで近寄った子どもが、襲い掛かってきた海賊から刀を奪いそのまま海賊撃破」
ンな、莫迦な。
だがしかし現実というのは非情で、スモーカーがどう見たって部下の報告通りにいか見えない。
そして、たしぎを守るようにして前に立っていた子どもは一息ついて刀を落とすとたしぎに向かって笑いかけた。
そしてその視線がこちらを向く。
「この人は、無事ですよ」
回収しようとしていた本人に助けられては世話ない。
そしてもっと驚くべきはその後だった。
「…あ、シャンクス!」
岩の陰にでも隠れて見えなかったのかゆっくりと姿を現す船は有名すぎる船で。
その船長が降りてくれば一戦交える気かとただならぬ緊張感が走る船を綺麗さっぱり無視してくれた。
「クリス、お前迷子になるなっていっただろう」
「…あはは、ごめん…ね?」
それどころか海軍にはまったく興味がないのかこちらを見ようともしない。
ただ子どもを愛し気に抱いてこちらを一瞥しただけで背を向ける。
その時からだ。
クリスと意味の分からない縁が始まったのも、酒の席でガープ中将に絡まれるようになったのも、頻繁に赤髪の船を見かけるようになったのも。
全部全部、その時からだ。
*
「大佐…ッ」
「遅ェ、何してやがった」
「…えっとォ、刀を取りに…」
「何時間かかってやがるんだ、お前は」
溜息を付く。走らせた海兵はいつもの事ながら恐縮しているが、原因はいつまで経っても帰ってこないコイツと俺に船を出させたクリスだ。
いや、クリスがあきらかに悪いだろう。
「クリスから連絡があった」
苦々しく言うと、たしぎの顔は綻ぶから性質が悪い。
「クリス君から…? 久しぶりですね」
「シェルズタウンに酒をもってこいと、それだけで!」
あの野郎軍の回線を使いやがった。今更上に腹を探られても痛みすら感じないがうざったい事にはうざったい。
上の、あの人に注意を促したいところだがそんな事を聞くような奴でもない。
ましてやクリスはあの人のお気に入りだったし、傍目から見てかなり妖しいほど彼への愛情であふれているあの人にそんな事を言ってみろ、潰されるのは我が身だ。
「でも、本当に久しぶり…。元気でやってるといいですね」
元気でやっているも何も、アイツは海賊なんだが。
「最近音沙汰なしだったから、ちょっと心配だったんです」
そう言って笑むたしぎを注意するのはあきらめた。
もう無理だ、何が起ころうとも。
*
盛大にため息を付きたい気分だ。
酒の準備も部下の準備も出来た。
走る船の行き先は、「シェルズタウン」。
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