悠久の丘で
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彼の悩みの種

 たとえば愛する奴がいたとして。
 そいつは猫みたいな奴で、基本的に愛想が良くて。
 頭は良いし、刀の腕は立つ。
 残念なのは男だと言う事くらい。


  *


「あ…れ」
 街に降り立ってみれば街中をパタパタと走っていく海軍の姿。だが武器らしきものは持っていないところを見ると何かを追ってはいるが危害を加える気はないらしい。
「へェー、珍しい」
 ここはシェルズタウン。
  海軍大佐、モーガンが支配する町。
「ねェ、ちょっと聞いていいかな」
 走り回っている海軍の人間を捕まえて聞く。ある意味とても急ぎの用事だから、できるだけ早く彼に会いたい。
 そして彼に振り回されてる可愛い曹長殿にも。
「ここに中佐くんいるよね」
 聞いたその人は、すごく不思議そうな顔で、だがややあって頷いた。


  *


「クリスー、クリスやー」
 赤髪の男が呼ぶ。呼んで探している場所はおよそ見当違いでなぜか甲板に出て酒樽の間を練り歩いていた。
 猫でも呼ぶような気軽さに、ようやく気付いた部下が彼に声を掛ける。
「あ、おかしら。クリスならどっかいっちまいやしたけど」
「何ィっ!?」
 ショックに酒樽を壊しそうになった。
「何言ってるんですか、昨日降りたじゃねェっすか、船」
「何で、何の用事だ!?」
 部下の目が呆れたように細まるのをしっかりと見て、だが二日酔いか思い出せない自分の頭にイライラする。がしがしと頭をかけば哀れんだような視線を部下から感じた。
「…あんたが切らした酒、買いに行ったんすけど」
「なに!? 酒だったらあるじゃないか」
「それ、飲料水」
 付き合いきれないぞ、コイツ、みたいな視線を感じながら、昨日のことを思い出す。そういやァ酒がなくなったかもしれない。
 酒樽だと思ってたのは水だったのか。
 どのみち樽を壊さなくてよかった、と胸をなでおろす。壊したらまたクリスに何かいわれるところだった。
「…クリスはいつ?」
「昨日の夜中。もう島には着いたんじゃないっすかねェ」
 クリスの事だから、と続けて、特に波も立たない海を見て言葉に乗せる。異様に過保護な船長には、昨日の夜中は波が高かった事は内緒だ。
「夜中ァっ!? 他に誰が行ったんだ!?」
「1人で行きましたよ、邪魔だって言いながら海王類呼んで」
 いつもの様子を見てればわかるでしょう、といわれてつまる。
 たしかにそうだ。アレの性格を考えて供をつけて買い物になんていく奴じゃない。…というか、海王類についていきたくない。
「…それで夜?」
「えぇ」
 クリスだから大丈夫だと思う、といわれてもどうしても嫌な予感はぬぐえない。
「ここからなら一番近い島はどこだ」
 えっと…、と空を見上げる。
 潮風が少し頬に吹き付けてくるくらいで、特に何もなく過ごしやすい。今はまだ東の海にいる。
「あー…シェルズタウンですね」
「…シェルズ…タウン?」
 その名前に嫌な予感がする。あそこは誰が治めていた土地だ? そんな事も気にせず上陸するであろうクリスの性格を、シャンクスはおそらく1番理解していた。
「確かやりすぎモーガンのいる街…」
 決してクリスの生死の安否をしているわけじゃない。あの子ならバスターコールがかけられようとも生きていそうだ。
 ただあの大佐は…
「…しかたねェ、シェルズタウンに船回すぞ」
 この上なくクリスの神経を逆撫でするだろうから。
 あの子のいい所は間違った事を間違ってる、といえて、言った言葉に責任を持つところだ。
 彼は、あの街には耐えられないだろう。


  *


「珍しい事もあるもんだ」
 気が良いのか、見知らぬ海賊に話しかけられて中佐を呼びに言った海兵の後姿を見送る。
 さっき見た光景は帰ったらシャンクスに放さなければならないほど面白かった。きっと正義の文字を背負う彼なら苦笑いで茶を濁すんだろう。
「たった2人の海賊に、敬礼してた」
 呼びに行ってくれた彼がいないから口に出す。
 きっと中佐くんの事だからあれに筋は入っていたんだろう。そして敬礼するほどの何かを、あの2人がやらかしたんだ。海賊なのに。
「1週間くらい、ご飯抜きかァ」
 かわいそうに。 だけれども決して海兵たちの顔は沈んでいない。

 …と、言う事はそれだけの事をしたということ。

「将来が楽しみ、かな」
 実に実に。
 そして気になるのは後姿だ。

 季節はずれな感じもする麦わら帽子。
 そして緑の頭。

「まさか…ね」
 彼だとすればもう17歳。自分より僅かに歳が上。
「シャンクスを追えるのはアイツだけだけど、まさか…なァ」
 でも綺麗さっぱり忘れてしまうには帽子が似ていた。
 そして大きくなったらこうなるであろう、姿。
「似てたなァ…、ルフィに」
「お待たせしました!」
 後姿について思案していたら目の前に中佐くんがいて、となりに先ほど呼び止めた彼がいた。
「…ぁ、ありがとう。で、中佐くん」
 中佐くんのほうはいやそうな顔をしている。酷いったりゃありゃしない。
 でも俺は続きを平然と口に出す。だってそのために海王類に頼んでここまでつれてきてもらった。

「スモーカー大佐、どこにいんの?」

 中佐くんはやっぱりという顔をして、額を押さえた。


 早く可愛いたしぎに会いたい。
 早く可愛いスモーカー大佐をイジメたい。

 中佐くんは呆れた顔をしていたのにでんでんを取ってくれた。


  *


「おう」
『スモーカー大佐ですか』
「あぁ」
 たしぎの姿が見えない。ちくしょう、またどっかで買い物してやがるな。タバコを頼もうと思ってたのに。
『…とりあえず、すみません』
「はァ?」
 何のことだ、そりゃぁ、と言う前に。でんでんから聞こえてくる声のトーンが一気に上がった。
『スモーカー大佐ァ? ねェ、今何処にいんの』
「…おい」
『なんだよ、無視かよ。もっくんのくせに』
「…なんでお前が軍の回線使ってやがる」
『なんでって…』
 そんなの決まってるだろ、と軽く返された。頭が痛い。ついでに胃も痛い。
 今度飼い主に会ったらきつく言っておきたい。

 ペットの躾がなってねェ

『まァいいや、俺さ、今シェルズタウンにいんの』
「そうか」
 むしろ切ってしまいたい。
『だからね、もっくんが今いるところの美味い酒、早急にシェルズタウンに持ってきて』


 こいつは海列車のかわりに軍の軍艦を使うような奴だ。

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