悠久の丘で
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恐れていた事


 さらさらと、砂がこぼれるように。
 いつだって時間とともに命は流れていく―――…

 運命とは残酷に、その時を刻んだ。


  *


 最初の警告音は携帯の着信音だった。
 いや、それよりも前から嫌な予感はしていた。
 それを無視したのは―――


  *


「…はい、クリス」
『あっ、クリスか!? そこらへんにツォンさんいねぇ!?』
 あまりにも切迫した同僚の声。
 雑魚寝同然で、なぜかすぐ隣―――10cmもないところにルーファウスのなかなかに安らかな寝顔があるといった状態で、急に、はっきりと目を覚ました。
「ツォン? ちょっと…、待て」
 反対側の隣にはやたらと苦悩の表情を浮かべたグレン。それの腹にコレでもか、というほど脚をのめり込ませているのはレノだった。
 ツォンは―――…、と視線を彷徨わせる。すぐに探さなくてはいけないような気にさせられた。

 何より

 ジルはこんな朝早く、他人の迷惑も考えずに電話なんかしてこない。それが余程の緊急事態なら別として、だ。
 見つけた。
 1人だけ、何故か椅子に座って寝ている。昨日の夜の記憶はあまりハッキリしていないけれど、夜だというのに彼は髪を縛ったままだった。
 身を起こして気付く。肌寒くない理由が分かった。
 これだけ人肌に囲まれていれば寒くもないが、毛布がかけられていた。そして、ルーファウスに手を握られている。それどころじゃない。手を握って、背に腕を回して、彼は俺を抱き込むようにして、抱きしめて眠っていた。
 そりゃぁ、暖かい訳だ。なんとなく過去のことを思い出して小さな笑みが口元を引き上げる。
 いつの間に握られたのか分からなくて一瞬思考が止まりかけたが、あいている方の手で自分の頬をぺチン、と叩いた。軽く叩いたつもりなのに意外に力がこもってしまったらしく頬が痛い。
『クリス!? なんか痛そうな音したけど…』
「大丈夫、ちょっと待ってて。ツォン、起こすから」
 抱きこむルーファウスを慎重にどかし、握られた手を丁寧に引き剥がしてツォンの元へ。
 その途中に何人かの手やら足やらに引っかかりそうでよけるのが大変だった。
「…っ、ツォン」
 寝ている彼には悪かったが、着いた途端に彼の肩を揺り動かす。眉間による眉が、彼を起こすことにストップをかけるがそんなことを気にしていられる余裕は無かった。

 だって、彼が今いるのは

「ツォン、悪いけど起きて貰うな」
 ぺチリ、と頬を軽くはたくと小さく身動きした。流石隠密部隊、とでも言うべきか。眠りは浅いのが特徴になっている。
「…どうした、クリス」
「おはよう、起こしてごめんな。ジルから電話だ」
 はい、と繋がったままずっと放置し気味の携帯を手渡す。
 ツォンの、顔色が、変わった。
「ジルか」
『ツォンさん!? セフィロスが…』
「セフィロス?」
 なんとなく嫌な予感がした。ここのところなんだかセフィロスの様子が変だと、ザックスから聞いていたからかもしれない。それにジルからのこんな非常識な時間の電話。
 どんどん嫌な事しか思い浮かばなくなって、ぐるぐるしてきて頭を抑えた。
『…セフィロスが狂った!』
「…は?」
『今ニブルヘイムは火の海だっ! アイツ、夜中に町中に火ィ付けやがった』

 あぁ、だから嫌なんだ。鋭過ぎる勘なんて。

「…村人たちは」
『火の手が早すぎて、まだ半分しか…。半分以上は救出OKだけど、後の人間はソルジャーたちも手伝って救出中』
「クリス」
 ツォンがこっちを見た。何を言いたいのかわかって、頷いて、ルーファウス以外の人間を起こしていく。
 女性陣には電話を入れた。
「…ごめん、グレン。起きてくれ」
「…ん、」
「ゴメン、起こして早々だけど行ける準備してな。場所はニブルヘイム」
 グレンはまだ少し頭が寝起きな状態のか数十秒そうしていたが、地名を聞くと動き出した。
「何か厄介ごとでも?」
「そうみたいだね…、俺はあとレノとかも起こさなきゃならないからよろしく」
 本当はすぐにだって、行きたい。
 ジルが言ってたように、火の海だったらもしかしたら彼だって…。
「クリス」
 グレンに呼ばれて振り返った。
「何?」
「ザックスさんなら、大丈夫だ。…きっと」
 一瞬、何を言われたのか脳がついていかなくて呆けていたら、グレンがぽりぽりと頬をかいた。
「あの人の限って、クリスを泣かすわけはない…と、思うんだが」
 ザックスは生きてるんだ、と言われた気がした。
「みんな知ってる。あの人の宝がもしあるとしたら、それはクリスだってことくらい」
 ツォンが振り向いた。
「クリス、ザックスは現在消火活動、および救出活動をしているそうだ」
 ジルに聞いてくれたのだろうか。ツォンが安心しろ、と視線で言っている。

「はは…」

 うっかり自分の足元が見えなくなっていたのは自分だけ。
 それを支えてくれる仲間がいることを失念していた。
「こら、レノさっさと起きて」
 大きめに呼吸を1つ。それを吸い込んだならいつものように今起こしたら間違いなく不機嫌であろうレノを揺らした。
「…クリス…? まだ寝たばかりだぞ…っと」
 寝ぼけているのだろう。時計を見れば寝て1時間。だがこんな睡眠時間しか取れないことなんて――悲しいことに――調査課にはよくあることだ。
「レノ、緊急事態。すぐに起きて、お嬢たちにだって電話したんだから今すぐに!」
「…なんだよ…」
「早く、早く! ジルからの連絡が入った。すぐにニブルヘイムに飛ぶって」
 寝ぼけたのか首に腕を回され、頭を抱かれるがレノの紅い髪を軽く引っ張る。そのままキスされそうなくらいに近づいてきた顔を手で押さえて、グレンに合図したが気まずそうに視線をそらされた。
 ちっ。
 舌打ちすると今度は誰の手も借りずにレノを引き剥がそうとした。
 …あくまで、した、だけだったが。
「…ッ、こらレノ!」
 寝ぼけてるくせにどこからそんな力が出てくるのか、エースは一向に離れる気配を見せない。それでも引き剥がそうとするとツォンがレノの頭に打撃を与えていた。
「…う…ッ」
 声がか弱く、急に力が抜けた手。少し当たり所が悪かったかもしれない、と思うも崩れ落ちたレノをまたぎこす。

 ルードは騒がしさあってか起きていた。

「ジル、少し…待っていてくれ。至急向かう」
『あァ…了解』
 彼だって、こんな返事はしたくないだろう。今ニブルヘイムにいるタークスは彼だけ。セフィロスは間違いようもなく神羅でもっとも強いソルジャーだし、その片腕のようなザックスだってセフィロスに真剣勝負で買った事はない、と悔しそうに言っていた。
 …ザックス。
「ルード、ごめんね。起きて直ぐで申し訳ないんだけど今からニブルヘイムに飛ぶ」
「…何かあったのか?」
 寡黙なこの先輩と話すことは少なくないけれど、目をまっすぐに見て話すのは初めてかもしれない。いつもは邪魔なサングラスがある。
「…う、ん。ちょっと、困った事になってるみたいでさ」
「そうか、…レノ」
 打撃を与えられてすぐのレノの頭に、またしても拳骨が落とされた。
「――…ッ!!」
「クリスが困ってるだろう、早く起きろ」
「…この、ルードの馬鹿力がァ! 頭が割れちまうかと思ったぞ、と!」
 ルードがこちらを見て肩をすくめた。
 それに笑い返して――あくまで苦笑だったが――こんな状況下でありながら寝ているルーファウスに毛布をかけてやった。そんなに冷える季節ではないが、それでも油断すれば風邪を引いてしまう程度には寒い。
 一応、これは今の所調査課だけの極秘情報であるし、迂闊に洩らせばどうなってしまうのか予想もつかなかった。

 だから――、ルーファウスは起こさない。

「ツォンさんっ!」
 ばんっと力強く開けられたドアの向こうには女の…後輩たちの姿。
 起こしたばかりのレノすらもツォンを見て、彼の一言を待っている。
 ツォンは苦しそうだった。泣きそうでウェルド主任がいない事を、社長がセフィロスを行かせたことを、ドラゴンが発生した事を悔やんでいる瞳だった。

 過去の1つの分岐でも別の道へと進んでいたなら、もしかしたらこんな事態にはなりえなかったのかもしれない。

「…我々は」
 目を閉じた。
 もう決まってしまった道を違えられない事を知って、他の道を無視するために目を瞑った。
 ツォンの声に感情はない。
「――…、これよりニブルヘイムへ向かう。ターゲットはセフィロス」
 重い、声。


「目的はターゲットの阻止、もしくは…」
 その先はなんとなく分かっていた。いつもと一緒だったから。
 ―――…もっとも通常は殲滅が命令になる。
 ツォンが重い瞼を押し開いた。



「ターゲットの処分」
 一瞬此方を向いた目が申し訳なさそうに揺れて、その後の唇が言葉を模した。

 『…すまない』


 もう、後戻りは出来そうになかった。


  *


 掌をすり抜けて、指の隙間をサラサラと流れ落ちた小さな砂。
 落ちる所まで落ちて溜まり積もった山は、ただの風のひと吹きで吹き飛んでしまった。

 もと同じだった結晶なんてこれっぽっちも知らないで。

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