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※高2の二人



 部活帰りにスーパーに寄ったらレジ横に七夕用のちゃっちな笹があって、でもまあオレも真ちゃんもこんなのに興味持つお年頃でもないし素通りしようとしたら、おしるこを買った真ちゃんが「ちょっと待つのだよ」っつって備えつけのペンと短冊を握ったもんだからオレは盛大に噴き出してしまった。

「ちょ、真ちゃん。マジで? マジでそれやる気?」
「見れば分かるだろう。何がおかしいのだよ」

 いやおかしいだろだってこれどう考えたって子ども用だぜ? 小学生でも五年や六年にもなりゃもうこんなんやんねーよ、とか言ってやりたかったけどまあそんな助言したところで真ちゃんは聞かねえだろう。突拍子もないこと真剣にやり出したりワガママ言ってオレや先輩たちを困らせたり、こいつのそういう行動には一年と少しの付き合いの間散々振り回されてきたから、さすがにもう慣れた。今じゃ何もかもすっかり笑い飛ばせるようになっちまっている。

「さっさと書くのだよ」

 どうやらオレも書かなきゃいけねえらしい。緑色した短冊に何やら書き始めた真ちゃんとテーブルを分けっこして、仕方ねえからオレもオレンジ色の短冊を手に取った。隣から、サインペンのきゅっきゅいう音がめちゃくちゃしている。
 さーて、オレはなんて書きますかね。つって、まーオレの望みなんて一つしかねえわけだけどさ。

「できたのだよ」

 インターハイ優勝、とオレが書き終えた時、ナイスなタイミングで真ちゃんが満足そうに鼻息を噴き散らした。さっすが真ちゃん、オレの相棒。

「高尾から見せろ」
「へいへい。ほらよ」

 オレの短冊を見た真ちゃんは、ふんと思いっきり嫌味に笑って眼鏡のブリッジにふれやがった。その瞬間に店内放送がこのスーパーのテーマソングに変わって、そのへんてこな音楽が真ちゃんと一緒になってオレをバカにしてるみてえでなんかすっげームカつく。

「まったく、だからお前はダメなのだ」
「はあ!? じゃあ真ちゃんはなんて書いたんだよっ」

 言って、真ちゃんの短冊をひったくる。そこにはでかでかと神経質そうな達筆で「勝利」と記されていた。

「なんだよ、オレのとそんな変わんねーじゃん」
「馬鹿め、全然違うのだよ。お前のそれではインターハイのぶんしか望めない。だがオレのならばインターハイはもちろんウィンターカップ、その先の新人戦や関東大会まで望めるのだよ」

 また出た、真ちゃんの屁理屈。でもまあその通りかもしんねー、確かにインターハイに限定するこたなかったな、とか納得しちまうオレもオレだけど。
 さっそく笹の一番高い位置に短冊をくくりつけ始めた真ちゃんの、横顔を見上げた。マジだ、マジ顔そのもの。ほんと真ちゃんは、どんなにアホみてーなことにも人事を尽くしちゃっている。

「でもさー、こんなん書かなくたってよくね? 天に願わなくったってオレたち充分頑張ってんだし」
「ふん、馬鹿め」

 他の短冊たちより三十センチは上にぶら下げた真ちゃんは、それを見上げながらオレを罵った(つーかまたバカって言いやがった)。

「天に願うことだって尽くせる人事の一つだ。人事は尽くしきってこその人事なのだよ」
「……へーへー、さいですか」

 真ちゃんの短冊の隣に、オレのも吊るした。「仮面ライダーになりたい」とか「テストで満点取れますように」とか「Wiiがほしい」とか、ヘタクソな字でカワイイ願い事が書かれた短冊たちの頭上に君臨する「勝利」は、やっぱものすげえ異彩を放ってやがる。

「――今度こそ、誠凛と洛山に勝つのだよ」

「勝利」を睨むように見つめて、真ちゃんがつぶやいた。それを聞くと、さっきまでげんなりだったオレも自然にやけちまって、「おうよ」と答える。

「海常にも桐皇にも陽泉にも正邦にも、他のやつらにもな」
「ふ、当然なのだよ。秀徳は人事を尽くしている」
「んま、人事尽くしてんのはどこも一緒だろうけどな」
「……一番人事を尽くしているのは、秀徳なのだよ」

 勝つのはオレたちだ。ニヒルな笑みの真ちゃんの言葉は、悔しいけどやっぱテンションあがっちまうもんだ。
 勝つのは、「オレたち」。勝つのは「秀徳」。

「んじゃ、冬よりもっと強くなってるだろうあいつらにビビんねえようにもっと練習しなくちゃなー。でねーとまた真ちゃんがちびっちまうし」
「誰がいつちびったのだよ!」
「えー、赤司にちびって火神にちびって、ついでに宮地さん兄弟にもちびってたじゃん?」
「だからちびってなどいない!」

 つばを飛ばさんばかりにムキになっちまっている、こんな真ちゃんを引き出せるのはきっとオレだけだ。なんてったってオレ、相棒だし。
 今日が誕生日だからってオレが奢ってやったおしるこの缶を握りしめる、テーピングに包まれた真ちゃんの左手を見下ろしてオレは決める。じゃーオレ、もっと人事尽くしちゃいますかね。ビビリでちびりな相棒の――エース様の、ために。


up:2017.07.07