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※ドラマCDネタ



 真っ白にまぶしい桃っちの、デコルテを見ながらオレは思う。なあオレ、本当にこのままでいいんスか?

「あーおいしかった。さっすがきーちゃん、素敵なお店知ってるねー!」

 くるくると、今にも踊り出しそうなほどの軽い足取りで桃っちが言う。その隣では青峰っちが、大あくびしながら首の裏を掻いていた。

「いーえ。黒子っちとのデートに使うお店なんスから、ちゃーんといいとこ紹介してあげなきゃね」
「ほんとありがときーちゃん。誘う自信なくなっちゃってたけど、なんか頑張れそうな気がしてきたよ」

 爽やかでラブリーな、制汗剤のCMみたいな笑顔で桃っちがオレを見上げる。そういう表情はオレの十八番なんスけどね、なんて思いながら、「よかったっス」とオレも笑って返した。
 今日は桃っち(と、付き添いで青峰っち)に、デートにおすすめな食事スポットを教えてあげていた。この間一緒にデートプランを考えた時はカレー屋を紹介しちゃっていたから、辛いものが苦手な桃っちを改めて別のお店に連れていってあげたのだ。サンドウィッチとかガレットとかが美味しい軽食屋を教えてあげたら、桃っちはすっごく気に入ってくれたみたいで、オレもちょっと安心した。
 ……まあ、それはやっぱり「ちょっと」で、完全に、ではないんスけど。

「うわー、これ可愛い!」

 駅前の、ショーウィンドウのあるお店の前で桃っちが立ち止まった。身を乗り出して中を覗き込んでる桃っちの隣に並んで、青峰っちは「あー?」とめんどくさそうにうなっている。その二つの背中は、オレの腹の底をけばけばさせた。
 ライバルは、二人。
 一人は、当然ながら黒子っち。言わずもがな桃っちの好きな人で、今日もこの間も、桃っちのデートプランは全部黒子っちをお相手に想定して練られていた。黒子っちが桃っちをどう見てるのかはよく分かんないけど、そんなに悪く思ってはいないはず。それは、絶対。
 んで、もう一人。ある意味こっちの方が黒子っちより厄介かもしれない。それが今、桃っちに脇腹を突っつかれている青峰っちだ。桃っちの幼なじみで、いつだって桃っちのそばにいる人。今日だって、オレは桃っちだけに声をかけたはずなのに、この前と同じく、桃っちが気を使ってくれちゃって青峰っちを連れてきた。「めんどくさいオーラ」をむんむんに出しつつも結局最後まで桃っちに付き合ってあげている青峰っちは、ほんとなんつーか、役得?

「なあに見てんスかー?」

 桃っちの右肩と青峰っちの左肩に手をかけて、二人の間に割り込むようにして会話に加わった。これだよ、と桃っちが指し示したのは、ハート形したちっちゃいオルゴール。

「『星に願いを』が流れるんだって」

 目の中を、それこそ星があるんじゃないかってくらいきらきらさせてオルゴールを見つめている桃っちの、ワンピースの裾がオレのふくらはぎをかすめた。シフォン地のマキシワンピは、オレがこの前選んであげたやつだ。「ヒールある靴と合わせるんだし一回その格好で街歩いといた方がいいんじゃないスかね?」つって今日着てきてもらったけど、そんなのはもちろん口実だった。ただオレが、自分が選んであげた服着て笑っている桃っちを見たかっただけ、黒子っちより、誰より先に。まあそんな裏作戦も、青峰っちのせいで台なしっスけど。

「ロマンチックだよねえ。あ、テツくんとオルゴールの博物館とか行けたら楽しいかも!」

 ほっぺたに手を当ててピンク色の溜息を吐いた桃っちの、頭の中を独占してるのは黒子っち。

「はっ。ロマンチック〜なんてキャラかよ、オメーが」
「むう。うるさいなあ、青峰くんには関係ないでしょ」

 誰がどう見たって綺麗で可愛い桃っちを、こんなふうにからかえるのはたった一人、青峰っち。結局どこにも、隙なんてない。
 ……でも、そんなことで諦めるような物分かりいい人間じゃねっスよ、オレは。
 風が吹いて、桃っちの髪先を持ち上げた。くしゅん、と小さく、桃っちがくしゃみをこぼす。秋のにおいが混じり始めた夕方の空気は、オフショルトップスからさらされた桃っちの体を冷やしたみたいだった。それを横目に見た青峰っちが、はあーっと、あくまで「めんどくせー」って態度を崩さないまま半袖の羽織ものを脱いで――でもそれは、桃っちの手に渡らない。オレがそれより一足早く、羽織っていた長袖のデニムシャツを脱いで、桃っちの肩にかけたから。

「桃っち、これ着てていいよ」

 振り返った桃っちは遠慮するようなそぶりを見せたけど、オレがにっこり笑ったら「ありがとう」って言ってちゃんと着てくれた。横の青峰っちはきょとんとして、それから脱ぎかけていたシャツを羽織り直す。
 別にずるくない。だって半袖より長袖の方が、あったかいに決まってんスから。
 また駅に向かって歩き出した桃っちの後ろで、オレは青峰っちの腕をつついた。

「残念だったっスねー、青峰っち」
「あ? 何がだよ」

 むふん、と含み笑いで青峰っちにちょっかいをかけたら、びっくりするくらい不機嫌そうな声ですごまれた。でもこの人たぶん、自分がなんでイライラしてんのか、全然分かってないと思う。無自覚で美味しいとこ取りしようとするんスからほんと卑怯っス、青峰っちも、黒子っちだって。まあオレがそばにいる限り、そんな無自覚、通用しませんけどね。

「ね、あとで桃っちに言っといてほしいっス。今度オレに会う時は、モデルに対する気遣いなんていらないっスーって」

 それを聞いた青峰っちは、両手をジーパンのポケットに突っ込んで、はん、と鼻で笑った。

「今度、があるならな」

 ……なんかものすごい宣戦布告をされた気がするけど、負けねっスよオレは。黒子っちにも青峰っちにも、誰にも。


up:2018.03.30