ss&log | ナノ

※雰囲気だけの文章です。黄瀬・黒子ともに荒んでます



「桃井さんは君を好きなわけではないです」

 部活のない放課後、黒子っちにマジバに呼び出されて「いやーついに黒子っちもオレとあつ〜い親友のパトスを交わす気になったんスかね」なーんて浮かれながら行ったら、いつも通りにバニラシェイクを飲んでいた黒子っちがいつも通りの無表情で、そう言った。

「桃井さんが……今もボクを好いてくださっているのか。それは分からないですけど、でも、これだけは断言できます。彼女は黄瀬くんを好きなわけじゃない」

 肩透かし、ってやつを食らった気分だった。親友のパトスどころか、敵意剥き出しで黒子っちはオレを睨んでいる。なんの注文もしないままでまっすぐに席に着いちゃったことを、今更だけど後悔した。ジュースの一つでも注文しとけばよかった。

「それを言うためにわざわざ呼び出したんスか?」

 頬杖をついて、黒子っちの学ランの、水色のラインを眺めた。黒子っちの白い指がシェイクの容器に少し、めり込んでいる。
 オレと桃っちは付き合ってる……んだと思う。前に「一緒にいてくれる?」って訊いたら、うん、って答えてくれたから、たぶんそうだ。キスとか手を繋ぐとか、そういうことは全然してないから、それ以前の関係とあんまり変わりないけど。桃っちがオレだけのものになったってこと、以外は。
 でも黒子っちは、それが気に食わないらしい。

「桃っちのこと、好きなの?」

 笑顔を作って、ちょっと身を乗り出しながら質問してみると、黒子っちはしばらくオレとじっと目を合わせてから下を向いてうなずいた。ふうん、とオレは、興味ないです、って響き丸出しの声を出す。

「でも黒子っちがどう思ってたって、桃っちがオレのコイビトって事実は変わんないっスよね」
「ですから、言ってるんです。もう桃井さんを放してあげてください。君に縛りつけないでください」

 そこで一度息継ぎをして、黒子っちは続けた。

「桃井さんは黄瀬くんのことをかわいそうだと思っているだけです。君が、そう思うように仕向けた。そうすれば、桃井さんは自分のそばにいてくれるって、知っていたから」

 さすが黒子っちーよく見てるっスね、って茶化してみたけど無視された。だからオレも諦めて、でかい溜息を吐く。

「だったらなんスか?」

 投げやりに吐き出したら、黒子っちの目つきが鋭くなった。

「知ってるっスよそんなこと、黒子っちに言われるまでもなく。桃っちがオレのこと好きじゃないってことだって、かわいそうだから一緒にいてあげよーって、哀れみでオレと付き合ってることだって」

 けど、とオレは、ソファの背もたれに寄りかかった。

「オレだって別に、桃っちを好きじゃない」

 言った、次の瞬間には黒子っちが叫んでいた。

「どうして君はそうやって!」

 マジバの店内に、黒子っちの声だけが通る。出どころを見つけられずにきょろきょろとしている周りの人たちが面白くて、オレは黒子っちに唇を寄せて囁いた。

「ちょっとちょっと、大声出しすぎっスよ。みんなびっくりしてる」
「ふざけるな」

 うつむいた黒子っちが、テーブルの上でこぶしを握りしめてうなった。それでオレも、仕方なく本題に戻る。

「好きじゃなきゃ一緒にいちゃダメ、なんてこと、ないでしょ」

 顔をあげない黒子っちに向かって、意見をぶつけた。

「確かにオレは桃っちを好きじゃないけど、それは女の子としてって意味で、人としてはちゃんと好きっスよ。尊敬もしてる。桃っちのこと、雑に扱ってるつもりなんてさらさらない」

 唇を噛んでいるらしい黒子っちは、相槌も挟まない。

「好きなわけじゃない、けど桃っちのこと、誰にも渡したくない。だからオレのもんになってくれるようにって頑張って、桃っちはそれに応えてくれた。それだけのことっスよ」
「でも、」
「桃っちの意思でもあるよ。強制したわけじゃない」

 そう教えてあげたら、黒子っちはぴくんと肩を震わせた。それからむりやり絞り出すようにして、言う。

「……君は、ずるい」
「黒子っちは良い子っスね、ほんと」

 桃っちに直接迫らないでこうしてオレの方を説得に来たのも、全ては桃っちをむやみに困らせないためなんだろう、きっと。黒子っちはいっつも優しくて、思いやりがあって、まっすぐだ。
 でもさ、とオレは、窓の外に目をやる。自分のことなのか黒子っちのことなのか分かんないけど、嘲り笑うようにして。

「ずるくて汚くて最低なやつが、結局最後には勝ったりするんだよ」

 黒子っちが動けば、桃っちはたぶん揺らいじゃう。オレのことだけを考えては、くれなくなる。でも黒子っちはそれをできないんスよ、だってアンタは「良い子」だから。強引に奪うとかそういうこと、できない人だから。
 ……って、思ってたら、黒子っちがつぶやいた。

「早く君と、別れてしまえばいいのに」

 ずっとうつむいたままの黒子っちに向かって、オレは静かに、苦笑してみせた。

「それぐらいでなくっちゃ、張り合いがないっス」


up:2017.12.17