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「……。…素敵な楓ですね」

「そうじゃなくてね」


少し考えたあとニコリと笑ってとぼける秀晶に、もう一度今度は平手で頭をスパァンとひっぱたく。
痛いですよと苦情を言われるが、痛くしているのだから当然だろう。
……というか学習しろ。


「何で足袋履いたまんま庭に出るわけ?」

「草鞋がなかったので」

「我慢してくんない?」

「つい」


えへへ、なんて効果音がつきそうなくらい明るい笑みを浮かべる秀晶にさすがの佐助も殺意を抱き、ひとまず胸ぐらを掴んで顔を寄せ、口角は上げるものの笑っていない目でひたりと見据える。


「いい加減にしないと、いくら大将の客人だからって容赦しないよ」


一瞬、おや? とでも言うような顔をするが、秀晶はすぐに片方の口端をあげフッと笑う。


「信玄公にお叱りをされてしまいますよ。それでも良いのですか?」

「おあいにくさま、俺様結構信用されてるんでね。そりゃ殺すのは最悪の場合だけど、痕残らないように痛め付けるくらい何でもないよ」


不敵な笑みに敵意の笑みを返し、くつくつとお互い喉を鳴らす。

おちゃらけた雰囲気はどこへ行った事やらと意識の隅で思えば、それを狙ったように秀晶の手が伸びてきた。
お見事と賞賛したくなるような秀晶の隙を突いた行動に、油断していた佐助は反応が遅れてしまう。


「……? 何やってんのさ?」

「いえ何となく」


秀晶の手はなでなでと、佐助の頭で前へ後ろへ移動していた。
油断していたうえ予想していなかったその行動に――まぁ最初からこの人のやる事なんて読めないけど――拍子抜けした佐助は半目で目の前の長髪を眺める。

ふふふと笑う秀晶は「そうですねぇ」と笑いつつも手を動かすのを止めない。


「どうぞ手加減せず、私が行き過ぎた事をしたら止めてください」

「はぁ?」

「主君より保身を大切にしたり、個人的な動きだけをする人はあまり好きません。あなたの仕事は主君を守り抜く事です。その為ならどんな事でもやれる佐助さんの信条は、かなり好感を持てます」


よしよしと撫でる秀晶の手と言葉に、じわりじわり毒気が抜かれて、同時に胸ぐらを掴んでいた手の力も抜けていく。
はぁ〜…、なんて全身の空気の抜けるようなため息を吐いて、なんだかなぁと手を離した。
本当にこの人は何がやりたいんだから分からない。
上手く丸め込まれた様な気もするが。



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