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ところ変わって、もうこの人めんどくさいと心底思う佐助と、例にもよって何が楽しいのかうふうふと笑う秀晶は仲良く廊下を歩いていた。
とても仲良く、手を繋ぎながら。

通りすがる人が一瞬ギョッとした顔をするのは、絶対に気のせいではない事を佐助は分かっていた。
今向かっているのは広間なのだが、行き方は至極単純で、秀晶の頭ならば迷わず行ける事も気付いていた。
だがなぜそうしないのかというと、また時間を遡ってしまう。

佐助が選んだ着物を気に入ったらしい秀晶が袖を掴み、ペンギンのようにぱたぱたと動かしながら小踊りしているのを死んだ魚の眼で眺めていた佐助だったが、屋根をかすかに引っ掻く音に気付く。
暗に呼び出しを知らせる音だ。
呼ばれた場所も音と回数で決められているのだが、今回は広間に呼び出されたようで、つまりは秀晶を連れてこいという事なのだろう。
言われずとも察する事のできる佐助は以前も言った通り、非常に優秀である。
そしてこれも同じく、見ている者は居ないのだった。


「お楽しみのとこ悪いんだけど、大将から呼び出しかかったよ」

「おやおや」

残念そうに振り上げていた手を下げる秀晶だが、その手には小さなお盆が握り締められていた。
あれを扇代わりにして踊るつもりだったのか。


「どっから出したのか知んないけどさぁ、元の場所に戻してよ?」

「残念ですねぇ、よく飛びそうだと思ったのですが…」

「投げる気だったの!?」

「えぇ、佐助さんの方に」

「しかも俺様かよ!!」


だってあなたの鉢金の頭突き、痛かったんですよ。
なんて言いながら自分の額を擦る秀晶を軽く睨み付けつつ、お盆を取り上げた。

こんこんと叩けば木の良い音がして、それが木本来の硬さを想像させる。
これを投げられたなら、…まぁ避けられただろうが、もし当たったら。
たんこぶや青アザで済めばいいが下手をしたら流血騒ぎだ。
本当に油断出来ない。


「……ハァ…。大将が呼んでるから、広間の方に先に行っててくんない? 場所は来た道戻って、旦那達と話した部屋の隣だから」

「最初の部屋の隣ですね、分かりました」


フフフフとこちらを見て笑いながら部屋を出ていく秀晶を見送り、障子が閉じられたあと、佐助はバタリと畳に倒れた。
理由はもちろん、秀晶のせいだった。


「すっごい腹立つ……!!」


出ていく前のあの笑みがこれ以上ない程に腹が立つ顔だったのだ。




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