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――なんていうのは、今は過去の話で。


「佐助さん、これはどうです?」

「あ〜……、…いーんじゃないの…?」


どうでも。

なんて最後に続いてしまいそうな、やる気の無い返事を返す佐助。
それに秀晶は「えぇ…そうですか? でもぉ…」なんて少々不服そうな声で迷い、また脱ぎだす。
その様子を見て、佐助は勘弁してくれよとこれ見よがしに盛大なため息をつくのだった。

だが佐助の今の反応は仕方の無い事でもある。
それというのも、かれこれ二時間はこのやり取りを繰り返しているのだ。

いくら佐助だって、最初の時はまだこんな愛想の無い返答は返さなかった。
これはどうかと聞かれれば、これこれこうの方が良いんじゃないかとか。
この色と柄は今城下で流行っているだとか。
それはそれはショップ店員も真っ青な、忍ばない忍の接客スタイルを繰り出してくれていた。
…要するに、至極真面目に返していたのだ。

だが相手が悪かった。
敏腕の忍店員とはいえ、客が秀晶というクレーマーなら上手くいくはずがない。
いや、クレーマーより手強い、中途半端にファッション知識を手に入れてしまった粋がり女子とも言うべきか。
相手に悪気が無いものだから尚更始末が悪いのだ。

勧めれば「好きじゃない」と言い、流行りを言えば「自分に合わない」と言い、かといって似合うと言えば冒頭のセリフを言う。
投げやりになるのもしょうがない。
どうにも彼女の買い物に付き合った彼氏のような状況になってきたのだが、遠い目をする佐助を見ながら秀晶はくっくっくっ、と笑みをたたえる。


「佐助さん」

「……………なに?」

「いっそのこと、佐助さんが選んでくれませんかねぇ? 私が口を出すとどうやら決まらないようだ」


ひと目見て、確実に「露出狂だ」と言える半裸状態で秀晶はそう言った。

何を今さら…。
さっきまであんなに不満そうにしていたではないか、というような目を送ればもう絶対に言わないと言い、お願いしますとお得意の困ったような笑顔で言われてしまっては断るわけにもいかない。

仕方なく選んだのは白茶色の着物に海松色の帯で、完全に目に入ったものだったが選択は間違えていなかったらしく、見事似合うのは佐助が凄いのか秀晶が凄いのか。

「佐助さん色に、染まっちゃいましたね、私」

「……」


冗談で言ったであろうセリフに、本気で鳥肌がたった佐助だった。


 


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