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「痛いじゃないですか」

「自業自得だから」

「うふふ、酷いですねぇ」


満面の笑みをたたえ、くねくねと体を踊らせる秀晶を置いて、佐助は部屋を出ていく。
もちろん服を取りにいくためではあったが、何だか秀晶と一緒の部屋に二人きりで居ると…こう…、秀晶のあの喋り方や仕草、癖までもが感染してきそうで怖かったからでもあった。
それとアレをまともに相手にしていたら殺意も湧きそうになる。

はぁ、とため息をつき、佐助は衣装箪笥から着物を取り出しながら、意図的に紫系統の色を避けて秀晶の着ている今の服から推測した好みであろう色と模様の着物を探し出していた。
短時間で相手の嗜好等を観察して見抜けるあたり、佐助がどれだけ有能であるか窺えるのだが…、残念ながら今は誰も見ていないのだった。

畳紙にくるまれた幾つかの着物を胸に抱き、足早に秀晶の居る部屋を目指す。
急ぐ理由は――秀晶の事だ、何をしているか分からない――というのが佐助の心にあったからだが、意外にも部屋に戻ってみればキチンと部屋の中で正座し、待っている秀晶がいた。

物思いにでも耽っているのか、目を閉じて姿勢を正しくしている姿は凛としていて、たしかに一族の当主と呼べるべきものがある。


(だけど行動と言動が台無しにするんだよなァ…)


佐助は一瞬浮かべた苦笑いを消し、部屋の中へと降り立つ。
それに気付いたらしい秀晶は目を開け、佐助の方を見た。


「適当に持って来ちゃったけど、良い?」

「構いません、よほど奇抜な物でなければ」


奇抜なアンタに言われても…と思った佐助だったが、アハハと笑ってない目で乾いた笑いを返すだけにしておいた。

カサカサと畳紙を外し、ひとまず全ての着物を見てから秀晶はフフフと笑い始める。
佐助は「またかよ」なんて思いながら見なかった事にしていたが、秀晶に佐助さん、と呼ばれてしまえば反応せざるを得ない。


「何? 嫌なのあったら取り替えてくるけど、」

「佐助さんは凄いですねぇ」

「は?」

「全部、私の好みですよ」


ありがとうございます、と頭を下げる秀晶に面食らい、驚いた表情で固まる佐助。
そんなふうに佐助をした当の本人は、さてどれを着ようかなんてワクワクドキドキしていて。

佐助は頬を掻きながら、「あっそ」と。

隠しきれない笑みを浮かべながらそう言うのだった。


 


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