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だいぶ噛み砕き、柔らかくした答えを秀晶は言う。

本当は日常生活において和服なんて物はそうそう見る事はなく、今の若い子達の中には和服にしろ浴衣にしろ「着たことが無い」という人も居るという事実は、和服を普段着として着ている人達にとってどれほど寂しい事なのだろう。
自分達の必要して、あって当たり前の存在が未来では必要とされていないというのは、例え対象が物だったとしても何だか寂しい。

秀晶はお家柄、幼少期から和服や畳などと触れ合って育った。
何年も前に亡くなった祖母もまだ健在で、子供の頃に女の子の格好をさせると丈夫に育つという言い伝えを秀晶に実行した人物だ。
いや、周りは反対したが勝手に実行したから、正しくは実行犯と言ったほうが正しいかもしれない。
祖母は秀晶と同じく銀の髪をしており、家族からは生き写しと言われるほど顔もそっくりだった。
性格も似ているらしく、我が道を行く人だったという。

そんな祖母と祖父は仲が良いというか、厳格で無口な祖父だが祖母にだけは勝てず、いつもペースを狂わされていた。
だがいつも一緒だった。
二人で和服を着て散歩する様はそこだけタイムスリップしたように、ゆっくりした時間が流れていて、子供ながら「カッコイイ、羨ましい」と思ったものだ。
だから秀晶自身、よく和服を着ていたし、たしなみとしても作法を習った。
やはり毎日仕事に行くのに、和服という訳にはいかなかったけれど。


そしてタイムトリップした今、和服を着る事は当たり前。
なんと嬉しい環境だろうか。
住む所は城、整えられた美しい庭園、井草の良い匂いのする畳、和好きの秀晶には楽園だ。


「んふふふふふ、アハハハハ」


いきなりくるくると踊り、嬉しそうにしだした秀晶に、佐助は「何コレ超キモい」と距離を取る。

一体何がそんなに嬉しいのだろうか、というか本当にいきなり何かやりだすのを止めて欲しい、心臓がもたない。
大の男が笑いながら踊りだしたら誰だって驚くし、引く。
あーもう面倒なの拾って来ちゃったなあ、と少々自分の行動を後悔していればガシィッ、と肩を掴まれびくりと跳ねた。


「な、ななな何!!?」

「佐助さん」


ばっくんばっくんと心臓が暴れている。
もし心臓が一人で動けて喋れたとしたら、たぶん叫びながら逃げている事だろう。

そんな佐助に、秀晶は至極真面目な顔で言った。


「早く服を持ってきて下さい」


佐助はその後、頭突きを喰らわしたという。


 


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