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「あまり虐めてやるな。お主が気になるだけの事よ」

「私もさすがに気になります」

「あれしきの事で逃げるとは…精進が足りぬでござ、」

「旦那、口の周り拭いてから言って」


飛んでいる虫でも激突すれば、捕獲出来てしまいそうなぐらいに口の周りをベタベタにしている幸村に佐助は、こうなるだろうと用意していた濡らした手拭いを幸村に差し出す。
無言でそれを受け取ってゴシゴシと拭うあたり、ベタベタになっている事は自分でも気付いていたようだ。
ていうかね、旦那。
あれしきの事って言うけど、俺様でも逃げるよ?


「さて、食べ終えた事ですし…これからどうしましょうか?」

「ふぅむ…」


食べ終えて用済みになったカップを佐助が片付けていくなか、信玄は肘をついてそこに顎を乗せる。
秀晶の事は既に抱え込むと決めているし、なんなら少しくらいならば信玄自身では出来ないが他の者に任し城の中を案内しても構わない。
が、構わないのは既に秀晶の姿を見て、なおかつ事情を知っている者達だけだ。
もしこのまま城の中を信玄や幸村、佐助無しで案内させたとなれば城中が大パニックになるのは目に見えている。

まずは秀晶を紹介し、慣れさせなければならない。
だが今日はもう秀晶の正体やどういう事かを聞くのに大分時間を使ってしまい、通常の執務が滞ってしまっているのだ。
まぁ溜めていた訳ではないのだから、今からやればよっぽどの事が無い限り夕餉には間に合うだろう。
紹介するのは、明日でも構わない。


「まずは、お主の部屋を決めねばな」

「物置で充分です」

「いやいや、一応こっちの立場もあるから」

「では屋根裏で」

「忍の仕事の邪魔したいの?」


秀晶が屋根裏にいる事だけはお断りだ。
というか、一体どの部屋の屋根裏に居るつもりなんだ。

そうですねぇ…、と首を傾げる秀晶に、なんとなく嫌な予感がする佐助は秀晶から目を離さぬよう、じっと見つめ続ける。


「佐助さんの部屋、」

「絶っ対、嫌!」

「あぁ…冷たいですねぇ」


まだ最後まで言ってませんのに、と軽く海老反りになって笑い出す秀晶に、絶対無理だと思う。
一緒の部屋になったりしたら、本当にストレスで禿げてしまいそうだ。


「お館様! 某の隣の部屋が開いておりますれば、秀晶殿の居室をそこにしては…」

「ふむ、そこならば奇襲があろうと、お主が行けるか」

 


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