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「美味しいですねぇ」

「誠に美味でござる!」

「たまには甘い物も良いものじゃ」

「………」


袋の中に入っていたプラスチックのスプーンでアイスを口に運ぶ三人を、佐助は眺める。

ただその目ははっきり言って生気が無いので、第三者から見ればかなり遠い目をしているため、正しく言うと眺めているとは言えないのかもしれない。


ガチガチに凍った氷の塊四つを、中のアイス本体を傷付けないよう丁寧に砕き、信玄達の前に差し出す。
既に毒見も何も幸村が飛び散った中身を舐めてしまっていたし、佐助自身、もう秀晶が暗殺をするような人物ではなく、そういう意味で警戒するに値しない人物である事は分かっていた。

……それらの警戒心を捨ててでも警戒すべきは、秀晶の行動と言動だ。
何かする訳ではなくとも、何かしでかす秀晶は恐ろしい。

プンプンと甘い匂いを漂わせる三人から少し距離をとりながら、佐助はそう思った。
四つあるのだからと、一つ差し出されたアイスを受け取らなかったのは、ただ単にこの強烈な甘い匂いが忍の自分に移ると厄介だからというだけで、別段甘い物が嫌いという訳ではない。
だが一応念のため、と剥がされたビニールの蓋に付いたアイスを舐めてみれば、人工的な甘さと香料に鋭い嗅覚は反応し、好きではないと結論付けられた。
やはり、自然な物。
例えば果物本来の甘さなどの方が好みな佐助は、部屋の中に充満しつつある甘い香りにバレない程度に嗚咽を洩らした。
けれどどうしてか、あんなに他人の事を気にせず自由過ぎる程だった人物がそれに気付く。


「少々、窓を開けましょうか」


質問しているようで、やんわりと口を出させないような口調で立ち上がり、障子も仕切りも開けていく。
そして団子になって覗いていたあの場所も開け放ち、いきなり開けられ後ろに後ずさっていた家臣らに、にこりと笑いかけた。


「良いご趣味ですねぇ…、ご一緒しても?」

「…っ!!」

「くくく…」


その言葉に蜘蛛の子を散らすように逃げていく家臣達を見て、信玄は喉で笑い出す。
「まぁ逃げ出すでしょ」なんて思いながら、天井と床下でも逃げて行く気配を感じつつ佐助は苦笑した。

逃げられちゃいましたとおどけて戻ってくる秀晶だが、それでも正しく気配を感じ、周りをなんだかんだよく見、それを実行に移せる事などの行動は、聡いと言えるだろう。
…ただひたすらに不気味なだけで。


 


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