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そう秀晶が言うとしょんぼりとする幸村の頭には、今までに何度か見た犬耳のようなものが見え、今はそれがペタリと垂れている。
何だか可愛らしい。
よしよしと頭を撫でてやれば最初は不思議な顔をしたものの、自然としっぽが千切れんばかりに振れているのが見えた。

……まぁ、ただの目の錯覚だが。

それを和やかな雰囲気で眺めていた信玄をよそに、佐助は第二の主と言うべき幸村がおよそ得体の知れない者に触られているのだから気が気ではない。
秀晶が別の次元というか、時代の人物だという事は、佐助もさすがにあれだけの未来道具を見せられたら納得せざるを得ない。
が、秀晶自身を信用出来るかと聞かれれば、少々悩む所だ。

戦闘力はほぼゼロに近く、戦に連れて行けばマイナスになりかねない貧弱具合とマイペースさ。
秀晶の攻撃方法と言えば物理的攻撃より精神的攻撃の方がダメージが大きく、気付けば誰かの心に深刻なトラウマを作り出しそうな事を除けばそれほど実害は…無いとは言えない。
むしろその精神攻撃が最もえげつないのだ。
おまけに「何か怖い」とくれば、信用しろという方が無理だ。


「秀晶の旦那〜…? ちょーっと旦那から離れてくれない?」

「おや佐助さん、あなたも撫でて欲しいのですか?」

「いや欲しくない」

「では旦那さんを私が撫でたから嫉妬しているのですね」

「だいぶ違う」

「そういえばお二人は祝言は挙げたのですか?」

「アハー、何言ってるのか全っ然分かんねぇやー! ごめん話戻そう? 俺様が悪かったから話戻そう?」


どんどんと元の話から離れていく会話の内容に、思わず笑うしかなくて笑い飛ばしたあと真顔で説得に試みる。
半刻前から全く会話が進んでいない気しかしない。

なぜ会話が進まない、話している量は多いはずなのに。


「おや佐助さんは謝るような事をしたのですか? いけない子ですねぇ」

「ああもう分かってるよコレだよこの所為だよ」


秀晶が話を脱線させまくるからだ。

両手で顔を覆い黙り込んだ佐助を、天井と床下と木の上の忍に、そして廊下で団子になって覗いていた家臣達は思わず目頭が熱くなった。
不憫すぎる。

ふぅーっと大きなため息を吐いて復活した佐助に、家臣達が頑張れとエールを送る中、あの氷漬けのアイスは佐助の目の前に現れた。


「割って下さい」


笑顔でそれを差し出す秀晶に、佐助は土気色の顔色をしながら、それはそれは良い笑顔で受け取ったという。


 


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