34「これはこれは…面白いですねぇ」 満足そうに、ほくほくとした笑顔を見せる信玄と幸村、そして照れ臭そうでいて酷く困惑した様子の一人の武将を尻目にそう言って、秀晶は目の前の物体を持ち上げる。 持ち上げられたものは、ガッチンガッチンに凍らせられたアイスで、おまけに厚さ五センチくらいの氷に覆われていた。 ずっしりと重いそれは、最早アイスを凍らせるというよりアイスを氷漬けにすると言った方が正しいというか、本来のアイスのあるべき姿とはかけ離れた姿ではあるが、面白いので今は無視しておこう。 「……それより、それどうすんの?」 食べ物なんでしょ? と引きつった顔で指差して指摘する佐助に、しまった! という顔をする二人を見て秀晶は「黙っておこうと思っていたのに…」という感情が籠った目で顎を上げ眉にシワを寄せ八の字にしたうえ、口をヘの字に曲げて佐助を見下ろす。 舌打ち付きで。 「え、ちょ、何!? 俺様何かしたァ!!?」 「いいえ? 何も?」 「そのわりには声と顔が怖い!!」 いつもなら桃色のオーラに花と蝶のような羽を生やした女を飛ばしているが、今回ばかりは何かが極限まで腐った色のオーラに、ラフレシアのような花がブファと悪臭を飛ばし、同じような模様の丸くて緑の唇に牙が生えた花らしきものが涎を垂らしながらこちらを見ているのしか居ない。 しかも異様にこちらを狙っている。 「ねぇ秀晶の旦那!! 何か変なの見てる! すっごい見てる!!」 「佐助さんなんて、フラワーに食べられてしまえば良いのですよ…」 「良くないから!! 絶対良くない! ていうか“ふらわぁ”って何!?」 愛用している武器を構え、後退りする佐助にじりじりと迫っていた秀晶だが、どうやら佐助の言った「ふらわぁ」の発音がツボに入ったらしく、ンフフフフフなんて笑いながら自らを抱き締めていた。 そして一緒に、後ろの牙が生えた花らしきものもくねくねと踊っている。 ひとしきり悶え楽しんで佐助がそろそろ泣きそうになった頃、可愛かったから許してあげますと秀晶はアイスの方へと戻って行ったのだが、あの花らしきものは最後まで名残惜しそうに佐助を見つつ、消えていった。 確実に、自分を食べる気だったと後に佐助は語った。 「さて、冗談はともかくどうやって食べましょうか」 「では其が気合いの炎で溶かして…」 「また中身も溶けますねぇ」 (34/48) 前へ* 目次 #次へ栞を挟む |