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慰めようかと佐助が手を伸ばした瞬間、いきなり秀晶が頭だけ動かし天井を仰ぐものだからびっくりして手を引っ込めてしまう。
そしてそのままゆらゆらと首を揺らし、天井のどこかを見ている。

一体彼は何を視ているのかという事に、その場に居た佐助と幸村と信玄、木の上・床下・天井裏の忍が頭の中を支配される。
中でも一番恐ろしい思いをしたのは、正面から秀晶の顔を見てしまった天井裏の忍だが。

しばらくゆらゆらと揺らした後ぐりんっといきなり振り向くものだから、危うく近くに居た佐助は悲鳴をあげるところだった。
そしてそのまま「佐助さん…!!」と肩を鷲掴み、本気でちょっと叫びそうになった佐助だったが、次のセリフで一気に目を細める事になる。


「私、アイス忘れてきました…!」

「……はぁ?」


あいす? 何ソレ。

聞き慣れない横文字に訳の分からない秀晶の気迫。
何だかやるせない気持ちの佐助を置いて、秀晶は「あぁタオルも忘れてきましたどうしましょうどうしましょうどうします?」なんて一人で盛り上がっている。


「秀晶殿、あいすとは何でござるか?」

「真田殿、甘味がお好きなのですか?」

「質問に質問で答えてどーすんの」


幸村の質問に質問で返した秀晶に、未だ肩を鷲掴みにされたままの佐助が言う。
というか、顔が近いから放して欲しいと思うのだが、言った所で放してくれるかどうか疑問だ。

佐助の言葉に「おや、そういえばそうですね」と相槌を打つ秀晶はやはり放さず、そのままの状態で幸村と信玄にアイスの説明を始める秀晶に佐助はやっぱりね、と遠い目をするのだった。


「アイスというのは私の時代で言う氷菓子でして。 南蛮伝来の冷たくて甘い物なのですよ」

「なんと!」

「ほほぅ」

「私、それを買いに行った際にこちらに来てしまいましてねぇ…一緒にそのアイスも持ってきてしまいましたので、妹がもう良いから私にとくれたのです」

「なるほど」

「それを佐助さんと出会った場所に置いてきてしまいまして」

「佐助ぇ!!!」


嫌な予感。
と秀晶と上司達の会話を聞いていた佐助は、予測する命令に顔をひきつらせる。


「「取って参れ!!」」


幸村と信玄の綺麗なハモりの後「ですって、佐助さん」と何を考えてるんだか分からない何も考えて無いんだか笑顔を間近で向ける秀晶に、佐助は両手で顔を覆った。


 


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