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「なんですか、お言いなさい。 私に出来ることなら何でもいたしますよ」

『うん、あのね』


まだ願いを言わない妹に、秀晶は向こうに見えるはずもないが首を傾げてしまう。
思ったことは何でも言うタイプの妹が口ごもるのは、あまり多くない。

大抵ズバッとザクッと言い捨てて、秀晶がフォローするように見せ掛け傷口を抉るような無意識という名の無神経な言葉でトドメを刺すのがこの兄妹のやり口だ。
もちろん二人共、無自覚のためいっそうタチが悪い。
まぁそれはともかく、そんな妹が口ごもるのだから、さすがに秀晶でも気付く。

怪訝そうに眉をひそめ言い出すのを待っていれば「あのね」と声が聞こえた。


『こう…携帯の電池が切れるまでで良いから、そっちでなんかイケメンの男同士がイチャついてたら写メって送ってくれない?』

「イチャついて…?」

『ああえっとつまり、プロレスの試合みたいな状態になってる感じ』

「ああなるほど」


そこで分かるのかと思う妹であったが、どちらにせよある程度の意味は通じたようだからまぁ良いかと自己解決したのだった。
実はここで照れが入り、詳しく説明しなかった事によって、今後送られてくる写真に大分影響するのだが。


「じゃあ、家の事は宜しくお願いしますよ」

『うん、お兄ちゃんも死なないように頑張ってね。 たぶん下手したら死ぬよ、お兄ちゃん』

「おぉ怖い、私はまだ死にたくはありませんからね」

『私も死んで欲しくないしね。 あ、アイスはお兄ちゃんが食べちゃっていいよ。 幸村が甘い物好きだからあげてもいいし』


それじゃあね、元気でね。 武田の人達に宜しくねと言って、プツリと向こうの世界と切れる。
画面には料金の表示がされ、それが何だかどうにも侘しくてたまらない。

向こうに戻る方法が分からない事を自覚すると、不安やら寂しさやらが一気に顔を覗かせ始めてくる。
さっきまでのふわふわした感じが嘘のようだ。


「秀晶の旦那…?」

「秀晶殿?」

「秀晶よ、どうした」


電話を切った途端、無表情で携帯を見つめたまま黙りこくっている秀晶に、順繰りに声をかけていくが反応は無い。

どうも哀愁の漂う姿に、やはり向こうに帰れない事が悲しいのだろうかと思う。

自分達は、何の言葉をかけてやることすら出来ない。


 


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