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撮った写真を送って少しすれば、またあのテンポの良い曲が流れて携帯が震えだす。

「はい」と出れば、「写メ、見た」とため息混じりな声が聞こえてきた。


『よくもまぁ、そっちがどんな状況か分かる写メが撮れるよね』

「いやぁ…」

『褒めてないから。 あぁでもどうしよう、お兄ちゃんが行くんだったら私も行きたかったのにぃい…ッ』


そしたらあんな事やこんな事が傍観出来たのにぃい。

絞り出すような、酷く残念そうな声が受話器の向こうから聞こえてきて「大丈夫ですか?」と思わず聞いてしまう。
頭の事か様子の事かは秀晶に聞かないと分からないが。

受話器の向こうの声が聞こえている佐助は、妹さん大丈夫なの? と思っていたりするのだが、こちらも頭か様子かは分からない。


「まぁ、そういう事なので。 しばらく家には帰れそうもありません」

『そりゃそうでしょうね。 今は携帯使えてるみたいだけど、電池切れたらもう連絡出来ない訳だし。 分かった、他の人には誤魔化しとくから』

「すいません」

『いいよ別に。 お兄ちゃんの所為じゃないし。 …ただ、お願いがあるんだけど…』

「なんでしょう?」


ああ、向こうで他の家族や仕事なんかが面倒な事になるんだろうと、この会話でやっと認識する秀晶だったが、それよりもソレら全てを妹が処理しなければならない事を思うと申し訳ない。

歳は十は離れている妹だ。
小さな頃は泣き虫で、いつも「お兄ちゃん、お兄ちゃん」とくっついてくる子だった。
その頃、十五歳ぐらいの秀晶は世間的に言えばあまり家に居なくなり、遊び盛りといった年頃だったが、いかんせん、その頃から秀晶は秀晶だったのだ。

慕ってくる妹が可愛くてしょうがなく、泣けばすぐに宥め「はいはい」と構ってやる。
そんな対応が功をそうしたのか、妹がいわゆる反抗期か思春期にいたり、お父さんの靴下と自分の下着を一緒に洗わないでと言い出す時でさえ秀晶は例外で、秀晶の言う事なら聞くような仲の良さだった。
おそらく、秀晶の見た目が男っぽくなかった事も関係しているだろうが。

そして秀晶も、もとからシスコンに値するほどの溺愛具合だったが今では兄も親をも通り越して、孫を見ている気分になっていた。
そんな秀晶が、お願いを聞かないはずもない。


 


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