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妹の呆れた声にハイハイと返事を返し、ちらりとこれから世話になる三人へ目を向ける。

さて、誰に電話に出てもらおうか。


「妹が挨拶をしたいから代わってくれというのですが、どなたか出て下さいませんかねぇ?」

「それは構わんが、出る、とは?」


信玄の質問に、ああそうかそういえばと思った。

この時代には携帯電話など無いのだから、現代では通じる言い回しも通用しないのだ。

これは今後も気を付けなければいけない。


「電話で人と話す事を、電話に出る、と言いましてねぇ。今まで話していた相手が変わる事を、代わると言います」


なるほど。 へぇ〜。
なんて言いながら三者三様の反応を見せ頷く三人を見て、癒されている秀晶を置いて、では誰が電話に出るか話し合い始めた。


「ここはやはり、大将たる儂が出るべきじゃろう」

「いえっ! お館様が出るほどでもございませぬ!! ここは是非、某に!!」

「それ言ったら旦那も出るほどじゃないでしょーよ。 大将達二人が出て説明するより、俺の方が上手く説明出来ますって」


さりげなく二人の説明が下手くそだと言っていないだろうか、佐助は。

あーでもないこーでもないと言い合う三人を眺めながら、ふふふと携帯を耳に当て秀晶は笑った。


「決まらないようですねぇ」

『気のせいかな…なんか聞いたことあるような声が聞こえるんだけど…』

「はい?」

『ううん、なんでもない。 とりあえず要領よさそうな人に代わってくれない?』

「分かりました」


要領、要領。
良い人ならば、と。

先ほどの言い分にぷりぷりと怒り、何かしら文句を言おうと躍起になっている信玄と幸村を相手にしていた佐助の方に、ぽんと手を置いた。

振り返る佐助の眼前に、携帯を突き出す。

ちなみに本当に眼前過ぎて鼻が当たった。


「佐助さん、お願いします」


にこやかにそう言えば、頷きながらも引きつった笑顔が返ってきた。


「秀晶殿! 何ゆえ某ではなく佐助なのでございましょうか!?」

「痛でっ!」

「なぜ儂ではないのじゃ!」

「痛でででっ!! ちょ、重っ」


幸村が佐助の右側から手で体を押しやり、身を乗り出してきて。
そして佐助の左側からこれまた手で押しやり、身を乗り出してきた信玄に押し潰された佐助は苦情を訴えるが、聞こえているのかいないのか。

この場合、おそらく前者で、ワザとだ。


 


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