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佐助の異変に気付いた幸村が慌てて声をかけるが、聞こえていないのか、もやは広がるばかり。

端から見れば織田の妹にさえ見えてきそうだ。


「秀晶殿っ、どうしても、駄目なのでござるか…?」


もやもやから遠退きながら眉を八の字にして秀晶を見つめる姿は、もはや大型犬以外の何ものにも見えなくて。

向こうに帰ったら犬を飼ってみたいなぁ、なんて変な方向に思考が飛んで行ってしまうがすぐに戻して「すいません」とこちらも困ったと笑いかける。


「私が教えるにも大して知りませんし、戦に使うにしてもこれは二台以上ないと意味がありませんからねぇ」


だから、私はお役になど立てないのですよ。

そう言ってまた「すいません」と謝って幸村同じく眉を下げて笑う秀晶を見て、今度は周りの者全ての思考が停止する。

佐助も幸村の声は聞こえていなかったというのに、それは聞こえていたのか眉間にシワを寄せてもやを引っ込め秀晶を振り返って凝視していた。


…ん?


「ど、どういう事でござるか…?」

「はい?」

「ちょっと待って、もしかして最初に言った“役に立てない”って」


教えても大した事は教えられないって意味?

復活した佐助が食い付き気味にそう問いかければ、一瞬きょとんとしたような顔をして、首を傾げて言った。


「当たり前じゃないですか」


さも事も無さ気に言われ、その清々しい感じに腹が立つ。

たしかに勘違いしたのはこちらだ。

たしかにこの男は詳しく教えろと言った時に構わないと言った。

そして自身の知識と道具の現状からして役には立てないと自分で理解し、それを示したのだろう。

それをこちらは勘違いし、なぜ教えないのかと聞いてしまったのだから、意見が食い違うのは当然だ。


しかし。


しかしだ、あまりに話の過程を飛ばし過ぎているのだ。

もうちょっと過程を盛り込んでくれても良かったはずだ、それだったのならば、こちらだって勘違いなどしなかったはずだ。

遠回りなどしなかったはずだ。


今の今まで我慢してきたが、今回ばかりは言っても良いだろう。

むしろ、今まで我慢してきたのだから、今まで我慢した勢いを全て込めて、今回は言わせてもらう。


秀晶の方を向き、息を思いきり吸い込んだ。









「分かりにくいッ!!!」









佐助の大声と、信玄の笑い声が辺りに響いた。


 


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