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「お金の事は分かったけどさ……、コレ、何?」

「コレ…ですか?」


眉をひそめ、目を細めながら絶対に何かあっても対応出来るような警戒をしている佐助が指差したものを、秀晶は手に取る。

秀晶が手にしたものは今の現代人には欠かせない、携帯電話。

まぁ今の現代人と言ってもここでは未来人なのだが、残念な事に秀晶も使い方をよく分かっていなかったりする。

たださすがに信玄達よりは知っているので、はたして自分でちゃんと説明出来るのか不安だが説明するしかない。


「コレは…そうですねぇ、携帯電話というものです」

「でんわ…? それは一体如何様な物でござろうか」


母親に隠れる子供のように、佐助の後ろから覗き込み若干舌足らずな発音で問う幸村に癒やされながら、秀晶は「はい」と相槌を打つ。


「電話とは遠くの者とすぐさま話せる絡繰りの事を言いまして、それを携帯するので携帯電話と言います。 ああ、そういえば声だけでなく文も送れますよ」

「な、なんと!」

「ちょ、旦那押さないでって痛い痛い痛い足踏んでる!!」


興奮したのか身を乗り出した幸村に足を踏み潰されたらしく、見れば佐助の足が変な方向へ向いていた。

なんとか幸村の足を退かし被害に遭った自分の足を手でさすりながら「ひでぇ…」と呟いている佐助を横目に、秀晶はパカリと携帯を開く。

充電はまだ残っているらしく、カメラのボタンを押して、未だ自分の足をさする佐助へと向け、シャッターを押す。


カシャア

「ッ!!」

「おや、今一瞬浮きましたねぇ」


三センチほど。

完全に油断していた佐助はバクバクと鳴る心臓をそのままに辺りをキョロキョロと見回す。

そしてその犯人が目の前で「おやおや」と薄ら笑いを浮かべる尾張の変態の子孫で未来人だという秀晶だと気が付くと、唇を震わせた。

言いたい事があるのに、言いたい事が有り過ぎて声が出ない。


普通、何かする気ならそう言ってくれないものか。
大体何で自分なんだ。
アンタのすぐ正面に「自分がやって欲しかった」と顔に出している大きい赤い虎が居るというのに。
小さい赤い虎は自分と同じく驚いていたようだが。

というか、何でこの人は忍である自分の隙を狙って何か仕掛けられるんだ。


結局、全ての言葉はため息となって出て行ったのだが。


 


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