15「何で自分の持ち物なのに、詳しく知らないわけ?」 あ、こっちもなんだ。 そう呟きつつ一万円札を透かしながらこちらにチラリと視線を向け、すぐに戻した佐助に秀晶は目だけ佐助に向けて口を開く。 「私だけではなく、ほとんどの人達が知りません。 お金ですからね。 これは国で作られて、世に出される。 もし国の役人以外に作り方を知っている人が居たら大問題ですよ」 「…ま、そりゃそっか」 スンスンと紙の臭いを嗅ぎ、手甲を外した手で紙の質感を確かめる佐助は少しだけ納得した。 ザラザラしていて、透かして見えるほどに薄いというのにしっかりしており、ほつれも無い。 こんなに細かい絵は見た事が無いし、手で描いたにしちゃ同じ何枚もある絵が寸分狂わず描けるとは到底思えないうえ、文字に至っては何て書いてあるかサッパリだ。 端のキラリと光って角度によって見える箇所も気になる。 それに、嗅いだ事の無い臭い。 多くの人の手に渡ったのか数多くの人の臭いもするし、食べ物の臭い、四国の長曾我部の地でよく嗅ぐ重機の油っぽい臭いもする。 煙草の臭いも、薬のような臭いも。 ただそれっぽい臭いというだけで、合っているかは分からない。 つまりは似たような違った臭い。 …確かに、信じ難いが別の地から来た事は認めよう。 今の日の本で出来る芸等ではない。 「…大将」 「うむ…。秀晶よ、この物ら、この信玄に譲ってはくれぬか」 「ええどうぞ。どうせ私が持っていても、ここでは使えないでしょうからねぇ」 どうぞどうぞとまとめて差し出す秀晶から受け取り、しばし受け取った品々を眺める。 これはかなりの額になるのではないだろうか。 秀晶の言う、一番値が低い一円玉だって、自分達の技術ではできない代物だ。 ましてや十円や百円、五百円玉の表の寺や桜などの模様なんて、美しい以外にどう言えばいい。 松永なんかの収集家には、喉から手が出るほど欲しいのではないか。 いや、喉だけでは足らないかもしれない。 そういう意味では危ないが、外交の品としては逸品だ。 そのうえ、この持ち主もおそらく稀少。 容姿も勿論、喋り方や立ち振る舞い。 少し抜けてこそいるが、これまでの行動・言動を見るからして聡明だろう 本当に未来人だとするならば、他にこの知識を渡す訳にもいかない。 ここに置いておくのが一番良い。 (15/48) 前へ* 目次 #次へ栞を挟む |